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ファン・ダイクは、なぜ対人守備に強いのか?林陵平のマニアック技術論

2019.05.22

リバプールのフィルジル・ファン・ダイク

林陵平のマニアック技術論 Vol.4

Virgil VAN DIJK
フィルジル・ファン・ダイク
(リバプール)
1991.7.8(27歳) 193cm / 92kg DF NETHERLANDS

海外の有名どころからマイナー選手まで幅広く網羅したゴールセレブレーションで話題になった東京ヴェルディの林陵平は、自他ともに認める「JリーガーNo.1の海外サッカーマニア」だ。そんな彼が“今見ておくべき選手”のスキルを徹底解剖。今回はプレミアリーグMVPに輝いたリバプールの守備の要ファン・ダイクの「対人守備」について。

危険な場所を消すのが、天才的にうまい

 自分はFWなのでCBとは常に対峙する立場なんですが、まず何を見るかと言えば「立ち姿」なんですね。「この選手、自信満々だな」とか(笑)。ファン・ダイクは画面越しにもそれが伝わり過ぎるくらい伝わってきますし、“どっしり感”があります。どっしり感というのは自信だったり、軽々しいミスをしなかったり、失点したら仲間を励ましたり、逆に軽いプレーをした味方に怒りに行ったり……そのすべてが含まれているんですが、一言でいうとCBとしての覚悟が素晴らしい。このレベルのCBになると、FWはちょっと勝てる気がしなくなると思います。

 まず基本ですが、ロングボールの競り合いに強くて、ボールを跳ね返してくれます。前にいる選手にとってこれが大きくて、競り合った時に「後ろにこぼれそうだな」と感じたら一度戻らなければなりませんし、全体のプレーエリアが押し下げられます。その分体力も使いますし、嫌ですよね。その点、ファン・ダイクみたいな選手が後ろにいれば前で信じて待っていられます。

 190cm以上の高さがあるのはもちろん大きいんですが、それ以上にボールの落下点に入るのが早いし、飛ぶタイミングもいい。CBとFWの空中戦の競り合いって、CBに先に飛ばれてしまうと負けなんです。上に乗っかられるともう勝てないですし、そこから無理に押しのけようとするとファウルを取られる。だから先に落下点に入って先に飛びたいんですが、うまいCBはなかなかそれをやらせてくれない。ファン・ダイクはそのスペシャリストですね。

 読みの良さはディフェンス全般にも言えて、ゴール前のクロスのポジショニングも素晴らしい。DFは、ボールとマーカーを同時に視野に収めなきゃいけないので横からのクロスにはボールウォッチャーになることが多くて、僕は“そのポイント”を狙っています。FWにとってはその点が取れるポイントを嗅ぎ分けられるのが能力ですが、DFにとっても同じでそこを消せるのがDFの才能です。

 ファン・ダイクは一番危険な場所を消すのが天才的にうまくて、常にそこにいるんです。当たり前のようにプレーしているので普通に見えちゃうかもしれませんが、ボールの位置、敵の位置、味方の位置を瞬時に判断して、一番危険な位置に立ち続けられるのは本当に凄いことで、しかもファン・ダイクは最後にボールに足を出してくるので、これは攻略できないなと(苦笑)。

ファン・ダイクは今季プレミアリーグで一度もドリブル突破されなかったことがOptaによる集計で明らかになり話題となった

ムバッペを操った芸術的守備

 ここまでベーシックな能力の話をしてきましたが、ファン・ダイクの対人守備の最大の特長は「相手のアクションを誘導すること」ですね。普通、守備は相手のアクションに対応するリアクションになります。前回のサンマクシマンのドリブルの時も話しましたが、変則なリズムだったり、飛び抜けたスピードを持った選手を相手にすると、リアクションではどうしても対応できない時があります。逆に言えば、1対1で絶対抜ける選手はそういう選手ですよね。ただ、ファン・ダイクは普通なら無理な選手にも1対1で対応できるんです。

 象徴的なのが、UEFAネーションズリーグのオランダ対フランスの試合でムバッペと相対したシーンです。ムバッペのスピードだと1対1になった時点で終わりなんですが、自分の立ち位置や体の向きでプレー方向を限定して、もう縦しか行けなくなったタイミングで足を出してボールをかっさらいました。選択肢がなくなった瞬間に自分から仕掛ける。これはもうリアクションではなく、アクションだなと感じました。単純にスピードもあるんですが、駆け引きがうま過ぎるなと。

 もう1つ、トッテナム戦でオープンスペースでの1対2のシーンがありました。ボールを持っているのはムサ・シソコ、ソン・フンミンがフリーで、DFはファン・ダイクのみ。その時に彼はハーフウェイラインからずっとソン・フンミンへのパスコースを切るポジショニングを続けて、最後はシソコの左足のシュートがバーの上を越えました。あとで本人のコメントで「あの場面ではソン・フンミンに出された方が失点の可能性が高いから、逆足でシソコに打たせた」と語っていて、あの瞬間にそこまで冷静な判断をしていたことに驚きましたね。あと全体的に力んでいないというか、リラックスしています。そういうDFと相対すると「全部読まれている」気になってくるんです。どっちにいっても止められる気がしてくるというか、判断に迷ってしまう。

上記のプレミアリーグ第32節トッテナム戦の1対2のシーン

 タックルや足を出す判断もうまくて、FWがDFを背負ってポストプレーをするシーンがあるじゃないですか。FWとしてはファーストタッチがハマれば「マイボールだな」という感覚があるんです。なぜかと言えば、DFはクサビのパスに食いついた後に自分のポジションを空けるのを嫌がるので、取れなかった後はすぐに戻ろうとします。チームによってはそもそも「食いつくな」という約束事のチームもありますからね。リバプールは比較的DFが前に出るチームですが、ファン・ダイクはFWがキープした後にもう1回足を出してノーファウルで奪うことがあります。あれはFWにとって嫌ですね。想定していないプレーですから。足の長さ、タックルの間合いだったりが独特ですよね。

 セルヒオ・ラモス、ジェラール・ピケと並んで世界で3本の指に入る守備者だと思います。その3人の中でも最も正統派タイプ。こういう選手が後ろにいるだけでチーム全体が落ち着きますし、カウンターを受けても「ファン・ダイクがいるから大丈夫か」と味方に感じさせる安心感がある。リバプールはこの選手が入って来て、明らかにチームのレベルが1つ上がりました。キックもうまくて、サイドへバシッとロングボールを通したりもします。チームのやり方によっては後ろから繋ぐサッカーもできると思いますし、この選手に関しては弱点がまったく思いつきませんね。あったら僕が教えてほしいくらいです(笑)。

<プロフィール>
Ryohei HAYASHI
林 陵平(東京ヴェルディ)
1986.9.8(32歳)186cm / 80kg FW JAPAN

東京都八王子市生まれ。東京ヴェルディのアカデミーでジュニアからユースまで過ごした。05年に明治大へ進学して頭角を現し、07年関東大学サッカーリーグで43年ぶりの優勝に貢献した。大学卒業後、09年に古巣の東京ヴェルディに加入したが、翌年に柏へ移籍する。その柏でJ2、J1優勝、クラブW杯に出場。12年7月からはモンテディオ山形にレンタル移籍、翌13年シーズンより完全移籍した。17年に水戸へ活躍の場を移し、チーム最多の14得点を記録。プロ10年目の18年、東京ヴェルディへ復帰を果たした。2019年もマニアックなゴールセレブレーションに期待。Twitter:@Ryohei_h11 Instagram:@ryohei_hayashi

Photos: Getty Images

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。