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2人のリーダーの交差。アビスパ福岡が“5年周期”を打ち破った理由

2021.11.24

アビスパ福岡が面白い。5年ぶりに帰ってきたJ1の舞台で躍動。クラブ史上初の6連勝を達成すれば、無敗の川崎フロンターレにも土をつけてみせる。そして、10月には早くも残留が決定。4度目の昇格にして、初めて1年での降格を回避した。そんな歴史に残るシーズンを迎えた陰には、2人のリーダーの存在があった。1人はもちろん指揮官の長谷部茂利監督。そして、もう1人は辣腕を振るう川森敬史社長だ。彼らはどういう形で、このクラブに変化をもたらしたのか。20年近くアビスパを見守ってきたフリーアナウンサーの森田みきが、愛情たっぷりにその謎を解き明かす。

「理想の上司像」を体現する指揮官

 「2⼈1組でパス練習して下さい」「ツータッチでゴールまで運んで下さい」

 ⻑⾕部茂利監督は選⼿たちに敬語で指⽰を出す。

 これはある⽇の練習⾵景。私は監督の“⾔葉づかい”が気になった。サッカーの監督、コーチと⾔えば「⾛れ!球際きつく!」など、⼤きな声でゲキを⾶ばしている印象があるからだ。練習の締めくくりでは、ちょっとしたジョークも交え、和やかなムード。しゃべり⽅は冷静でとても丁寧だが、的確な⾔葉選びをしてピリッとした緊張感もある。まさに、『会社のデキる上司』。

 ⻑年チームに在籍する塚本秀樹GKコーチはこう話す。

 「シゲさん(⻑⾕部監督)は、敬語を使うというのもあるけど、感情的に話すこともないから選⼿は話しやすいと思います。よく選⼿の⽅から相談に来てますよ。ただ、きちっと線引きをしているから、馴れ合いにはなりません。あと、否定をあまりしない。選⼿の意⾒とかアイディアをよく受け⼊れます。それがもし、シゲさんの考えと違う時はしっかり説明します。⼀番は選⼿⽬線でいろいろ考えていますよ」

 まさしく理想の上司、ボスではないか。

 そういえば、試合後の監督のインタビューをDAZNで⾒たサポーターがSNSに「⻑⾕部監督が⾃分の上司だったら良いのに!」と書き込んでいるのを多々⽬にすることもあるほど。しっかりサポーターのハートも掴んでいる。

ピッチサイドで試合を見つめる社長

 試合の時、私はメディアの⽴場でピッチサイドに⽴っている。そこでも、⻑⾕部監督の選⼿への声かけ、マネジメント⼒が垣間見え、⾮常に興味深かった。

 そして試合中にもう⼀⼈、私の中でずっと気になる存在がいた。ピッチサイドから⻑⾕部監督へ熱いまなざしを送っている、アビスパ福岡の川森敬史社⻑だ。

 クラブの社⻑はスタンドの上の席で観ることが多い。そんな中、シーズンを通してピッチサイドで試合を観ていることを、私は以前から不思議に思っていた。きっと、そこに何か鍵があるに違いない。川森社⻑に話を聞いた。

 「私はスポンサーのお客様とスタンドで観戦する以外は、極力ピッチサイドで試合を観ています。ベンチワークをウォッチすることも、クラブ経営において大事なポイントだと思っているからです」

 そして、もう一つ大事にしていることは『コミュニケーション力』だという。

 「近年アビスパでもZ世代の選⼿たちがチームを構成し始めている中、チームマネジメントの上で選⼿たちとのコミュニケーションの取り方が重要なポイントだと思っています。シンプルなダイレクトコミュニケーションも大事な要素の一つです」

守護神・村上昌謙の肩を叩いて激励する川森社長

 確かに指導者の中には、コーチを介することで、選⼿と直接コミュニケーションを取らない指導方法を選択している方も多いかもしれない。

 「試合中、目まぐるしく変わる戦況やレフェリーのジャッジメントなど、激しく選手たちの感情が揺さぶられる時や冷静に指示をする時、さらには普段の練習時やオフ・ザ・ピッチも含めて、いわゆるZ世代を中心とした選手たちとのコミュニケーション力の高さが、アビスパが強豪チームに成長していく過程として、チームをまとめていく首脳陣の大事なポイントになっているのではないかと感じていました」

 Z世代とは、1990年後半から2000年代の間に⽣まれた世代と定義されており、デジタルが当たり前の時代に⽣まれてきたことから「デジタルネイティブ」とも呼ばれている。SNSで⾃分の考えや意⾒を発信することに慣れていて、オープンで平等なコミュニケーションが特徴的だ。

 そんな中、ピッチサイドで川森社⻑の⽬に⽌まったのが、2019年まで2年間に渡って⽔⼾ホーリーホックの指揮を執っていた⻑⾕部監督だった。

長谷部監督招聘の理由

 「当時敵将ながら試合中の選手との距離感など、長谷部監督のベンチワークは印象的でした。オフ・ザ・ピッチでも関わっている⼈たちのハートを掴むのが上⼿い。もちろん、他の監督たちのマネジメントもそれぞれ素晴らしいと思いますが、私はゆとり世代とZ世代では、またマネジメントの仕⽅もちょっと違うと思っていますので、そんな視点で強化部長と会話したことを覚えています」

 昨季から指揮を執る⻑⾕部監督は、就任1年⽬でJ1昇格にチームを導いた。福岡のクラブの歴史としては4度⽬のJ1昇格。これまでの福岡は2005年、2010年、2015年と5年周期でJ1昇格するという歴史を繰り返してきた。ただ、1年で降格するというジンクスもある。

 今シーズン、J1に昇格してもビッグクラブに太⼑打ちできるのか、そんな不安を抱いていたサポーターも多かっただろう。しかし、良い意味で⻑⾕部アビスパは予想を裏切った。10⽉中に残留を決め、クラブ史上初めてそのジンクスを打ち破ったのだ。

 ⻑⾕部アビスパの快進撃はサポーターたちを魅了した。

 15年ぶりに強豪・⿅島アントラーズに勝利。しかもその⿅島にリーグ2勝。8⽉のホームでは、それまで無敗で⾸位を独⾛していた川崎フロンターレに、リーグ戦で初めて⼟をつけるという快挙を果たした。

J1第26節、福岡対川崎Fのハイライト動画

 選⼿たちの頑張りはもちろんだが、評価すべきは⻑⾕部監督のマネジメント⼒のように思う。……

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アビスパ福岡川森敬史文化経営

Profile

森田 みき

福岡県出身。サッカーの仕事に魅力され、1998年にマネージメント会社社員からフリーアナウンサーに転身。Jリーグ公式映像中継リポーターとして「DAZN」「スカパー!」などで九州各チームを担当。多くの昇格降格という節目の中継に関わる。現在は大学非常勤講師・企業スピーチ研修、Jリーグチームの選手スピーチ研修などを担当。