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サッカーと子供たちと、ちゃんと向き合う踏み出したその先に見た刺激的な新しい世界

2021.07.26

2018年5月に創設されたフットボリスタのオンラインサロンフットボリスタ・ラボ」。国外のプロクラブで指導経験を持つコーチに部活動顧問といった指導者から、サッカーを生業にこそしていないものの人一倍の情熱を注いでいる社会人大学生、現役高校生まで、様々なバックグラウンドを持つメンバーたちが日々、サッカーについて学び合い交流を深めている。この連載では、そんなバラエティに富んだラボメンの素顔とラボ内での活動、“革命”の模様を紹介していく。

今回は、小学生のサッカーチームでコーチとして活動する細田祥広さん。様々な知識や理論を積極的に吸収し実践を続ける彼に、チームの取り組みやラボでの活動について聞いた。

※『フットボリスタ第84号』より掲載。

プロレベルのツールを、小学生チームに導入


──まずは自己紹介からお願いします。

 「細田祥広と申します。出身は神奈川県川崎市で、東京で農薬メーカーに勤めています。現在は品川区にあるFCフェニックス品川という小学生チームで、いわゆる『お父さんコーチ』としてサポートさせてもらっています。きっかけとしてはもともと子供がそのチームに入っており、僕自身が中学・高校とサッカー部出身ということもあって、関わらせてもらうことになりました。ただ、子供がそのチームを辞めてしまったので、厳密には『お父さんコーチ』ではなくなってしまいました(笑)」


──お子さんが辞めた後もチームの指導を続けているのは凄いですね。

 「チームにいるのは自分の子供と同じ学年の子たちなので、みんな息子みたいな感覚でかわいいんですよね。だからその子たちが小学校を終えて卒団するまで見届けようと思い、続けることにしました。僕が見ている学年のコーチは僕含めて6人ですが、みんなお父さんコーチです。それで今後も細田さんは残るよね? と言われて、今に至ります」


──練習時間とお仕事との兼ね合いはどういった感じですか?

 「チームの練習は週5日ありますが、僕が見るのは基本的に土日です。平日夕方の練習は、OBの学生コーチが見てくれていますね。練習は平日もできるので、土日はなるべく試合を入れるようにしています」


──細田さんのチームはスポーツ映像分析で有名なHudl社のハドルアシストを導入しましたよね。実際に使ってみてどうですか?

 「コストパフォーマンスが抜群に良いと思います。うちで使っているのは一番ライトな総額約月1万円ほどのコースですが、撮った映像を送るだけでタグ付けされたものが24時間以内にアップロードされますし、シュート本数やボールポゼッションの割合といった基本的なスタッツも見られます。高校生とかなら学生が自分でタグ付けするのもいいかもしれませんが、小学生なので。僕らの規模では難しいので、そこを外注できるのがいいなと。私から相談させていただき、チーム代表も『いいよ』と言っていただきました」

分析サービス「Hudl Assist」の紹介動画


──Hudl社の髙林諒一さんはラボのメンバーでもあり、以前ゲーム分析についてのミニイベントも開催していただきました。

 「髙林さんにはFCフェニックス品川のマーケティング活動の面でもいろいろと相談させていただきました。U-12世代での導入は日本初だったので、それをキャッチコピーとして使わせてもらいました(笑)。WEBメディアの『AZrena』にもチームの活動について取材していただき、掲載してもらったことがあります」


──子供たちからの反響や指導面での効果はどうでしたか?

 「簡単に目的のシーンやデータなどを見せられるので、子供たちに試合を客観的に捉えてもらう大きな助けになりますね。例えば、ポゼッション割合は高い数値だけどシュート数は少ない試合があったとします。『ボールは持てているけどシュート数は少ないよね、じゃあなんでシュートまでいけなかったのか考えてみよう』というフィードバックができるので、子供たちの課題への気づきやレベルアップのきっかけに繋がっていると思います」


──ヨーロッパのトップクラブが使っているソフトが、日本の小学生チームに導入されているのが面白いですよね。

 「保護者にも映像をシェアできますし、コーチ陣もすごいねと驚いていました。他の育成現場の知り合いにも紹介したら、とても興味を持ってもらえましたよ。映像やデータを使ったダメ出しにならないよう気をつけさえすれば、小学生年代であっても導入する価値は大いにあると感じています。こういったツールを使って子供たちや保護者の方にもサッカーを深く、それこそfootballistaっぽく見てもらえれば。そういうふうにサッカーを見る文化に繋がっていくと良いですよね」

ラボに飛び込み、より深い学びへ


──そのようなサッカーに対する探究的な取り組み方は、今までの細田さんのサッカー経験に起因するものなのでしょうか?

 「いや、実はサッカーの試合を初めて観戦したのは中学生の頃だったんです。日本リーグの松下電器vs読売クラブの試合だったと思います。たしか会場は国立競技場で、1人で電車を乗り継いで行きました。その後、僕が高校1 年生の時にJ リーグが開幕しましたが、チケットを取るのが難しくなってしまったじゃないですか。そこまでして行かなくても良いかなと思い、熱が冷めてしまったんですね。そこでサッカーを見ることからいったん離れてしまいました。そこから2007 年くらいになって、地元ということもあり川崎フロンターレを応援している先輩から一緒に見に行こうと誘われました。そこから川崎の試合をちょこちょこ観戦に行くようになりました。とはいえ、どこか特定のチームを追いかけているわけではないですね」


──フットボリスタ・ラボに入られたのは、やっぱり息子さんがサッカーを始められて、自分で指導することになったのがきっかけでしょうか?

 「はい。息子がサッカーチームに入って僕自身もコーチとして関わるようになって、これは嘘を教えてはいけないという気持ちが生まれました。でも、ちゃんと教えるための知識もその時の自分は持っていなかったので、2017年にJFAのC級ライセンスを取って、その後JFAのスポーツマネージャーGrade2も取得しました。それで、やっぱりサッカーってちゃんと教え方があるんだということに気がついて。ラボに入会したのは2019 年でした。当時はこういったサブスクリプションサービスに入るのが初めてだったんです。不安を抱えながらも、新規会員の募集開始を待ってすぐに申し込みをしました」


──ラボを知ったきっかけは何だったのでしょうか?

 「いろいろな講演会に行っていたのですが、コーチの育成をやっている倉本和昌さんの講義で『ゲームモデルは林舞輝に聞くといいよ』と言われたんですね。それで、ゲームモデルについて調べていたら、わっきーさん(ラボメンバーの粉河高校サッカー部顧問・脇真一郎)からラボの情報にたどり着きました。様々な経験・知識を持った人たちが集まって交流をしており、ここならもっとサッカーについて学べるんじゃないかと考えました。footballista自体、マニアックで高度な知識の巣窟というか、深くてカオスなイメージを持っていたので迷う部分もありましたが、思い切って飛び込んでみたら、僕のまったく知らなかった世界が一気に広がりました」


──ラボのイベントや活動で印象に残っているものはありますか?

 「イベントはほとんど参加しましたが、どれも初めて見聞きすることばかりで面白かったですね。山口遼さんや林舞輝さんをはじめ、杉崎健さんや相良浩平さんなど、様々なプロフェッショナルの方や有識者が登壇されていますから。あとは、ミッションスポーツの満田哲彦さんのイベントが縁でビジネススクール(MSBS)にも1期生として参加しました。衝撃として残っているのは結城康平さんのイベントですね。オオカミの被り物をして話しているのに、内容はしっかりしているというギャップがすごかったです(笑)」

林舞輝さんの書籍『「サッカー」とは何か』の発売記念イベントを一部抜粋した動画


──自分の指導にプラスになったものはありましたか?

 「サッカーに対していろいろな見方ができるようになりましたね。僕は活動柄どうしても指導の比重が高くなりがちなので、やっぱりコンディショニングやピリオダイゼーションの話は興味深かったです。相良さんと山口さんに、小学生年代で公式戦前日に練習試合をやることについて質問したら『絶対にやめた方が良い』とアドバイスされて、それで実際に自分のチームで実践してみたら結果が出たということもありました。もちろん小学生は毎日練習するわけではないので、戦術的ピリオダイゼーションの理論を完全に適用できるとは言えませんが、それでも試合で100%力を発揮できるように負荷を調整するという考え方は大事なのだと実感しました」


──小学生年代であってもエッセンスの部分は同じなんですね。

 「僕自身もアカデミックにサッカーを捉えるのが好きなので、こういう知識に触れられて良かったです。僕は一般社団法人フィールド・フローでスポーツメンタルコーチの認定コーチ資格を取得しました。そこで選手、指導者、チーム関係者へフォーカスしたコーチングの手法を学びました。今後もfootballista含め、もっと勉強してサッカーに関わるための引き出しを増やしていこうと思います。ラボにも専門知識や才能を持った方やマニアックな方がたくさんいるので、交流やイベントを通していろいろなものに触れていきたいですね」


──ぜひラボメンバーでも、そういった知見をシェアしてサッカーへの理解を深めていく活動をやれるといいですよね。あと細田さんはラボのランチ会常連メンバーでもあります(笑)。

 「会社から近いので、よく参加させていただきました(笑)。僕はラボで2年過ごして、これだけ様々な知識や情報を提供してもらい、素晴らしい編集部の方々や仲間とも繋がりを作れました。だから恩返しというか、もっとラボの価値を高めるようなことができたらと考えています」


── ぜひお願いします!本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

フットボリスタ・ラボとは?

フットボリスタ主催のコミュニティ。目的は2つ。1つは編集部、プロの書き手、読者が垣根なく議論できる「サロン空間を作ること」、もう1つはそこで生まれた知見で「新しい発想のコンテンツを作ること」。日常的な意見交換はもちろん、ゲストを招いてのラボメン限定リアルイベント開催などを通して海外と日本、ネット空間と現場、サッカー村と他分野の専門家――断絶している2つを繋ぐ架け橋を目指しています。

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フットボリスタ・ラボ育成

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

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