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【月間表彰】サッカー選手が本気でキックベースに挑んだらどうなった? 湘南ベルマーレ「真夏のキックベース大会」の裏側

2021.08.20

DAZNとパートナーメディアによって立ち上げられた「DAZN Jリーグ推進委員会」の活動の一環としてスタートした「月間表彰」。2021明治安田生命Jリーグで活躍した選手、チームなどを各メディアが毎月選出。フットボリスタでは「月間MIC」(Most Interesting Club)と題し、ピッチ内外で興味深い取り組みを行ったクラブを紹介する。

7月度は「湘南のShow timeだ!真夏のキックベース大会 in 茅ヶ崎 Presented by FIELD MANAGEMENT」を開催した湘南ベルマーレを選出。「サッカー選手が本気でキックベースに挑んだらどうなるのか?」。常に楽しむことを忘れないベルマーレらしいアイディアから生まれたイベントを、同クラブPR部所属の渋谷剛氏に振り返ってもらった。

面白そうだからやってみよう

――2021年7月度の『月間MIC』に湘南ベルマーレの『真夏のキックベース大会 in 茅ヶ崎 Presented by FIELD MANAGEMENT』を選出させていただきました。まずは開催に至った経緯から教えてもらえますか?

 「ありがとうございます。コロナの影響で収益的にダメージを受けている中で、東京五輪の中断期間を活用して(収益減を)補填するような施策ができないかクラブ内で会議を行いました。『トレーニングマッチ』や、選手が出しものをするような『ファン感謝デー』というアイディアが出たのですが、前者は過密日程を戦った選手に中断期間もコンディション調整が必要なものは避けようということになり、後者もコロナ禍でファン・サポーターと直接的な交流ができないので難しいなと……」

――コロナ禍のイベント開催は万全の感染対策が求められますからね。

 「やはり選手とファン・サポーターのエリアを分けることを(イベント開催の)大前提としてアイディアを考えていた時に『サッカー選手がガチンコでキックベースやったら面白いんじゃないか?』という意見が出たんです。『おぉ!それは見たいね!』と盛り上がって、スタッフ満場一致で賛成でした。スタッフが見たいものはファン・サポーターも見たいはずだと(キックベース大会の開催を)決定しました」

キックベース大会で打席に立つ山田直輝選手

――フロントスタッフも“たのしめてるか”、ベルマーレらしいエピソードですね。(※湘南ベルマーレのクラブスローガンは『たのしめてるか。』)

 「フットワーク軽く、まずはトライしてみる風習がこのクラブにはあります。我われは大きなクラブではないので、他のクラブが行っていないことに挑戦しなければ生き残れません。キックベース大会に関しても、眞壁(潔)会長や水谷(尚人)社長、浮嶋(敏)監督にも相談したところ『面白そうだからやってみよう』とすんなり承認してもらえました」

――このイベントは、多くの企業から協賛を集めている点も素晴らしいです。

 「具体的な目標額はお伝えできないですが、想定よりも多くの協賛金が集まりました。チーム命名権やイニング冠権、球場へのバナー掲出権、サンプリング権など、普段の J リーグの試合では販売できない権利もセールスシートに落とし込んで、営業部を中心に企業を回ってお願いしました。スポンサーさんも『面白そうだね』と、キックベース大会の企画自体にも関心を持っていただけたことも大きかったですね」

球場には多くの協賛企業のバナーが掲出された

――企画が魅力的であることに加え、これまでの歴史で築かれてきた信頼関係も協賛が集まった要因としてあるのではないでしょうか?

 「そうですね。広告効果があることは当然として、我われの地域に対する考え方に共感して協賛いただいている企業も多いです。『J2に降格したら減額する』といった趣旨のことは言われたことがあまりなくて、眞壁と水谷を中心にクラブが長年培ってきた『地域のため』『市民のため』という考えに賛同いただけているのだと考えています」

――ベルマーレはフロントスタッフにOB選手が複数在籍していることも特徴です。その効果はどのようにお考えですか?

 「今だと営業に島村(毅)と猪狩(佑貴)、PR部に中里(宏司)、強化部に坂本(紘司)ですね。引退直後はネームバリューがありますが、その効果は1~2年だと思います。ただ、『選手はこういう時に●●という気持ちでプレーしています』といった選手目線での会話ができるのは強みとしてあると思います」

試合は「たたかえてるか!バチャミチーズ96」が「たましいコメて”濱田精麦チーム」に10-6で勝利

一体となって“湘南スタイル”を体現

――協賛収入について伺いましたが、チケットやグッズ収入はいかがでしたか?

 「来場者数は最低目標を1000人としていた中で1447人の来場がありました。有料のチケットを購入してキックベースを見たい方がどれくらいいるものなのか不安もあったのですが、チケット発売初日にかなり売れたので『これはいけるな』と確信しました。我われの『プロサッカー選手が本気でキックベースをやっている姿を見たい』という感覚に狂いはなかったなと(笑)。グッズもチケット販売数に連動する形で売れたので、これも具体的な金額はお伝えできませんが、両方とも目標は達成しました」

――イベントの様子はスポーツ観戦アプリ『SpoLive』(スポライブ)でも生配信されました。

 「チケット販売を最優先に考えていたので、『SpoLive』さんには『チケットの売れ行き次第で配信の有無を決定してもいいですか?』とお願いしていました。配信を決定したのは内野席のチケットが売り切れたタイミングで、告知期間はさほど長くなかったのですが視聴数はユニークユーザーで約3000人。再生回数は約5000回です。シーズンチケットの販売数が3500程、その(シーズンチケットを購入している)コアファン層は球場に来ていると考えると、想像以上の方に見ていただけました」

――『SpoLive』では試合映像だけではなく、ベンチ裏の様子など、様々な角度からイベントを視聴できる機能が面白かったです。

 「野球場では、一塁側の内野席に座ると一塁側のベンチの様子が見られないんです。三塁側も同じです。チーム編成の発表前にチケットを発売していたので、推しの選手が直接見られないという可能性も考慮して『SpoLive』さんと相談して機能を追加しました」

ベンチからも試合を盛り上げる選手たち

――露出面では、来場者にイベントの様子を『#真夏のキックベース』を付けて写真とともに投稿することを促す仕掛けも効果的でした。このハッシュタグでイベントの存在を知った人も多かったと思います。

 「実は私、イベント当日は体調を崩して現場にはいなかったんですが、このハッシュタグのおかげでイベントの様子を楽しめて助かりました(笑)。ベルマーレが面白いことをやっているという情報はクラブとしても発信しますが、ファン・サポーターから発信していただいくことにも非常に価値があると思っています」

――『#真夏のキックベース』の投稿を見ていると、ベルマーレはファンと選手の心理的な距離が近いのだろうなとも感じました。

 「J リーガーを雲の上の存在ではなく、身近な仲間のような感覚で応援していただきたいと思っています。馬入の練習場環境もそうですが、クラブは積極的に情報をオープンにしてきましたし、そうした積み重ねの結果としてファン・サポーターの方がベルマーレを身近に感じてもらえているのであればうれしいですね」

――コロナ禍で物理的な距離は取らざるを得ない状況だからこそ、今回のようなイベントを開催する意義があるのでしょうね。

 「キックベース大会は(選手の)欠席者が0人だったんですよ(※東京五輪に参加した谷晃生選手を除く)。公式戦への出場機会があまりない選手もああいう場で元気な姿を見せることができたのは良かったですね。また、選手たちは今回のイベントの開催目的を理解した上で参加してくれました。それも(イベントが)盛り上がった要因の1つだと思います。ファン・サポーターも、選手も、フロントスタッフも、コロナ禍で難しい状況の中でも全力でキックベースを楽しんだというのは、まさに“湘南スタイル”を体現できたイベントになりました」

試合中とは違う選手たちの表情が見られるのもキックベース大会の魅力

LTOゴミ拾い活動

――今回のキックベース大会では試合前に球場横の茅ヶ崎海岸で『LTO(LEADS TO THE OCEAN)ゴミ拾い活動』も開催されました。ホームゲーム終了後にも実施しているこの活動の開始経緯をあらためて教えてもらえますか?

 「多くの人が湘南と聞いて海をイメージすると思います。そうしたホームタウンの環境や財産を次世代に受け継いでいくこともクラブの役割だと考えています。昔、湘南の江ノ島の海はタツノオトシゴが生息するくらい綺麗な海だったのですが、残念ながら最近はそうではありません。LTOゴミ拾い活動を主催する『(NPO法人)海さくら』さんから『海のゴミは川から流れてくる。川のゴミは街から流れてくる。街のゴミは人が捨てている』という話を教えてもらったことをきっかけとして、ホームゲーム後に街のゴミを拾う活動を2015年から続けています。今回は特別版として海岸で行いました」

LTO活動の様子

――近年では『シャレン!(Jリーグ社会連携)』に代表されるJリーグクラブの社会貢献活動が増えてきている印象があります。

 「Jリーグクラブが持つ発信力や選手の影響力を活用して、社会の課題を解決しようとする意識がスポンサーさんや地域で高まりつつあるのは感じています。コロナ前のLTO活動ではアウェイサポーターの方の参加も含め100~200人くらいの参加がありますし、今回の茅ヶ崎海岸での活動でも『キックベース大会は見られないのですが、ゴミ拾いだけ参加します』という方もいらっしゃいました」

――ベルマーレとして『LTOゴミ拾い活動』以外にも今後、社会貢献活動を実施していく予定はありますか?

 「五輪の中断期間であった7月にクラブの体制が変更になり、新たに『社会連携部』を立ち上げました。SDGs活動や地域貢献活動に積極的に取り組む予定です。これまでも活動自体は行ってきたのですが、それがうまく世の中に伝わっていないことが課題としてあります。これまで以上に情報を発信することで『ベルマーレはこんなこともできるんだ』や『サッカーとは関係ない形でも、ベルマーレを活用すれば何かできそう』といった印象を持ってもらって、新しい取り組みが生まれやすい状況を作ろうと考えています」

――ベルマーレをプラットフォームとして様々なアイディアが集まる循環が生まれればいいですね。今後の活動も楽しみにしています。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

 「ありがとうございました。今回のキックベース大会しかり、新しいことに挑戦していく姿勢は今後もお見せします。それがクラブの価値や、地域に必要とされる存在になることに繋がると思っています。Jリーグやサッカーとは直接的に関係がなくても、『こんなことをやってみたい』というアイディアがあれば気軽にベルマーレまでお問い合わせください」

GO SHIBUYA
渋谷 剛

1982年4月18日生まれ。東京都練馬区出身
2005年4月、NPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブに普及コーチとして入団
2015年から株式会社湘南ベルマーレに所属しイベント企画、プロモーション業務を担当

Photos:©shonan bellmare

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DAZN月間表彰湘南ベルマーレ

Profile

玉利 剛一

1984年生まれ。関西学院大学社会学部卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリ開発等を担当。2018年より筑波大学大学院に所属し、スポーツ社会学を研究。修士号取得。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」管理人。footballista編集部。

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