「徹底を徹底する」吉田謙監督就任4シーズン目、ブラウブリッツ秋田は、揺るがない
吉田謙監督就任初年度の2020シーズンにJ3を制して、J2の舞台は3シーズン目を迎えたブラウブリッツ秋田。14人もの選手が新加入する中でも、“圧倒的秋田らしさ”は変わらない。ザスパクサツ群馬との開幕戦で見えた新チームにみなぎるエネルギーを土屋雅史が伝える。
その指揮官の言葉は、いつだって簡潔だ。ゆえに、響き、沁みる。去年から最も継続したいことを問われると、やはり一言で言い切ってみせた。
「徹底を、徹底する」
ブラウブリッツ秋田は、揺るがない。徹底を、徹底するチームと選手たち。去年も、今年も、おそらくは来年も、吉田謙監督に率いられたブラウブリッツ秋田は、揺るがない。
「アウェイのドローで悔しがる姿」に頼もしさ
「決定機もあったので、しっかり勝ち点3を獲って次に向かって反省したかったなというのが率直な感想ですけど、キャンプから準備してきた一定の共通認識や、これぐらいは最低ラインでやらなくてはいけないことは、できたゲームだったかなと思います」
今シーズンからキャプテンを託されている飯尾竜太朗は、90分間を振り返ってこう語る。ザスパクサツ群馬のホーム、正田醬油スタジアム群馬に乗り込んで迎えた2023年シーズンの開幕戦。秋田は相手の3倍近いシュートを放つなど、攻勢の時間を長く作りながら、得点を奪い切ることができず、スコアレスドローという結果で勝ち点1を敵地から持ち帰ることになる。
「守備はゼロに抑えてくれていたので勝てた試合でしたし、僕の責任は大きいのかなと思います」と口にしたのはFWの青木翔大。2019年からの3シーズンを過ごした群馬との“古巣対決”に燃えていたストライカーは、前半の決定的なヘディングをクロスバーに阻まれ、後半のチャンスに放ったループシュートは相手GKのファインセーブに遭い、ゴールを陥れるまでには至らなかった。
一方、守備面ではほとんど群馬にチャンスらしいチャンスを作らせないまま、無失点でゲームを終えている。GKの圍謙太朗、CBの阿部海大と同様に今シーズンから秋田に加入したCBの河野貴志は、それでも「内容的にもウチが攻め込むシーンの方が多かった印象があったと思うんですけど、シュートを4、5本打たれている中でも、やられたなと思う部分があったので、そこはまだ隙があったのかなと自分では感じています」と話している。
印象的だったのは試合終了直後。アウェイで引き分けという一定の成果を得た秋田の選手たちは、一様に悔しげな表情を浮かべていた。その空気感を飯尾は敏感に察知していたようだ。
「みんな勝ち点3を獲り逃したというような感覚で、悔しそうな顔をしていましたし、僕自身も凄く悔しかったですけど、みんなが満足してなさそうで良かったなとは思いました。僕はみんなの視線が斜め上をにらみつけるような集団になっていければなと考えていて、そういう試合直後の感情って“素の感情”だと思うので、そういう悔しさを感じられるような選手がたくさんいることは頼もしかったですね」
つまりは誰1人として、勝ち点1に満足するような選手はいなかったということだ。
選手が入れ替わっても、“圧倒的秋田らしさ”は変わらない
J2での戦いも3年目に突入した今季は、昇格からの2シーズンを支えてきた少なくない主力選手が、新天地へと活躍の場を求め、旅立っていった。とりわけセンターラインはGKの田中雄大がサンフレッチェ広島へ、CBの千田海人が東京ヴェルディへ、CBの池田樹雷人とボランチの稲葉修土はそろってFC町田ゼルビアへと移籍したため、再構築を余儀なくされている。
だが、吉田監督はそんな現状も意に介さない。
「新加入、フィットではなく、秋田は秋田である。“圧倒的秋田らしさ”を表現するために、1つになってくれていると信じています」
その言葉は、“新加入”や“フィット”という概念をこのチームに用いていないことを如実に表している。
青木も全面的にその考え方へ同意する。
「もちろん去年いた選手は去年いた選手の良さがありますし、今年入ってきた選手の良さもありますからね。そこに関しては特に主力が抜けたからとか関係なく、みんな勝利のためにひたむきにやっていますし、今年は今年のこのメンバーで上に行けることを信じて、みんなトレーニングに取り組んでいます」
14人もの新たな選手がやってきたことで、新キャプテンの飯尾が抱いたという感覚も興味深い。
「同じメンバーで、同じ監督のもとで何年もずっとやっていくことには表裏があって、やっぱり凝り固まってくるというか、『これはこれぐらいやっていればいいや』という、何とも言えない空気感が出てきてしまうと思うんです。でも、今年は新加入選手が凄く多い中で、昨シーズンまでやっていた自分たちのサッカーをもう1回“点検”している感覚があるんですよね」
「徹底するところは徹底して、謙さんの求めるサッカーの軸というものはブラさずに、でも、『これはこのぐらいのレベルにまで行かないと良さが出ないよね』とか、『切り替えの部分で“行け!”ってみんな言っているけど、これぐらいで行っていても剥がされて、展開されてしまうから、全員が戻るしかなくなるよね』とか、1つずつの確認作業も含めて選手で話し合う機会も多いので、やるべきことはみんな理解しつつも、どれだけのところまで徹底しなければならないのかは、上積みになっている部分かなと思います」
そこにあるのは“圧倒的秋田らしさ”という、ブレない共通認識だけ。その明確な基準に照らされ、選手たちは切磋琢磨する日常を続けている。
J2デビュー戦の諸岡裕人が発する「もっともっと」の思い
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Profile
土屋 雅史
1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!