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モダンサッカーで起きた「ポジション進化論」 ――偽9番、偽SBが生まれる必然

2021.01.25

『モダンサッカーの教科書Ⅲ ポジション進化論』イントロダクション特別無料公開

モダンサッカーの教科書Ⅲ ポジション進化論』の発売を記念して、本のイントロダクションを特別公開。2010年代のペップ・グアルディオラ登場以降の「戦術パラダイムシフト」をその現場に生きるレナート・バルディとともに解き明かす人気シリーズの第三弾は、[4-4-2]などの従来のシステム、それに従属するCFやSBなどの「ポジション」という概念の流動化が急速に進む先にある「モダンサッカーの新たなポジション論」を研究する一冊だ。

変化してきた「戦術」と「プレーヤー」の関係

 ジョセップ・グアルディオラが、リオネル・メッシ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタらを擁するバルセロナを率いて、それまでのサッカー戦術の常識を覆すようなやり方でボールとピッチを支配し、あらゆる相手を圧倒してヨーロッパの頂点に立つという、文字通りの戦術革命を起こしてから10年あまり。欧州トップレベルのサッカーは、グアルディオラが自らの戦術を発展・進化させるのと並行して、多くの監督たちがそれを研究・対策し、あるいは別な形で対抗・超越しようと、それぞれのやり方で鎬を削ることを通じて、急速かつ大きな発展を遂げてきた。その中で、サッカーというゲームに対する理解と実践の枠組みにも明らかな変化が生まれている。

 この『モダンサッカーの教科書』シリーズでは、それを「戦術パラダイムシフト」と呼び、そこには「システムからシチュエーションへ」「ポジションからタスクへ」という2つの大きな枠組みの変化があると捉えて、様々な角度からそれを取り上げてきた。シリーズ第3弾となる本書では、そのうち後者、すなわち「ポジションからタスクへ」という側面に焦点を当て、旧来的な「ポジション」という枠組みをガイドラインとしながら、それが現在進行形でどのように変化・変質しつつあるかを具体的に掘り下げようと試みた。

 「戦術」というと、どうしてもシステムや配置、あるいはゲームモデルといった組織的な側面に焦点が当たりがちだ。しかし、サッカーというゲームの主役は常にプレーヤーである。同じ1つのシステムやゲームモデルにおいても、そこでプレーする選手の特徴や個性が変われば、ピッチ上に起こる現象は異なってくるし、チームとしての振る舞いもまたそれによって少なからず左右される。その意味で「戦術」は「個」の存在抜きでは成立し得ないと言える。

 というよりもむしろ、以下本書の中で具体的に見ていくように、近年はその「戦術」そのものの構築の仕方、「戦術」と「プレーヤー」の関係のあり方が、明らかに変化してきている。監督が信じるサッカー哲学をピッチ上で実現するためのアプローチとして、あらかじめ準備され構築された「システム」、そしてそれに従属する「ポジション」という固定的な枠組みの中に選手を当てはめ、決まったパターンを遂行させるという、いわば選手をチェスや将棋の「駒」に見立てたようなやり方は、今や明らかに時代遅れとなりつつあるのだ。逆に主流となってきたのは、監督のサッカー哲学を出発点としながらも、その実現にあたってはチームが擁する「個」の能力を引き出し発揮させることを優先し、それを最大限に生かす「タスク」をそれぞれに割り振ることを通じて組織的な連係を構築するというやり方である。

 その結果として今現在、欧州サッカーのピッチ上では「ポジション」という概念そのものの「流動化」が急速に進みつつある。かつては飛んでくるシュートを手を使ってブロックするだけが仕事だったゴールキーパーには、今や両足を自在に使いこなしてビルドアップの起点となるゲームメイカーとしての役割までが期待されるようになってきた。サイドバックに対して、タッチライン際を上下動してクロスを折り返す仕事ではなく、中盤で中央に絞って守備的MFのように振る舞うこと(偽SB化)を求める監督もいる。センターフォワードといえば最前線中央に陣取って「嗅覚」を発揮しゴールを決めるスペシャリストだったが、最前線から下がってきて組み立てに絡むことでゴール前に味方が入り込むスペースを作る「偽9番」なる存在までが現れた。

 こうして「ポジション」という枠組みが流動化する中で、欧州トップレベルのチーム、そしてそこで主役を演じる選手たちはどのような原則に基づいてどのようにプレーしているのか、その結果として欧州最先端のサッカーはどのように変化しつつあるのか、そしてその先にはどんな未来が待っているのか――。

 本書は、欧州サッカー最先端の現場におけるポジションという概念の変化を総論的に論じた第1章を導入部として、第2章以降ではGKからCB、SB、守備的MF、攻撃的MF、FWまで、それぞれのポジションに求められる機能と役割、そして具体的なプレー内容に見られる変化を詳細に論じていくという構成を取っている。現在欧州で活躍するトッププレーヤーも数多く取り上げてそのプレーを掘り下げており、監督、コーチ、アナリスト、スカウトといったプロフェッショナルから純粋なサッカーファンまで、幅広い方々に楽しんでいただける内容になったと自負している。

 というわけで以下、セリエAのボローニャという最先端の現場で分析担当コーチとして活躍するレナート・バルディとの対話を通じて、プレーヤーの側から見たモダンサッカーの現在をじっくりと掘り下げていくことにしよう。

Photos: Getty Images

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モダンサッカーの教科書Ⅲレナート・バルディ戦術

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。