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モナコの新スポーツディレクター、ポール・ミッチェルとは何者か?

2020.07.25

 6月にモナコのスポーツディレクターに招聘されたポール・ミッチェル。フランスではほぼ無名の彼だが、リクルート界では慧眼の持ち主として数年前から話題の存在だった。

リクルーターとして大成

 今年8月で39歳。マンチェスター近郊の出身で、マンチェスター・シティとウィガンのアカデミーで育成を受けた後、ウィガンでプロデビュー。その後もハリファクス・タウン、スウィンドン・タウン、ミルトンキーンズ・ドンズなど下部リーグでプレーし、プレミアリーグ経験はないまま、足首のケガにより27歳という若さで現役を引退した。

 しかしその後、リクルーターに転身してから彼のキャリアは花開く。引退時にプレーしていたMKドンズで活動を開始すると、サウサンプトンのリクルート部門責任者となり、そこでタッグを組んだマウリシオ・ポチェッティーノ監督に請われる形でトッテナムに移籍。そこでもリクルート部門のディレクターを務めた。

 2016年にスパーズを離れることになった時には、すでに業界では注目の存在となっていて、マンチェスター・ユナイテッドやパリ・サンジェルマンも獲得を目指す中、彼が選んだのはRBライプツィヒだった。

 ちょうどブンデスリーガ1部に昇格したシーズンで、昇格初年度にして2位と大躍進。今季もUEFAチャンピオンズリーグで準々決勝に勝ち進むなどその後も上位をキープしているが、その影にはラルフ・ラングニックの片腕としてリクルート部門を担ったこの男の存在があったわけだ。

 さらにオーストリアの本家だけでなく、ニューヨークやザルツブルグ、ブラジルのブラガンチーノなど、レッドブル傘下の兄弟クラブも管轄し、ミッチェルのネットワークはグローバルに拡大している。

方向性を見失ったモナコ

 彼が最も得意とするのは、下部リーグから原石を発掘することだ。RBザルツブルクにいたサディオ・マネにプレミアリーグのキャリアを拓き、デレ・アリやトビー・アルデルワイレルド、ソン・フンミン、キーラン・トリッピアー、グラツィアーノ・ペッレ、デュサン・タディッチらの発掘にも携わった。

 ライプツィヒでは24歳以下の即戦力にターゲットを絞る明確な戦略で、元PSGのクリストファー・エンクンク(21)、ダニ・オルモ(21)らをリクルートしている。

 モナコは、キリアン・ムバッペらがリーグ優勝を果たした2016-17シーズンの栄光がはるか昔の話に思えるほど、その後は不安定な時期を送っている。

 特に18-19シーズンは、4年間指揮を執ったレオナルド・ジャルディム監督を解任してクラブOBのティエリ・アンリを迎えたものの、うまくいかずに3カ月でまたジャルディムを呼び戻すという大混乱。それがそっくり成績にも影響し、17位とギリギリで降格を免れる有様だった。

 その背景には、SDの人事も関係している。

 ポルトガル人のルイス・カンポスが司った2013年以降は、同胞の辣腕エージェント、ジョルジュ・メンデスとのリンクをフル活用してファルカオやハメス・ロドリゲス、ジョアン・モウティーニョ、ベルナルド・シウバら好プレイヤーを獲得。

 それだけでなく、チーム内にはキャラクターや安定感が育まれていた。2016年夏に彼がクラブを去った翌年にモナコは優勝したが、このチームはカンポスが残した遺産だと言える。

 しかし彼の離脱後は、元チェルシーのSDマイケル・エメナロなどディレクターも入れ替わり、方向性を見失った感が否めない。前述の監督交代のゴタゴタもしかりだ。

グループ全体を統括する立場に

 ミッチェルお披露目の席で、モナコのオレグ・ペトロフ副会長は「彼はモナコとアカデミー、セルクル・ブルージュ(ベルギーの提携クラブ)を統括する責任者となる」と紹介した。

 ミッチェルはクラブ幹部からかなりの権限を与えられているらしく、彼が着任してほどなくロベルト・モレノ監督は解任され、後任にはバイエルンを率いたニコ・コバチが招へいされた。

 フレッシュなブレーンの起用には、新時代を切り拓こうというモナコの覚悟が見て取れる。ミッチェルにとっても、より全体を統括するSDの役職は初挑戦だが、むしろ腕の見せどころといわんばかりに、大いにやりがいを感じていることだろう。

 「我々がやるべきは、指揮官が結果を出せる環境を整えること。安定、高いクオリティ、インテンシティ、選手たちのメンタル面のケアも重要だ。9位(19-20シーズンの順位)で満足する者はいない。自分が目指すものは明らか。このチームがダイナミックで、アグレッシブで、勝利を目指して戦う集団となることだ」

 そう抱負を語ると同時に、リーグ上位をキープする安定した実力を養うべく、綿密なプランに沿い、時間をかけて根気よく取り組むことを誓った。

 ミッチェルが構築するモナコがこれからどのようなクラブに成長していくのか。まずは(人員削減がメインになるらしいが)この夏のメルカート状況も合わせて注目したい。


Photo: Getty Images

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小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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