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クリアソン新宿の炎上に想う、「異端=排除」の前に考えるべきこと

2023.10.03

9月26日、Jリーグからクリアソン新宿のJ3ライセンスの交付が発表された。スタジアム基準を満たさないものの、「東京23区というホームタウンの特性」に鑑みて認められるという特例だった。これをきっかけに起こった炎上騒動について、クリアソンを取材してきた宇都宮徹壱氏が自身の想いを綴る。

 X(旧Twitter)のサッカーのトレンドに「クリアソン」が表示されていたのは9月末。Jリーグから2024年のJ3ライセンスが交付され、9月26日に東京・新宿で会見が行われた後のことであった。

 SNSでJFLクラブがトレンド入りするのは、決して珍しいことではない。例えば天皇杯でJクラブに競り勝った時がそうだし、三浦知良が所属していた時の鈴鹿ポイントゲッターズも、それなりの頻度でネット上の話題になっていた。ただし特定のJFLクラブが、今回ほどネガティブな話題に見舞われたのは、ちょっと記憶にない。しかも、本来であれば「慶事」であるライセンス交付に関連したものとなると、なおさらだ。

 「どうやらクリアソンにJ3ライセンスが下りるらしい」

 そんな情報が私の耳に届いたのは、会見の1週間前であった。クリアソンにとっては、これが2回目のチャレンジ。前回、2023年のライセンス交付は「施設基準」、つまりスタジアムやトレーニング施設に課題があるため、見送られている。クリアソンがホームタウンとしている新宿には(国立競技場を除いて)、Jクラブとしての条件を満たす施設も土地もない。その状況は、今年もまったく変わることはなかった。

 にもかかわらず、Jリーグは《施設基準に課題があるものの、東京23区というホームタウンの特性に鑑み》、クリアソンへのJ3ライセンスの交付を決定。この展開には、正直驚いた。この「特例」とも言える決定には、Jリーグの戦略転換が見て取れるのだが、本稿のテーマはそこではない。

 ライセンス交付の時点で、クリアソンはJFL5位ながら、昇格圏内の2位とは4ポイント差。さすがに1位突破は厳しい状況だが、残り7試合で勝ち点を積み上げれば、入れ替え戦を制してJ3に到達することも夢ではない。そうなればJリーグ30年の歴史で初めて、東京23区内をホームとし、かつ特定のスタジアムを持たないクラブがJリーグに迎えられることとなる。そう、この事実こそが、本稿のテーマだ。

 地方クラブとの不公平、東京23区ゆえの特例……。今回の炎上では、Jクラブサポーターの批判の矛先は、ライセンスに特例を設けたJリーグだけではなく、その恩恵を受けたクリアソンにも向けられた。批判の根底にあったのは、クラブの「異端性」にあった、というのが私の見立てである。……

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クリアソン新宿

Profile

宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。2010年『フットボールの犬』(東邦出版)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、2017年『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)でサッカー本大賞を受賞。16年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(https://www.targma.jp/tetsumaga/)を配信中。

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