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元セレソン、フレッジが激走。「ツール・ド・フレッジ」がもたらした寄付と夢

2020.06.13

 1人の選手が身体を張ってクラブとサポーターを盛り上げ、同時に、新型コロナウイルス感染拡大によって経済的打撃を受けた人々に手を差し伸べる。しかも、本人が一番楽しそうにやってのける。それが5月31日、クルゼイロからフルミネンセへの移籍が発表されたばかりの元ブラジル代表FWフレッジだ。

クラブに配慮した条件で古巣復帰

 フレッジにとって、フルミネンセは2009年から2016年に渡ってプレーした古巣でもある。前回の所属時代には、ブラジル全国選手権得点王や年間MVPを獲得する活躍を見せ、クラブの2度の全国優勝にも貢献した。

2014年のインタビュー時の様子。気配り上手なナイスガイだという(Photo: Kiyomi Fujiwara)

 その後はアトレチコ・ミネイロとクルゼイロでも活躍。現在36歳ながら衰えを知らないヒーローの復帰は、それだけですでにフルミネンセサポーターを大いに歓喜させている。

 移籍に際し、まだ開幕日も決まっていないブラジル全国選手権が始まるまでは、給料は国が定める最低賃金の2倍(1045レアル×2=2090レアル、約5万5000円)とするなど、このパンデミックによって経済的に苦しむクラブに配慮もしている。

 そして、サポーターがロードムービーのように見守ったのが、彼がオンライン入団会見翌日から敢行した走行距離600kmのチャリティー自転車ツアー「ツール・ド・フレッジ」だ。

ファンはネット上で応援

 旅の出発点は、この移籍を象徴するため、これまでの住まいだったミナスジェライス州ベロ・オリゾンテで、目的地はリオデジャネイロにあるフルミネンセの本部。最短距離なら445kmのところ、外出規制の今、行く先々でフレッジ見たさに人が集まるのを避けるため、山の中を進むルートを選んだ。

 そして1km進むごとに、彼自身からの食料品の寄付を加算していく。フルミネンセに務める給料の低い職員と、ファベーラと呼ばれるブラジルのスラムに住む人々に渡るものだ。

 「家から出ず、映像を通して応援して欲しい」とサポーターに頼み、道中の様子は頻繁に彼のインスタグラムのストーリーにアップ。そこでは、この「ツール・ド・フレッジ」に共感した人がスワイプアップすると、寄付に参加できる仕組みにもなっていた。

 プロサッカー選手である以上、無謀な冒険ができるわけではない。しかし、彼は4カ月間、自転車を使ったフィジカル強化に取り組んでいた。特に3月半ばにサッカーの試合が中断されてからは、週に3、4回はペダルを漕ぎ、1回につき50km以上、走ってきた。フィジカル、メンタルともに万全の準備をして臨んだのだ。

 彼のパーソナルフィジカルコーチが一緒に自転車で併走。その他、自転車のメカニック、理学療法士、カメラマン、このプロジェクトを発案したフレッジの代理人が2台の車に分乗して同行する、コンパクトなチームだった。

過酷な600kmの道のりを走破

 山の中だけに舗装されていない赤土の道が大半で、上り坂も多い。自転車を押して歩くしかない場所もあった。暗くなると同行する車のヘッドライトしか灯りがない。標高が高いため、昼間は炎天下で、夜はかなり冷え込む。雨でぬかるみ、車が通れない場所に出くわした時は、車は別ルートで先回りし、フィジカルコーチと2人だけでの自転車の旅となった。見ているだけでも過酷さが伝わる旅だった。

未舗装の山道が続く過酷な行程を、フレッジは力強く走破した(Photos: Gustavo Lovalho)

 フレッジは真面目な反面、根っからのエンターテイナーでもある。インタビューなどで会うと、いつも変わらず、非常に人に気を配る、優しい人物だ。この旅でも、途中、栄養補給や水分補給のために休憩する時には、消耗した素顔を見せながらも、いろいろなおしゃべりをストーリーにアップしていた。

 また、フォークがなければアルコールジェルで手を殺菌し、手づかみでパスタを食べ、冷めたピザにも平気でかぶりついた。深夜に宿にたどり着いた時は、毎晩、疲労困憊だった。

 600kmのうち、豪雨で自転車走行が不可能となった75km以外は、MTBとE−MTB(電動アシスト付きMTB)を使い分け、5日間で走り切った。サポーター、選手仲間、他競技のアスリートなど共感する人は多く、寄付金の合計金額はまだ発表されていないが、初日だけで4000を超える食料品セットに値する金額になった。

多くの共感を呼び、多数の食料品セットを寄付できることになった(Photo: LUCAS MERÇON/FLUMINENSE FC )

「一生忘れられない旅になった」

 最後は混乱を避けるため、朝、暗いうちに宿を出発し、クラブの旗を掲げながらフルミネンセ本部に到着した。いつもの陽気でショーマンシップにあふれた彼とは違い、静かな感動と決意に満ちた表情がとても印象的だった。

 彼のインスタグラムやフルミネンセの公式SNSには「感動した!」「泣いた!」「震えた!」というサポーターのコメントがあふれた。

 この「ツール・ド・フレッジ」で彼が乗った2台のMTBはその後、チャリティーオークションに出されている。その収益もすべて、さらに多くの人々を救うための寄付に回る。

 そして、フレッジ自身「一生忘れられない、心に刻まれる旅になった」と振り返ったのと同時に、映像を通じて一緒に旅したサポーターたちが、新たな夢の始まりを実感した。サッカーが再開すれば、彼のプレーに歓喜し、ともに戦っていくことだろう。


Photos: Kiyomi Fujiwara, Gustavo Lovalho, LUCAS MERÇON/FLUMINENSE FC, Getty Images

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クルゼイロフルミネンセフレッジ

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。