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「1年目から勝負を懸ける」。キャンプからひしひしと伝わってくる、FC町田ゼルビアの“本気度”

2023.01.31

来たる2023シーズンに向けて、最も大きな“変化”があったJクラブを1つ挙げるとすれば、FC町田ゼルビアの名が挙がるだろう。フロント、スタッフ、チームのすべてで大幅な刷新を敢行。悲願のJ1昇格へ、町田の“本気度”とチーム作りの進捗はいかばかりか。現地でキャンプを取材中の郡司聡氏がレポートする。

 45分×4本のレギュレーションで実施された鹿島アントラーズとのトレーニングマッチは、11時の試合開始から4時間が過ぎようとしていた。その4本目、残り5分を切った時点でトータルスコアは3-0。試合の趨勢は決まっていたに等しい。なお、FC町田ゼルビアは10人のフィールドプレーヤーのうち4人が練習生。どこか気の抜けた空気感がピッチに舞い降りても何ら不思議ではなかったが、町田ベンチから響いてくるその声が、それを決して許さなかった。

 「もう1個前だ。いや、まだ足りない。もう1個前に行こう。よーし、そうだ!」

 ベンチからの声の主は金明輝ヘッドコーチであり、山中真コーチ。最前線に位置する練習生に対して、プレスのスタート位置を修正する声が鳴り響いていた。「失点をしないこと」(黒田剛監督)をテーマに掲げて臨んだこの鹿島戦。狙いとしていたクリーンシートで終わるため、コーチングスタッフに一切の妥協はなかった。試合後、囲み取材に応じた黒田監督は涼しい顔でこう振り返った。

 「コーチングスタッフはみな同じ目線でアプローチできていますので、チームが盛り上がるための環境作りをみんなで力を合わせてできていると思います。ラスト15分で練習生が多く入った中で、練習生も1点を決めてくれましたし、ベース作りの一環として失点をしないということに取り組んでいる中で、J1チームを相手に失点をしなかったことで自信は深まるでしょう。試合後、選手たちには失点0でいけたことは収穫だと言いました。3-1で終わるのと3-0で終わるのとでは全然違います。今日は“やる”ではなく、“やり切る”がテーマでした。それを選手たちが理解して実践してくれたと思います」

 “黒田ゼルビア”からほとばしる勝利への熱量が、練習生にも伝播したのだろうか。指揮官も喜んだ練習生のゴールシーンがそれを象徴している。

 4本目の37分、太田宏介が左サイドから供給したクロスボールを鹿島DFがクリアすると、ルーズな浮き球となった。先にボールに触れるのは、鹿島の選手か、町田の練習生か。それで勝負が決まると思われた瞬間、町田の練習生がバイシクル気味のシュートモーションに入ると、程なくしてゴールネットが揺れた。先にボールに食らいついた者がその局面を制する。チーム内に充満する“本気度”が、練習生にもいつしか伝播していた――。

「勝つためにやれることはすべてやる」。指揮官の想いにフロントも呼応

 3カ年計画を策定し、中期的スパンでJ1昇格を目指した町田のプロジェクトは、昨季限りで頓挫していた。しかもラストイヤーの2022シーズンは、まさかの10戦未勝利フィニッシュで順位は15位。一昨季、5位でシーズンを終えていたランコ・ポポヴィッチ体制2年目から3年目への期待感は、完全に裏切られた格好だ。

 こうしてクラブは新シーズンに向けて、抜本的な改革による“リスタート”を選択。およそ10年、町田の強化に携わり、J2定着までクラブを引き上げた唐井直GMを中心とした強化体制に終止符を打った。

 新強化体制のトップには、大分トリニータや清水エスパルス、そして直近はファジアーノ岡山でチーム強化に携わってきた原靖フットボールダイレクターが就任。また強化人事と並行して進められた新監督人事は、複数の候補者がいる中で、高体連屈指の名将として知られる青森山田高の黒田剛氏に落ち着いた。

 さらにクラブ改革はトップチーム周りの現場だけにとどまらず、昨年まではオーナーの立場だった藤田晋サイバーエージェント代表取締役社長がクラブの代表取締役社長を兼務することに。こうしてフロントサイドの人事も変わった。

 プロ初挑戦となる黒田監督が掲げた目標は、J2優勝。「社長就任1年目から勝負を懸ける」と息巻く藤田社長も、新監督の野心に賛同する形で積極補強を決断した。……

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FC町田ゼルビアJ2リーグ

Profile

郡司 聡

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。

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