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【月間表彰】ライバルはカフェやホテル!名古屋グランパス『テレワークスタジアム』

2021.04.21

DAZNとパートナーメディアによって立ち上げられた「DAZN Jリーグ推進委員会」の活動の一環としてスタートした「月間表彰」。2021明治安田生命Jリーグで活躍した選手、チームなどを各メディアが毎月選出。フットボリスタでは「月間MIC」(Most Interesting Club)と題し、ピッチ内外で興味深い取り組みを行ったクラブを紹介する。

2-3月度は試合前のスタジアム内メディア記者席・関係者席を開放し、テレワーク席としてご利用いただけるサービスである「テレワークスタジアム」を実施した名古屋グランパスを選出。コロナ禍ならではの企画は多くのメディアで取り上げられ、反響を呼んだ。本企画実施に至る経緯や目的、そして、今後について名古屋グランパス マーケティング部ファンディベロップメントグループの遠藤友貴彦氏に話を聞いた。

即断・即決・即実行

――まずは『テレワークスタジアム』を企画された背景について伺わせてください。サポーターの声がきっかけだったとお聞きしました。

 「今シーズンはACLや東京五輪の影響もあり、過密日程となる中で、過去実施してこなかった平日の豊田スタジアム(試合)開催が決まりました。(豊田スタジアムは)立地的に名古屋から仕事や学校の後に駆けつけるにも時間がかかる。そこで、改善策を検討すべくグランパスファミリー(グランパスのファン・サポーター)にアンケート調査を行ったところ、『名古屋からの特急電車を出してほしい』や『キックオフ時間を遅らせてほしい』など、いろんな声をいただいて。『テレワークスタジアム』はその中の1つです」

――サポーターの声を反映した企画はこれまでも実績がありましたか?

 「いくつかあります。座席までスタジアムグルメをデリバリーする『グルメ配達モニター席』は正式導入に向けてトライアル的に実施しました。あとは、ベビーカーにお子様を乗せた状態のまま試合を観戦していただける『ベビーカーファミリーシート』。需要がどれだけあるかはわからない企画も『まずはやってみよう』と挑戦しています」

――3月3日(水)に豊田スタジアムで開催予定だったガンバ大阪戦が新型コロナウイルスの影響で中止になった際も急きょ、公開練習を実施するなど、アクションの速さが素晴らしいですね。

 「小西(工己)社長がよく言うのですが、『即断・即決・即実行』。このマインドは他のクラブよりも強いかもしれません。新しい施策はメディアのみなさんにも取り上げていただきやすいですし、ファミリーの皆さんにも喜んでもらえるので」

――まさに『テレワークスタジアム』は地上波ニュースを含む、多くのメディアで露出がありました。

 「想像以上でした。キャッチーなネーミングに出来たことも良かったと我ながら思っています(笑)。取材に来ていただいたテレビ局さんからは『コロナ禍で新しいことに取り組んでいるネタは視聴者にとってニーズがある』とお聞きしました」

――実際に参加された方の感想を見聞きすると、現地スタッフさんからの気遣いを喜ばれていました。そうした1対1のコミュケーションは重視されたのでしょうか?

 「そこは意識しましたね。テレワークスタジアムのライバルはカフェやホテル。そういう場所でのおもてなしと比較されると思ったので、(参加者の)想像を超えるものを提供しようと。当日は寒かったのでブランケットやホットドリンクの用意を専任のスタッフをつけてご案内しました」

テレワークスタジアム専任スタッフの気遣いも参加者の好評を博した

――もう1つ参加者の感想で興味深かったのは、テレワーク席から見える『芝生のメンテナンス』や『スタジアムビジョンのテスト』など“業務”をコンテンツとして楽しまれていた点です。

 「こちらは想定外でした。ただ、雨など天候次第では実施されない可能性もあるもので、次回以降のテレワークスタジアムで事前告知するのは難しい部分です。(試合日の)天気予報が良い時には(告知を)検討してもいいかもしれません」

――4月14日(水)サンフレッチェ広島戦で2回目の『テレワークスタジアム』が開催されます。前回実施時に参加者から要望があった“一時退場をせずに、そのまま試合観戦ができる”『観戦チケット付きプラン』を新発売するなど、ここでもサポーターの意見をすぐに取り入れられています(※取材日:2021年4月9日)。

 「ファミリーの声を形にしている事例があると、コミュニケーションが活発になると思っていて。『観戦チケット付きプラン』の発売もコミュニケーションの1つ。前回要望をいただいたのですぐ形にしました」

――『テレワークスタジアム』『急きょの公開練習』……グランパスの施策はファン・サポーターのエンゲージメントを高めるものが多い印象ですが、社内で重視されている指標はありますか?

 「ここ数年は入場者数を意識して様々な施策に取り組んできたのですが、コロナ禍では変わらざるを得ない部分もあって……。『エンゲージメント』という言葉をいただきましたが、その重要性は増してきていると感じます。今は入場者数や収益に繋がらなくても、お客様に楽しんでもらえるものをまずやってみる。その想いは強くなっています」

マッシモ・フィッカデンティ監督に満員の豊田スタジアムを

――グランパスは2016年のマーケティング部立ち上げ以降、どういったお客様が来場いただいているかを細かく理解し、それぞれにアプローチ方法を変えるなどの取り組みで成果を挙げてきました。コロナ禍においてターゲットとする層に変化はありましたか?

 「コロナ禍だから既存のファンだけを大切にすると言うことはなく、以前と変わらず多様な層へのアプローチを継続しています。特定のファン層の来場率が減ったというデータはなく、どの層も満遍なく減っているので。新規のお客様をご招待する施策も減らしていませんし、再来場を促進する施策も継続しています」

――Jリーグ観戦者調査でグランパスはシーズンチケット保有率が39.4%というデータがあります。これは他クラブと比較すると少し低いですが、シーズンチケットを購入されるような“コアファン層”について、クラブとして理想だと考える比率はありますか?

 「まだ理想の比率を言える状況ではないですが、常に新規のお客様が来場いただけるような環境は必要だと思っています。なので、シーズンチケットで全席を埋めたいとは思っていません。大切なのは昨年よりも来場回数を1回でも増やしていただくこと。昨年2、3回だった方が今年は7、8回来ていただき、7、8回だった方にシーズンチケットで観戦いただく。そういった来場回数を増やしてもらう取組みを重視しています」

――2020年のシーズンチケット購入者におけるコロナ以降のスタジアム来場率は何%程度でしょうか?(※2021シーズン、シーズンチケット販売は見送り)

 「昨シーズン終了時で85%程度です。コロナ禍でも多くの方にスタジアムに戻ってきていただけたと思います。残りの15%もお客様に(スタジアムに行かない)理由を聞くと『日程都合』が大半。『コロナ都合』ではありませんでした。この話題は他クラブの方ともよく話をするのですが、過密日程になって平日開催も増えたので仕方ない部分もあります。うちは今月5試合もホームゲームがありますし、全試合に来てもらうのは難しい。だから、来場回数が減ってしまうことは仕方ないことですし、都合が合うタイミングで来ていただければうれしいですね」

コロナ禍でもアプローチするファン層は変わらないと遠藤氏は語る

――もう1点、グランパスのスタジアム観戦者層で特徴的なのは男女比。同じくJリーグ観戦者調査をソースにすると72.5%が男性です。

 「チケットの購入者のデータを見ても同じ結果が出ます。男性比率が高いのは悪いことではありませんが、女性が来にくい環境ではないということはちゃんとPRしなければいけないとは思っています。女性限定でチケット代が安くなる日を設けるなどの企画を考えています」

――今年から実証実験を開始された“ファン参加型スポンサーシップサービス”の『en-chant』(エンチャント)や、昨年夏に実施された『クラウドファンディング』など、共創型の施策が増えていますが、この狙いを教えていただけますか?

 「コロナ禍で無観客試合の時期もあって、Jリーグ全体に言えると思いますが、これまで以上にファン・サポーターの方に支えていただかないと経営的にも厳しい状況にあるというのが正直なところです。狙いを持って……と言うよりも、必然的にそういう形(共創型)になっているので、支えていただいた方にも還元できるサービスや仕組みの重要性は感じています」

――過密日程でお忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。試合運営に加えて、本日お話いただいたような企画業務もあって……体力的にも非常に大変な時期だと思いますが、これからも楽しい施策を期待しています。

 「ありがとうございます。先日、マッシモ(・フィッカデンティ)監督が『満員になった豊田スタジアムを見たことがない』と言っているのを聞いたので、コロナが落ち着いたら絶対に(満員のスタジアムを)見せてあげたい。ファミリーの皆さんもあの熱狂を取り戻したいと思っていると思いますので、また取材していただけるような企画を考えます!」

Photos:©N.G.E

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ビジネス名古屋グランパス

Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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