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パスの効率からセットプレーの脅威まで数値化。 ブンデスリーガとAWSが提供する最新スタッツ

2022.07.12

有料放送が独占してきた放映権を無料視聴できる民間放送にも提供するなど、テレビ視聴率、観客数の減少に伴い叫ばれる人気低下へ防止策を講じているブンデスリーガ。その一環として登場したリアルタイムで試合内容と照らし合わせながら楽しめる最新スタッツの開発について、ドイツ現地の大学院でゲーム分析を学ぶcologne_note氏が紹介する。

 「我われはデータや機械学習、新しいテクノロジーを駆使して、これまで以上にファンとの距離を縮め、地球上で最も先進的なサッカーリーグになりたいと考えていました。そのためにはハードウェアやソフトウェアに巨額の投資をすることなく、新しいアイディアを数週間でテストできるパートナーが必要でした」

 ブンデスリーガを運営するドイツフットボールリーグ(DFL)の子会社、DFLデジタルスポーツのCEOアンドレアス・ハイデンは、2020年に始まったDFLとアマゾンウェブサービス(AWS)との提携の理由を説明する。このパートナーシップを通じて、ブンデスリーガはAWSが提供する人工知能や機械学習、コンピューティング、データベース、ストレージ機能を活用。ファンやビジネスパートナーのために、モバイルアプリ、ストリーミング、テレビを通じた観戦・視聴体験の向上を図っている。中でもブンデスリーガがこの2年で積極的にアピールしているのは、AWSのクラウドサービスを利用してファンに提供する“ Match Facts”と名づけられた試合のスタッツだ。

 従来はシュート数やボール保持率、走行距離といった日本でもお馴染みのスタッツがハーフタイムや試合終了後にテレビ中継やデータ会社、メディアで紹介されてきた。しかしDFLとAWSは、1試合に計360万と言われる位置データとイベントデータを試合中に収集しながら計算。ほぼリアルタイムでより高度なスタッツを提供することで、ファンの試合やプレーに対する洞察を深めていく手助けを試みている。彼らが提携開始から現在まで、どのようなデータを開発してきたのか見てみよう。

「ゴール期待値」でファンエンゲージメント強化

 DFLとAWSの提携が始まった2020年5月にまずローンチされたのは、「ゴール期待値」だ。フットボリスタ読者であればゴール期待値は聞き慣れない言葉ではないだろう。2000年代にスポーツ分析の研究分野でそのアイディアが提唱され始めてから、2010年代に研究者やアナリスト、さらには戦術ブロガーを交え、指標の測定方法や運用方法の改善と発展を目的とした議論が活発化。今ではリーグや分析会社等によって公式に算出され、パフォーマンス分析のためのKPIとして使用する協会やクラブも少なくない指標だ。

 直近10年で現場や研究分野での活用が拡大したゴール期待値。それでも専門家やいわゆるマニアにのみ注目されてきただけだった指標を、DFLはファンがテレビ中継やアプリ上で確認できるよう一般開放している。その理由をAWSは「欧州のトップリーグで1試合平均のゴール数が最も多いブンデスリーガに対する世界中のファンエンゲージメントを強化するため」と説明する。

 ブンデスリーガの活用するゴール期待値は、2017年以降のブンデスリーガにおける過去の4万本以上のシュートのデータを用いた機械学習モデルにより計算されるもの。シュートを打つ選手のゴールからの距離、ゴールに対する角度、その選手の動くスピード、シュート地点からゴールまでの相手DFの数、そして相手GKがそのゴールをカバーできているかどうかという変数をもとに算出される。

 従来のスタッツに加え、対戦する2チームのゴール期待値の総量を比較することで、質を考慮したゴールチャンスの差を数値化しながら試合内容を楽しめる。それだけでなく、得点が生まれた直後にゴールシーンのリプレイに加え、そのシュートチャンスのゴール期待値を紹介することで、得点者がいかに難しいゴールを決めたのかを定量的に理解することもできる。

 例えばVfB シュツットガルトは昨シーズン決まったゴールの中から、ゴール期待値をもとに最も難易度の高いゴール(期待値の低い状況から決まったゴール)をランクづけして紹介。その中でブンデスリーガ初得点となった伊藤洋輝のコントロールショットが見事3位にランクイン。このようにリーグだけでなく各クラブがゴール期待値を活用したコンテンツをファンに提供し始めたのも興味深い流れだ。

シュートとパスの効率も算出

 提携2年目の2021年、ブンデスリーガはさらなる指標を“Match Facts”に加えている。そのうちの一つが“Most Pressed Player”(最も多くのプレッシャーを受けた選手)だ。文字通りボールを保持する選手が試合中にどれだけ相手選手からプレッシャーを受けたかを表す指標で、ボール保持者の周りの相手選手数、それらの相手選手からの距離、そして選手の向きによって計算された値が一定のしきい値を超えた回数を、そのボール保持選手がプレッシャーを受けた回数とカウントする。……

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ブンデスリーガ

Profile

cologne_note

ドイツ在住。日本の大学を卒業後に渡独。ケルン体育大学でスポーツ科学を学び、大学院ではゲーム分析を専攻。ケルン市内のクラブでこれまでU-10 からU-14 の年代を指導者として担当。ドイツサッカー連盟指導者B 級ライセンス保有。Twitter アカウント:@cologne_note