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たとえるなら「阿蘇の野焼き」。ロアッソ熊本が健全なサイクルで挑む新たな1年

2023.02.16

J2リーグでクラブ史上最高位の4位に入り、J1参入プレーオフでは昇格へと手が掛かりながら、あと一歩で悲願には届かなかった2022年シーズンのロアッソ熊本。その躍進ぶりが周囲の評価を集めた代償として、少なくない主力選手が新天地を求めて移籍を決断した。それでも、クラブには、大木武監督には、いささかのブレもない。新たなシーズンのキーワードは継続と進化。その真意を説くのは、もちろん熊本の名文家・井芹貴志だ。

2023年シーズンも『挑め!高みへ』

 4シーズンぶりのJ2復帰となった2022年シーズン、クラブ史上最高の4位でフィニッシュしたロアッソ熊本は、初挑戦となったJ1参入プレーオフでリーグ戦の上位アドバンテージを生かして決定戦まで進出。J1で16位だった京都サンガF.C.には勝ちきれず、J1昇格という結果をつかむことはできなかったが、予算規模の決して大きくないクラブでも、あと一歩のところまで行けることを証明した。

 好成績を残しながらも結果として昇格できなかったクラブの宿命として複数の主力選手が「個人昇格」したが、大木武監督以下、現場のスタッフや選手たち、さらにはクラブやパートナー企業、そしてサポーターや県民にとって、J1は決して「遠い夢」ではなくなった。

 クラブが掲げる『挑め!高みへ』という今季のスローガンには、昨季の戦いを通して得た自信とともに、結果をつかめなかった悔しさを土台にして、2023年シーズンはより明確に、昇格を目指して戦うという決意が込められている。

主力の多くが移籍。だが、今季の編成も可能性は十分

 とは言え、もちろん簡単なことではない。昨季のチームからメンバーが大きく入れ替わったからである。

 J2得点ランキング3位のFW髙橋利樹(浦和レッズ)、フルタイム出場を果たして最多アシストを記録したMF河原創(サガン鳥栖)、DF菅田真啓(ベガルタ仙台)という縦のラインにくわえ、昨年のチームで左右からの仕掛けを担っていたMF杉山直宏(ガンバ大阪)とMF坂本亘基(横浜FC)、さらには対人の強さを見せつつJ1参入プレーオフでも得点を挙げるなど、攻撃でもその力を発揮していたDFイヨハ理ヘンリー(サンフレッチェ広島→京都への期限付き移籍)と、先発に名を連ねていた6人がチームを離れた。

 また、期限付き移籍の形を取っていたFWターレスが名古屋グランパスへ復帰、最終ラインのバックアッパーとして貴重な存在だったDF酒井崇一がザスパクサツ群馬へ移籍と、主力級の選手がこれだけ1度に出るのはクラブのこれまでを振り返っても稀。見ている側の感覚としても、戦力的にかなり痛い。

 だが、昨シーズン終了後に話を聞いた際、就任からの3シーズンで感じたことのひとつとして「選手はいくらでもいると思った」と述べていたように、大木監督はむしろ、こうした選手の移籍による「新陳代謝は必要だ」ともいう。「(入れ替わりがないと)良くも悪くも慣れが出てくる。それだったら、中途半端に出るよりも一気にそれくらい出るほうがいい」と、新たなメンバーを加えてどんなサッカーを見せられるか、「自分自身も楽しみ」と公言している。

 新たに迎えた選手は、昨季のチームから抜けたポジションが中心。移籍加入はFW石川大地、MF大本祐槻、MF島村拓弥、MF大西遼太郎ら、過去に大木監督のもとでプレーした経験を持つ選手が多く、監督が志向するスタイルを知っているのは強み。また、FC東京から加入のDF岡崎慎、栃木SCから加入のMF松岡瑠夢と、若いながらもそれぞれに特徴を持つ選手のほか、今季も5人の大卒ルーキーが加入。さらにユース所属のFW道脇豊がプロ契約でトップ昇格と、大木監督が言う通り、目に見えて「新陳代謝」が進んだ。

2月8日に行われたツエーゲン金沢とのトレーニングマッチでピッチに立つ道脇。クラブ史上最年少の16歳でプロ契約を結んでいる(Photo: Takashi Iseri)

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ロアッソ熊本

Profile

井芹 貴志

1971年、熊本県生まれ。大学卒業後、地元タウン誌の編集に携わったのち、2005年よりフリーとなり、同年発足したロアッソ熊本(当時はロッソ熊本)の取材を開始。以降、継続的にチームを取材し、専門誌・紙およびwebメディアに寄稿。2017年、母校でもある熊本県立大津高校サッカー部の歴史や総監督を務める平岡和徳氏の指導哲学をまとめた『凡事徹底〜九州の小さな町の公立高校からJリーガーが生まれ続ける理由』(内外出版社)を出版。

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