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「徳島から海外へ」――ボアビスタに移籍する渡井理己が抱く感謝の想い

2022.08.05

7月13日、徳島ヴォルティス・渡井理己のポルトガル1部ボアビスタへの期限付き移籍が発表された。2018年の加入から4シーズン半、海外移籍の夢を後押しし、自身の成長を導いてくれたクラブに渡井は深く感謝している。「徳島から海外へ」――柏原敏氏がその想いに迫る。

 「ここまで大きくなれたり、成長できたというのは、やっぱりたくさんの方々との出会いや関わりが大きかったです。自分が高校を卒業して加入した時は、何もわからず、何もできない子どもでした」(渡井理己)

 誰からも愛され、出会いに恵まれた人徳。

 フットボールで表現されるのは鍛錬された技術だけとは限らない。選手それぞれの生きざまが色濃く表れる競技。「王子」の愛称で慕われた渡井が、徳島でどんな人物と出会い、どんな経験に影響を受けたのか。いくつかの物語を回想しながら、今夏の海外挑戦に対する想いを紹介したい。

新天地ボアビスタの本拠エスタディオ・ド・ベッサで写真におさまる渡井

成長を見守ってくれたクラブへの感謝

 プロキャリアのプロローグ。

 その関係性を育んだのが谷池洋平強化部長(当時は強化担当)。静岡学園高校の2年時から本格的に追い始め、3年時は「(東海の)プリンスリーグに毎週のように通っていました」(谷池強化部長)と静岡県へ足を運び続けて意思表示。岡田明彦強化本部長(当時は強化部長)も3年時の5月に東海プリンスリーグを視察して「自分でボールを運び出したり、考えてプレーすることだったり、練習参加する前でしたけど“絶対にできるな”という感覚がありました。直ぐにオファーしよう」(岡田強化本部長)と本格的な契約へ移行、17年7月の練習参加に至る。

 「徳島がどんな場所かもわからないでしょうし、まずは練習参加をして練習環境を観てみたいという話になりました。先生にも来ていただいて、練習も観ていただいて、うちのコンセプトの話も聞いていただきました」(岡田強化本部長)

 週末に実施された関西国際大学との練習試合(〇5-2/35分×2本)にも2本目から出場。存在感を発揮し、2本目だけで4得点を挙げたチームに貢献。ともに出場した選手たちが直感で理解するや否や、渡井にボールを集め始めてラストパスを求めたのが印象深かった。

 特に谷池強化部長との出会いが人生を変えた。

 「プロになりたいという気持ちはありました。でも、具体的ではなく、ぼんやりしたものだったので正直に言ってすごく驚きました。高校2年生の終わりぐらいから興味を示してくれていたのですが、ずっと足を運んでくれていて信頼していました」(渡井)

 そして、岡田強化本部長は海外志向だった渡井に対し、プロ初年度の18年8月にベイレBK(デンマーク1部)に練習参加する機会を与えて19歳の若者に海外の風を肌で感じさせた。

 「何もかも一人で解決しなければいけなかったことは不便さを感じました。でも、自分が目指している海外挑戦という場所がこういうことなんだなとも実感できましたし、短い期間でしたが人としても成長できたと思います」(渡井)

 帰国後は英語の語学勉強にも取り組み始め、21年からは「より本格的に始めました」(渡井)。クラブハウスのロッカーが隣のムシャガバケンガは「僕はマサ(渡井)に英語を教えているのに日本語を全然教えてくれないんだよ(笑)」。もちろん冗談ながら、普段から外国語に触れようとしていた様子が垣間見えた談話だった。「ポルトガルなので英語は通じないと思いますが、なんとかなると思っています」(渡井)。そうやって楽観できたのも、いろんな経験を経て人として成長した証だろう。

ボアビスタ会長のビトール・ムルタと握手を交わす渡井

 多くの経験を与えてくれたクラブの想いを、渡井は真摯に受け止めていた。……

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徳島ヴォルティス渡井理己

Profile

柏原 敏

徳島県松茂町出身。徳島ヴォルティスの記者。表現関係全般が好きなおじさん。発想のバックグラウンドは映画とお笑い。座右の銘は「正しいことをしたければ偉くなれ」(和久平八郎/踊る大捜査線)。プライベートでは『白飯をタレでよごす会』の会長を務め、タレ的なものを纏った料理を白飯にバウンドさせて完成する美と美味を語り合う有意義な暇を楽しんでいる。

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