SPECIAL

JFL史上最多動員を記録。当事者が明かすクリアソン新宿、国立開催の舞台裏

2022.10.14

10月9日、JFL史上2度目、改修後は初の国立開催となったクリアソン新宿vs鈴鹿ポイントゲッターズはJFL史上最多となる1万6000人超の観客動員を記録した。その舞台裏には何があったのか? 昨シーズンで選手を引退し、クリアソン新宿のクラブスタッフとしてPRやマーケティングを担当している井筒陸也氏がその経緯を伝える。

2022年4月某日:事の始まり

 代表の丸山が「国立で試合ができそう」と言った。2人で話をしている時だったと思う。

 丸さん、まだ三割くらいしか決まってないことを悪気なく十割で言ってしまう人である。そうしてたくさんの人にビジョンを語り、巻き込んでいくのがスタイルである。なので、話半分を下回る話三割で「できると良いですねえ」と頷いておくのが自己防衛。

 しかし、それから数日が経ち、社内のチャットに正式に決まったと連絡が入る。こういうことがあるから、社長という生き物との付き合い方は難しい。

3年におよぶ工事を終え、2019年11月に改修が完了した“聖地”国立競技場。昨年に東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして使用され、今季はJリーグの試合も開催されている(Photo: Getty Images)

5月中旬:コンセプトは「新宿の日」に決定

 僕の仕事はPRと、平たく言うとマーケティングということになる。PRはメインで張っているのが井筒しかいないので、リリースに向けての準備を進めていた。

 この情報は箝口令がしかれていたが、みんなもう言いたくてしかたないから、情報漏洩も怖いので早く発表したかった。

 同時に、オフィス5Fの会議室にホワイトボードを並べて、クリエイティブディレクター、アートディレクター、そして僕で、この試合のコンセプトを決めた。JFLの試合だけで、国立を味わい尽くすのはちょい厳しい。僕たちがやろうとしているのは何なのだろうということでいくつかのメタファーを持ち出したが、結論、まあ「フェス」だろうと。新宿の様々なコンテンツを持ち込んで、これは「新宿の日」だろうということで、タイトルが決まった。

 国立の住所が新宿区であることをアピールしつつ、毎年開催されそうなニュアンスも良い。あっさり決まったが、決まる時はこんなもんということでみんな納得した。あとから気づいたが、令和4年10月9日ということで、巷では、4.10.9(シンジュク)という語呂合わせだと思われていたらしい。さておき、こうしてコンセプトを立てたりすることは楽しい。

夏頃:約半年の「2レーン走行」が続く

 粛々と準備を進める。予算の策定、企業への営業、出演・出店団体との調整。この試合は半年をかけたビッグプロジェクトだが、当たり前のことながら、普段のホームゲームは止めどなく続く。直近の試合と、国立の試合と、常に2レーン走っている中で、近づくに連れて、国立のボリュームが増してくる。少し息苦しくなってくる。

9月下旬:最も貴重な一時間。「カズさん」との邂逅

 ここで外せないのは、三浦知良の存在。カズさんと自分を照らし合わせると、2ちゃんねるのまとめで「ハンターハンターの32巻から33巻が出るまでの間に暗殺教室が始まって完結したらしいwwwwwwww」というスレを思い出す。

 カズさんがJリーグの初代王者として国立でシャーレを掲げた年に、僕はこの世に生を受け、カズさんがJリーガーをやっている間に、僕はサッカーを始め、プロになり、そして引退した。時空が歪んでいる。

 会ってみたい(!?)。ということで、この試合のPRのために一本記事をつくりたいとオファーを出した。対戦相手をオウンドメディアに載せるというのも不自然な話だが、三浦知良という存在、国立という存在は、そんなしょうもない慣習だか違和感を吹き飛ばすくらいのものがある。……

残り:2,456文字/全文:4,524文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

JFLクリアソン新宿三浦知良井筒陸也国立競技場文化

Profile

井筒 陸也

1994年2月10日生まれ。大阪府出身。関西学院大学で主将として2度の日本一を経験。卒業後は J2徳島ヴォルティスに加入。2018シーズンは選手会長を務め、キャリアハイのリーグ戦33試合に出場するが、25歳でJリーグを去る。現在は、新宿から世界一を目指すクリアソン新宿でプレーしつつ、同クラブのブランド戦略に携わる。現役Jリーガーが領域を越えるためのコミュニティ『ZISO』の発起人。

RANKING