日本サッカーが再考すべき「若手」の定義とは?スチュアート・ウェバー(RB大宮ヘッドオブスポーツ)インタビュー前編
いよいよ2月6日に開幕するJリーグの2026特別シーズン。期待と不安が膨らむ中で注目すべきは、秋春制移行前の半年間を昇降格なしで戦う百年構想リーグを、各Jクラブがどのように位置づけているかだろう。その目標設定から昨年9月の就任経緯に日本サッカーへの提言まで、RB大宮アルディージャのスチュアート・ウェバーヘッドオブスポーツに聞いた(取材日:1月20日)。
「ヘッドオブスポーツ」と「SD」は何が違うのか?
――まずは昨年9月にRB大宮アルディージャのヘッドオブスポーツに就任された経緯を教えてください。
「きっかけは今から約1年半前に、当時から現在までレッドブルサッカーのテクニカルダイレクターを務めているマリオ・ゴメスと知り合ったことでした。それから彼とサッカーやその哲学、考え方などの様々なテーマについて長きにわたって情報交換や議論を重ねていたところ、こんな相談を受けたんです。『驚かないで聞いてほしい。実は買収した日本のクラブに欧州で実績のあるスポーツダイレクター(SD)を迎え入れて、レッドブルサッカーのスタンダードを定着させていく手助けをしてもらう案があるんだけど……』と。すると今度はユルゲン・クロップが2025年1月にレッドブルグループ・グローバルサッカー部門の責任者に就任したんです」
――マリオ・ゴメスもクロップもドイツ人ですが、SDを務めたハダースフィールドとノリッチにドイツ人監督を招へいしたり、ブンデスリーガ2部クラブから頻繁に補強したりと、もともとあなたはドイツとのコネクションが強かったですよね。
「そうですね。現在はリーズを率いているダニエル・ファルケ監督をノリッチに呼び寄せましたし、その前にはデイビッド・ワグナーをハダースフィールドに招き入れました。いずれもクラブ史上初の外国人監督(ブリテン諸島以外の出身)で3部以下のカテゴリーでしか指揮経験がありませんでしたが、ビッグクラブであるドルトムントのBチームで研鑽を積んでいたので準備ができていると判断したんです。そのトップチーム監督を務めたクロップは、現役時代にもマインツで同僚だったワグナーから私のことを聞いていたようで、話が早かったですね。
一緒に仕事をしてきた選手に目を向けても、ドイツに加えてブラジル、チリ、スペイン、ポルトガルと国やカテゴリーを問わず様々なリーグやクラブから数多くの補強をしてきました。その実績も相まって、そうしたオープンマインドな姿勢がリスクを恐れず勇敢にチャレンジしていく信条を持つレッドブルのようなグローバル組織で働く上で、適任だと評価してもらえたようです。私自身も、もちろん故郷から遠く離れて地球の反対側で仕事をするのは大きな決断でしたが、もともと海外クラブで働くことを夢見ていましたし、マリオ・ゴメスやクロップと話し合いを進めていくうちにこのプロジェクトへの理解を深めた上で彼らの凄まじい情熱に心を動かされ、双方の合意の下で就任に至りました。だから正式な在任期間はまだ5カ月ですが、すでに長くレッドブルの一員として働いているような不思議な感覚がありますね。RB大宮アルディージャのヘッドオブスポーツとして、日本で仕事ができていることを誇りに思っています」
――1月8日には、西村卓朗氏のスポーツダイレクター(SD)就任が発表されましたが、あなたのヘッドオブスポーツ職はSD職と何が違うのでしょうか?
「一般的にはどちらも似たような役割でチーム運営、選手・スタッフ編成、パフォーマンス分析、移籍・契約交渉、クラブ哲学・文化醸成、インフラ整備などの責任を負うという意味では変わりませんが、RB大宮のトップチーム、アカデミー、そして女子チーム、そのアカデミーを同時に成長・発展させていく中で、その一人ひとりの選手やスタッフと向き合い続けていくには私の体一つでは足らず、より多くの目や耳、手があったほうが行き届きやすい。さらにヘッドオブスポーツは、ドイツのRBライプツィヒ、アメリカのニューヨーク・レッドブルズ、ブラジルのレッドブル・ブラガンチーノと連携するマルチクラブ・オーナーシップ上でのRB大宮の代表者の1人でもあります。だから、ヨーロッパに戻って経営陣に予算計画のプレゼンテーションを行わなければならなかったり、ブラジルに1週間出張してスカウティングを行わなければならなかったりと、長期的・大局的な視点にも立たなければならない職務です。
その立場で数カ月を過ごしてきて感じたのが、私に足りていない日本サッカーに関する専門的な知識と経験を持ち、日本語で円滑にコミュニケーションを取れて高校サッカーや大学サッカーを含む国内のあらゆるチーム・関係者と架け橋になってくれる人材の必要性でした。そこで白羽の矢を立てたのが西村SDで、彼はウェステルローへと移籍した齋藤俊輔選手を筆頭に新卒選手を次々と戦力化して、水戸ホーリーホックのJ1昇格を手繰り寄せた敏腕の持ち主です。私たちの目指す方向性と一致している彼をスポーツ部門に加えることで、今後RB大宮としてさらなる成功に近づけると信じています」
「日本で一番プロフェッショナル」なスタッフ編成
――そうした強化現場だけでなく指導現場も増員されていますよね。昨季のトップチームスタッフは22人でしたが、今季は28人に増えています。
「まず、レッドブルのクラブはいずれもアメリカサッカー、ブラジルサッカー、欧州サッカーの各トップレベルで戦っていますが、RB大宮は買収当時は3部、現在は2部のクラブですからレッドブルの基準、さらにはJ1の基準に照らし合わせて環境面に不足があるのは仕方ありません。そこをどう改善していけるか精査していった結果、私たちはまず日本で一番プロフェッショナルなクラブを目指すことにしたんです」
――「プロフェッショナル」とはどういう意味でしょうか?
「自分たちが今すぐ変えられることを変えていく、すなわち隙を作らないということです。例えば、日本で一番のスタジアムを建てることは一週間やひと月では実現できません。でも、日本で一番のコーチ陣なら作り出すことができる。それはスカウトもドクターも同じで、リソースを改善すればいいからです。そこで生きるのがレッドブルのネットワークで、彼らにはコーチング部門、スカウト部門、メディカル部門と様々な専門部署があり、彼らを中心に頻繁に情報共有を行っています。だから、例えばサンパウロ、ニューヨーク、ライプツィヒで働いている同業者とも簡単に連絡が取れて、課題を共有したり、意見を交換したりできる。人材の派遣や現場の視察にも積極的なので、RB大宮のクラブハウスは来客が絶えずいつも賑やかなんです。私自身も毎週のようにマリオ・ゴメスやクロップと連絡を取り合っているくらいですからね」
――クロップももう二度来日していましたよね。
「彼らレッドブル関係者の顔ぶれも豪華で、ペップ・グアルディオラやユップ・ハインケスとバイエルンで6年間、クロップとリバプールで8年間共闘したフィットネスコーチのアンドレアス・コニーマイヤー、パリSG、チェルシー、バイエルンでトーマス・トゥヘルの右腕を6年間務めたコーチのゾルト・レーブなど、各分野で世界最先端を走ってきた錚々たる専門家たちと交流できるのも特長です。彼らもみな、この日本でのプロジェクトに熱意を持ってくれていますからね。そういう世界基準での成長機会を求める人材の目的地になれることもあって、RB大宮には多様で優秀なスタッフが集まりつつあります。もちろん最高のフィジカルコーチやフィットネスコーチがいても、それに見合ったジムがなければ意味がありませんから、新たなトレーニング器具やトレーニングソフトウェアも導入しているように設備への投資も怠っていません。ただ物事には順番がありますから、まずは人員体制を整えて言い訳ができないように自分たちを追い込み、一人ひとりが責任を持って期待に応えられるプロフェッショナルなクラブにしていきたいということです」
――一方、先日Jクラブのトップチームの選手数が議論の的になっていて、ドルトムントやマンチェスター・ユナイテッドなど、欧州クラブで長くプレーしたセレッソ大阪の香川真司選手が「年間0試合でシーズンを終える選手が出てはいけないと。若手含めてね。そういう選手がもっと絡める環境づくりをしなきゃいけないって意味では、Jリーグは『人が多いな』っていうのは。30人、35人っていうメンバー体制の中で。それは僕はすごく、この3年間帰ってきて思うし、それはセレッソだけではなくて、Jリーグ全体として」と、『テレビ朝日』の特番で提言していました。
「それはまさに私が日本で最初に感じたことの1つですね。トップチームの選手数が多すぎる。他のクラブに口を出すつもりはありませんが、私たちの哲学に基づいて考えるとまったく意味がわかりません。というのも、7番手のCBがどうやって出場機会を得るのか想像がつかないからです。その選手は試合に出られない、ベンチに入れないとわかっているのに、何をモチベーションに毎朝早くに起きて練習へ行くのでしょうか?そもそも、それを受け入れてしまうような選手は私たちのチームに必要ありません。向上心と野心にあふれている集団にしたいからです。だから、私たちも選手層を絞っていきたいと考えていました。そうすれば全員に出場機会を与えやすいからです。もちろん、長いシーズンを戦う中で戦線離脱や出場停止はつきものですが、その余白を残すことでユース選手のチャンスを作っていきたい。例えば、この沖縄キャンプ中も練習試合がありましたが、J1クラブを相手に若手、16歳と17歳を3人ずつピッチに立たせています。もし30~35人の選手数だったら、彼らは実力を見極めていく上で必要なプレータイムを得られなかったはずです」
「もしもベリンガムが日本に生まれていたら…」
――日本サッカー界では「若手」と聞くと、一般的に23歳以下をイメージしますが、あなたが考える若手の年齢は16歳や17歳なんですね。
「欧州サッカーでも23歳は若いほうではあります。ただ、レアル・マドリーのジュード・ベリンガムの年齢を思い出してみてください。彼はまだ22歳で、私の記憶が正しければクラブレベルで300試合近く、代表レベルで50試合近くの公式戦に出場しているはずですが、もしも彼が日本に生まれていたらどうなっていたでしょうか?大学サッカーに進んでいたら、もしかするとまだプロデビューすらできていなかったかもしれません。そう考えるともったいないですよね。そもそも23歳までにプロチームで主力になれていないと世界のトップレベルでプレーするのは難しい。実際に欧州でも統計上で、CL出場を目指すのであれば一定の年齢までに一定の出場時間を満たしていなければならないという相関関係が出ています。ベリンガムもチャンピオンシップ(英2部)がリーグ戦初出場だったように、カテゴリーは一番上ではなくてもいいですが、選手が成長するにはとにかく実戦経験が必要なんです」
――今季のCLに出場している日本人選手で言うと、守田英正選手が大卒ですが……。
「それは数少ない例外に過ぎず、過去にCLに出場した日本人選手の中でも大卒選手は片手で数えられるくらいしかいないはずで、あの三笘薫選手でさえELにしか出たことがないですよね。一方、今季のCL登録選手数を国籍別で見ると現世界王者のアルゼンチンでも30人ですから、JFA(日本サッカー協会)が本気でW杯優勝を目指すのであれば毎シーズン、少なくともそれくらいの数の日本人選手が欧州最高峰の舞台に立てるようにしていく必要がある。そのためには日本サッカー全体で海外クラブも選択肢に入れながら、23歳までに3ケタの公式戦出場試合数を記録できるようなキャリアパスを描けるようにしていかなければなりません。
というのも、日本にはそれを実現できる才能豊かな若手がたくさんいるからです。私もアカデミーや他クラブの選手、高校サッカーや大学サッカーの試合を視察するたびに興奮を抑えられなくなります。『ワオ!』と思わず何回も唸ってしまうくらいです。でも、関係者に『いい選手だね』と声をかけると、いつもこう言われるんです。『でも、まだまだ若いからこれからだよ』と。それでいつも『うーん……』と首を傾げています。18歳や19歳はもうそんなに若くなく、本来であればプロの舞台に立っているべき年齢だからです。まずはその認識から変えていくべきでしょう。もう少し視野を広げて若手を信頼する勇気を持ってほしい。日本サッカーに敬意を表しながらも、そういちイギリス人として考えています」
――ということは、昇降格がないJ2・J3百年構想リーグでRB大宮の先発平均年齢は大きく下がりそうですか?
「いや、まず大前提としてRB大宮の短期目標はあくまでも2026-27シーズンのJ1昇格です。それに向けて新たなスタッフを数多く迎え入れ、初めてプレシーズンからRB大宮の指揮を執る宮沢悠生監督の下、J2・J3百年構想リーグではチーム全体のプロセスをしっかりと確立しながら、レッドブルサッカーが求める基準に近づけていくのが最優先です。だから、確かにこの半年は若手に限らず、様々な選手を様々なポジションで試しやすい期間にはなりますが、『あの選手を使え』『この選手を使え』なんて言いませんよ。そこは宮沢監督の裁量なので『私たちのプレースタイルをしっかりと表現して、選手たちに実力を発揮する機会を与えていく勇気を持とう』とだけ伝えています。私の役目は言葉よりも環境を作ることだからです。例えば、このプレシーズンのトレーニングマッチは、すべてJ1クラブとの対戦を組んでいます。そこが私たちの目的地だからですね。格下に大差で勝つより格上相手に実力を試して、課題や改善点を洗い出したほうが次に繋がる。そういうことの積み重ねで、J1に近づけると考えています。
その一方で若返りを図っていくのは長期目標です。若手は決して期待を裏切りません。年を取って壁にぶつかった選手はその現実に背中を向けたり、迂回してしまいがちですが、彼らはその壁を正面から乗り越えようとしてくれる。その姿はチームメイトにも勇気を与えてくれますから、チームマネージメントを行っていく上でも欠かせない存在なんです。実際に私はノリッチでチャンピオンシップ優勝&プレミアリーグ昇格を2度達成する幸運に恵まれましたが、初回は4バックのうち3人が10代でしたからね。だから年齢は関係ありません。結果と育成は両立できます。ただ、同時にそのチームの中心となっていたのはテーム・プッキやティム・クルルだったことも忘れてはいけません。若手の周りにはお手本や支えとなってくれる彼らのような中堅・ベテラン選手が必要なのも事実です。アジアでは年長者を重んじる文化や伝統がありますからなおさらで、カプリーニや杉本健勇をはじめとするJリーグ全体でも屈指の実力者たちを残留させているように、RB大宮もいきなりチームの先発平均年齢を18歳にするようなことはしません。私たちの試合を楽しみにしてくれるファン・サポーターのためにも、すべての試合で勝利を目指すのは変わらないからです」
Profile
足立 真俊
岐阜県出身。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集の経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。X:@fantaglandista
