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Jリーグクラブ初の“SDGs宣言”。ヴァンフォーレ甲府が目指す未来とは

2021.07.08

2021年4月30日、ヴァンフォーレ甲府の佐久間悟社長と小柳達司選手がオンライン記者会見に登壇し「ヴァンフォーレSDGs宣言」を行った。J リーグクラブがSDGsの活動を宣言するのは初めてのこと。2か月後の6月28日には環境省とJリーグが連携協定を締結するなど、サッカー界でSDGsの取り組みは急速に推進されている。今、サッカークラブができることは何なのか。ヴァンフォーレ甲府でSDGs活動を担当する佐々木大喜氏に話を聞いた。

環境に優しいことを行うのは山梨のプライド

――「ヴァンフォーレSDGs宣言」に至る背景からお聞きします。ヴァンフォーレ甲府は以前から社会貢献に積極的なクラブです。そうした活動が評価される形で、企業の支援を集める経営手法は「甲府方式」と呼ばれ、地方クラブのモデルとなっています。ただ、2017年にクラブ史上最高の営業収益となる17億2700万円を記録して以降はスポンサー収入も含め、頭打ちの状態が続いています。現状をどのように捉えていますか?

 「そこは新たな挑戦の機会として捉えています。経営的に厳しい時代から多くの企業さんにご支援いただき、J1昇格も経験して成長を続けてきました。(ホームタウンの)甲府市や山梨県全体の人口減少や大企業の所在有無など(都市をホームタウンとする)、他のクラブと比べるとチャレンジングな環境に直面しているというのが正直なところです」

――観客動員数を伸ばせないコロナ禍において、スポンサー収入はこれまで以上に重要になります。ヴァンフォーレ甲府の営業収益におけるスポンサー収入比率は年々高まっており、2020年度は約60%を占めました。

 「スポンサー企業さんも新型コロナウイルスの影響を受けているので、2021年度の更新タイミングでは相当な減額になる可能性を危惧していました。ですが、予想よりも減少額が小さいものになり、感謝しています」

――近年は倫理的な価値が重視される時代ですし、「社会貢献に積極的」というクラブの特徴はスポンサー獲得において、これまで以上にポジティブに働くのではないでしょうか?

 「それはスポンサー企業さんと会話していても最近、強く感じます。今年度もこれまでクラブが取り組んできた社会貢献活動をあらためて評価いただき、(スポンサーの)継続を判断された企業さんも多かったので。また、2017年に設立した総合型地域スポーツクラブ『一般社団法人ヴァンフォーレスポーツクラブ」がサッカーの枠を越えて幅広いスポーツの普及を行うなど、クラブがハブとなり地域課題の解決を目指し活動していることも企業さんによく理解してもらっていると思います」

――本拠地「JIT リサイクルインク スタジアム」(2021年3月1日より名称変更)には甲府名物となっているスポンサー企業の看板が、今シーズンもずらりと並んでいます。現在、何社から支援を受けていますか?

 「270社にご支援いただいています。多くは山梨県内の企業さんです。積極的に活動を継続している社会貢献を評価していただいていますが、リーグ戦で結果を出すことでも恩返ししたいですね」

2020シーズンのリモートマッチ開催時には、観客席にもスポンサー看板が設置された

――社会貢献の延長線上にあるものだと理解していますが、2021年4月に「ヴァンフォーレSDGs宣言」を発表しました。

 「今年4月、佐久間(悟)が代表取締役社長に就任後、クラブ内で事業計画を検討する中で、これまで続けてきた社会貢献を基盤とするクラブの新しい戦略機軸としてSDGsに取り組もうと。我われの活動理念が(SDGsの目標として設定している)『17のゴール』と相通ずるものが多かったことも(宣言した)理由としてあります」

「ヴァンフォーレSDGs宣言」オンライン記者会見

――「17のゴール」のうち、ヴァンフォーレ甲府では「環境」「健康」「教育」「国際交流」を重点ターゲットとして設定しました。この4つの中では、スタジアムでの飲食販売においてデポジット方式(飲料購入時に100円を上乗せし、返却所で100円返金される)のリユースカップが使用されていることもあり、「環境」の活動イメージが強いです。

 「ご認識の通り『環境』はSDGs宣言における中心的な活動になります。2018年にはCOP24(気候変動枠組条約第24回締約国会議)にクラブとして参加し、リユースカップ使用による試合時のCO2排出量の継続的な抑制活動を世界に向けて発表しました。

 2020年には東京都市大学の伊坪徳宏教授、一般財団法人グリーンスポーツアライアンスとの共同研究でヴァンフォーレ甲府の事業活動における年間のCO2排出量を“見える化”しました。SDGs宣言においては、この新たに構築したシステムを基に、家庭に限らず企業や団体、地域において、CO2など温室効果ガスの排出量削減への行動を一体になって促すヴァンフォーレ甲府なりの具体的な取り組みを行う予定です」

COP24でヴァンフォーレ甲府の環境活動について発表した佐久間悟社長

――リユースカップの使用がごみ減量化やCO2削減に繋がる一方で、運営コスト的にはいかがでしょうか? 紙カップと比べて経済的にも“エコ”なのでしょうか?

 「検証が必要ですね。ただ、環境に優しいことを行うのは山梨のプライドだと思います。ヴァンフォーレ甲府単体で見れば、リユースカップ1回の利用にかかる費用は紙コップの約5倍程度。ここに回収場の設置や、人件費も含めると……。『エコパートナー』という形で企業にご支援いただきながら、なんとか赤字にならないように体力と集中力を絞っているのが実情です」

リユースカップを回収する「エコステーション」。看板にエコパートナー企業のロゴが掲載されている

――SDGs活動を持続可能なものにするために、活動資金の確保は重要なテーマです。ヴァンフォーレ甲府公式HPにはSDGs宣言を通じて「新しい地域経済モデルの開発やイノベーション創出を目指す」と書かれていますが、具体的な予定があれば教えてください。

 「本格的にはこれからというステータスですが、例えば『環境』については、先ほど説明した(CO2排出量を“見える化”する)ソフトウェアを開発し、特許申請しました。国内の他のスポーツ団体のみならず、スポンサー企業さんにも使っていただき、年間の事業活動で排出されるCO2量の見える化によってヴァンフォーレ甲府として新しい事業価値を提供できないかと考えています」

――「SDGs」という言葉は知っていても具体的な施策に迷われているスポンサー企業にとっては、活動を牽引してくれるクラブの存在は心強いですね。

 「実際、SDGs宣言後から新聞やテレビなど地元メディアに報道していただいた効果もあり、様々な企業さんから『一緒に取り組めることはないか』というお問い合わせをいただいています。今後は現在スポンサーではない企業さんも含めて、一緒に地元や日本を盛り上げていければと思い、勉強会への参加や、ヴァンフォーレSDGsロゴの使用権を含む、SDGs実現に向けた活動に特化したパートナーシップを準備中です。多くの企業に協賛いただけるような目的ある事業プランも準備する予定です」

サッカーだけを求めるのは違う

――「環境」以外で重点ターゲットとして設定されている「健康」「教育」「国際交流」についてもお聞かせください。まずは「健康」に関して。Jリーグの2019年観戦者調査ではヴァンフォーレ甲府は観戦者の平均年齢がJ1・J2で最年長となる48.7歳という結果が出ており、健康促進は重要課題です。

 「クラブとしてもお客様の年齢層が高いことは認識しています。行政とも協働し、2007年よりリズム運動やボールを使った運動プログラムを提供する『シニアわくわく健康運動教室』を実施しています。また、昨年からは目標を『フレイル予防』『認知症予防』と明確に定め、AI分析を行う企業と業務提携し、運動機能測定会も行っています。効果の可視化やエビデンスに基づいた指導を構築し、地道に継続実施することで、高齢化する地元の新しい環境で求められる事業の開発を始めています」

――教室や測定会の指導者はヴァンフォーレ甲府のスタッフが務めているのですか?

 「その通りです。フィットネスの専門的知識を持ったフィットネスダイレクターを中心に、一般社団法人所属の指導者ライセンスや教員免許等を保持したコーチ陣が指導しています。サッカーを通じて学んだ知識や経験をベースにしつつ、継続して健康や運動に関する知識を学び続けています。現在では年間100回近く(運動教室等を)開催するまでになりました」

――「SDGs宣言」を行った記者会見にも小柳達司選手が登壇されていましたが、ヴァンフォーレ甲府の社会貢献は現場サイドも協力的であるのが素晴らしいですね。

 「伝統的に、ヴァンフォーレ甲府の選手たちは社会貢献に協力的なマインドを持ち続けてくれています。地元の方々に支えられてサッカーができていることを理解しているので、小柳選手をはじめ、主体的にSDGs実現に向けた活動にも取り組んでみようと思ってくれています。選手会から『SDGsをもっと勉強したい』という要望に応える形で先日、勉強会も開催しました。選手会発の企画も増えてくるのではないかと思っています」

――今後は、「SDGs活動に積極的だから」という理由でヴァンフォーレ甲府に加入する選手が出てくるかもしれませんね。ピッチ外での活動経験もそのクラブに所属する価値だと思います。

 「そうですね。我われとしては、SDGsの考え方が意識せずとも自然にクラブ内外で実践されている状態になるように力を入れていきたいです。サッカー選手のキャリアは短く、セカンドキャリアでサッカーに携わるのも簡単ではありません。選手が引退後も社会に良い影響を及ぼし続けることができる人間になってもらうためにも、クラブから成長できる学びの機会は積極的に提供したいと思っています」

――「教育」はいかがでしょう? 今後、特に強化するポイントなどはありますか?

 「アカデミーに所属する中学生年代の選手に対して『インパクトプログラム』という講演会を定期的に開催しています。これは各業界の世界的にも著名な研究者を講師にお招きし、専門知識をお話いただくという内容です。私も一緒に受講していますが、難しい内容のものも多いです。ただ、そうした刺激が子供たちの学習するきっかけになればと思って。今後は、この活動を山梨県全域の中学校に対して提供できればと計画しています」

インパクトプログラムのポスター

――サッカーに直接的には関係のないジャンルの教育を提供している点が興味深いです。

 「クラブの今後を考えると、プロになる可能性があるU15(中学生年代)の子供たちに対して、サッカーだけを求めるのは違うのではないかという考えがありました。それは県内の子供たちに対しても同じです。良い大学、良い会社に入れば一生安心という時代は終わっています。(インパクトプログラムを通じて)自分で考え、未来を切り開いていけるような人材を育てる貢献ができればいいですね」

―最後は「国際交流」について。現状、対象国としてカンボジア、ラオス、ウズベキスタンの3カ国が選ばれている理由は何でしょうか?

 「カンボジアとラオスは、スポンサー企業の『日建』さんが礎を築かれた繋がりです。日建さんは同国で長年地雷除去を行っているのですが、除去後の土地を『より良い平和な社会になるように活用できないか』と、ヴァンフォーレ甲府に相談いただきました。(相談を受けて)我われの教育理念や衛生指導も含めたサッカー教室や、同国の女児が自己発現する機会に繋がればと『Mighty Girls』と名付けた女子サッカー教室を開催しています。将来的にはヴァンフォーレ甲府のサッカーに関わる指導メソッドは勿論のこと、教育理念や衛生指導を共有し、現地スタッフでスクールを立ち上げることも考えています。

 ウズベキスタンとは、佐久間(社長)が先方からの強い希望を受けて始まりました。先方との面談を積み重ねて、求めるニーズに対する理解と相互信頼を深めつつ、山梨県や日本との懸け橋となるような取り組みを産み出すことができたらと考えています」

女子サッカー教室「MIGHTY GIRLS」の練習風景

――「国際交流」に関しては、 Jリーグや他クラブでも“アジア戦略”という形で活動実績があります。ヴァンフォーレ甲府でも過去にイルファン・バフディム選手(インドネシア)の獲得実績がありますが、SDGs活動の先に、再度アジアからの選手やスポンサー獲得に繋げるビジョンはありますか?

 「あります。『国際交流』だけではなく『健康』『教育』『環境』も含めて活動内容を発信し、世界と繋がりを深めることで、スポンサー企業さんやクラブにとってもメリットのある形にするのが最終的に目指すところだと思っています」

――今日はありがとうございました。SDGsの分野でJリーグを牽引する活動をこれからも楽しみにしています。

 「ありがとうございます。地域の方々が健康になったり、子供たちに良いきっかけを与えたりするのもクラブの役割だと考えていますので、サッカーはもちろんですが、SDGs実現に向けた活動にも注目してもらえればうれしいです」

ヴァンフォーレ甲府・佐々木大喜氏

HIROKI SASAKI
佐々木 大喜

1988年8月8日生まれ。山梨県甲府市出身。明治大学経営学部で公共経営学を専攻。卒業後、食品メーカーに入社。2013年2月、株式会社ヴァンフォーレ山梨スポーツクラブに転職し、法人営業を担当。2020年4月からSDGs推進担当を兼務。

Photos:(C) VFK

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Profile

玉利 剛一

1984年生まれ。関西学院大学社会学部卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリ開発等を担当。2018年より筑波大学大学院に所属し、スポーツ社会学を研究。修士号取得。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」管理人。footballista編集部。