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復活のイタリア、EURO制覇の理由。挙国一致した「モダン化」の結実

2021.07.14

10年、14年のW杯はグループステージ敗退、18年W杯は予選敗退と長い間低迷していたアズーリ(イタリア代表の愛称)が、53年ぶり2度目のEURO制覇で劇的な復活を果たした。サッカー大国は、いかにして欧州の頂点に舞い戻ったのか。イタリア在住ジャーナリストの片野道郎氏に理由を教えてもらおう。

 7戦全勝。PK勝ちが2つあったから実質的には5勝2分(90分では4勝3分)ということになるが、内容的に勝利に値しない試合があったとすれば、技術的にも戦術的にも優位に立ったスペインに終始劣勢に立たされた準決勝のみ。それ以外の6試合は「ボール支配によるゲーム支配」を中核に据えた自らのアイデンティティを歪めることなく戦い、その正当な結果として勝利を手に入れてきた。

 グループステージは3試合とも完勝。決勝トーナメントは4試合中3試合が延長となったが、スペイン戦以外はすべてボール支配率、シュート数、ゴール期待値といったデータでも相手を上回っており、その意味でも説得力のある勝利だったと言える。大会を通して最も優勝に値する戦いを見せたチームはイタリアだった、と言って反論する向きは少ないと思う。

「ボール支配によるゲーム支配」を貫き通す

 強豪国を含め大半のチームが、中核となるアタッカーの個人能力に攻撃(とりわけラスト30mの攻略)を依存し、攻守いずれの局面においても「個の寄せ集め」という域から大きく出ることがなかったこの大会の中で、イタリアの組織的な完成度は出色だった(単一の試合に話を限れば準決勝のスペインが最強だったとは思うけれど)。

 攻撃では後方からのビルドアップとポゼッションによるボールと地域の支配、守備ではハイプレスと即時奪回という明確なプレー原則がチームに浸透しており、相手が変わっても、また一部の選手が入れ替わっても、チームとしての振る舞いは一貫して変わることはなかった(マンチーニ監督がこのチームをどのようにして築いたかについては、大会前のチーム紹介をご参照いただきたい)。……

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EURO2020イタリア代表

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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