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育成年代からA代表までプレー原則を統一。イタリアサッカーの新概念「コンストラクター」と「インベーダー」とは?

2021.06.21

マウリツィオ・ビシディ(イタリア代表育成年代統括コーディネーター)インタビュー後編

ロシアW杯欧州予選で失意のプレーオフ敗退を味わったイタリア代表は、2018年10月から現在に至るまで無敗を継続。今月開幕したEURO2020でも従来のイタリアサッカー像を覆す、ポジショナルプレーをもとにした攻撃的なサッカーを披露しており、今や優勝候補の一角として期待されるまでに変貌を遂げている。

一転して結果、内容ともに充実の時を迎えている背景には、 「FIGC(イタリアサッカー連盟)の頭脳」マウリツィオ・ビシディが主導するアリーゴ・サッキの育成年代改革プロジェクトの結実がある。彼と古くから親交のあるジャーナリストの片野道郎に打ち明けた「育成改革」の全容、そして成果と課題――なかなか表には出てこない大変貴重なインタビュー(2020年11月収録)をぜひ読んでほしい。

後編では、ゲームモデル統一の是非、ビシディ考案のメソッド、データの活用方法について語ってもらった。

※『フットボリスタ第82号』より掲載。

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統一するのは「システム」ではなく「原則」

──育成メソッドを国レベルで統一することについては、諸説ありますよね。代表チームとしてのゲームモデルを統一するだけでなく、育成のメソッドまでを統一してしまうと、画一化が過剰に進んでその枠から外れたタレントが育ちにくくなるのではないかという声もあります。

 「ゲームモデルに関しては、私が総責任者になった2016 年から、育成年代の全イタリア代表に共通する明確なそれを掲げている。システムや配置とは関係なく、どのようなフィロソフィの下にどのようなサッカーをするかというプレー原則に関する話だ。ポルトガルやフランスの[4-3-3]、オランダ、ドイツの[4-2-3-1]のように決まったシステムを採用しているわけではない。というのも、システムという枠を作ることにはリスクがあるからだ。彼らが採用している特定のシステムの中でプレーする分には優秀だが、違うシステム、違うプレー原則の下でプレーするのに慣れておらず、それゆえ適応が遅い、あるいは適応できないということが起こり得る。だから私は違う原則を採用することにした。それは、その年代で最も優秀な選手たちが持ち味を発揮できるシステムを使う、というものだ。今年のU-17 に優秀なCF が2人いるなら2トップ、例えば[4-3-1-2]を採用する。別の年代に優秀なウイングがいるなら(イタリアではあまりないことだが)、ウイングを生かせる3トップで戦う、という具合だ。イタリア代表として特定のシステムを採用することはせず、それぞれの年代が生み出したタレントとそのクオリティにシステムの方を合わせる。しかし基本的なフィロソフィとそれに基づくプレー原則は可能な限り変えない」

──それは具体的にどのようなものなのでしょう?

 「一言で言うと、後方からパスを繋いで攻撃を組み立て、ボールと地域の支配を通じてゲームを支配する、攻撃的でテクニカルでコレクティブなサッカー、ということになるかな。そこさえ守られていれば、システムは[4-3-3]だろうが[3-5-2]だろうが[4-4-2]だろうが、何でも構わない。というよりも、そこは可能な限りフレキシブルであるべきだという考え方だ。他の国々は、1つのシステムをすべての年代、すべてのチームに固定的に採用しているところが多いけれどね」


──スキームではなくプリンシプル(原則)が重要だというのは、マウリツィオがずっと昔から言い続けていることですよね。

 「その通りだ。私たちは固定的なシステムではなくプレー原則に基づくゲームモデルを中心に据える、そういう考え方を浸透させることを明確に意識してきた。育成年代が一貫して[4-3-3]で戦ってきたとしても、何年後かにA代表に[3-5-2]で戦いたい監督が就任するかもしれない。我われはそこまではコントロールできないし、FIGCの体制そのものもそこまで一貫性があるものではないからね」


──実際A代表のシステムは監督が代わるたびに変わってきましたよね。

 「ああ。だから私は各年代が輩出したタレントを最良の形で成長させることに主眼を置いた。もちろん基本となるフィロソフィやプレー原則はできる限り維持し、すべての選手が持てる力を発揮できる形でチームを作ることは当然だよ。でも特定のシステムという枠にはめることはしない。枠があるとすればそれはシステムではなくタレントの持つクオリティだ」

──イタリア代表のゲームモデルは具体的にどのように定義されているのでしょう?……

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イタリア代表マウリツィオ・ビシディ育成

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。