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ブラジルはアンチェロッティを待つべきなのか?国内の複雑な思いと“1年暫定監督”ジニスへの期待

2023.07.23

7月5日、ブラジル代表の新監督就任会見が行われた。2022年W杯カタール大会から半年以上を経て、ついに、というわけではない。壇上のフェルナンド・ジニス監督とCBF(ブラジルサッカー連盟)の契約は1年間。現在率いているフルミネンセと掛け持ちで指揮を執るという発表だった。

「喜びと名誉が入り混じった気持ちだ」

 エジナウド・ロドリゲスCBF会長の意中の監督は、周知の通りレアル・マドリーのカルロ・アンチェロッティだ。クラブとの契約が終了する来年6月から、彼がブラジル代表を引き受けるという前提が、今や既定路線のように語られている。

 ただ、その後も監督人事についてのニュースが、メディアの話題に上らない日はない。先日はアンチェロッティが記者会見で「もうブラジルの話をするつもりはない。来年どうなるかは、今後考えることだ」と宣言した。ブラジル側をトーンダウンさせる意図もあったと伝えられている。

 その状況の中でジニスを招へいした会長は、就任会見の席でこう説明した。

 「ジニスを選んだ理由は、監督として尊敬すべき経歴と、その試合のスタイルやサッカーの見方に基づいたものだ。選手たちが彼への尊敬や称賛を語っているのも聞いた。彼の人柄やプロとしての倫理観も重視した」

 当初からジニスを含め、次期監督候補として名前が挙がっていた監督たちが他にもいる。ただ、然るべき経歴とクオリティを持ちながら“Bプラン”と呼ばれ、“アンチェロッティを待つための1年間の代行監督”という立場を良しとする人は、なかなかいないだろう。それを受け入れる意欲や野心を持つ若手が必要だった。それがジニスだ。

 ジニスは49歳、選手としてはパウメイラス、コリンチャンス、フルミネンセ、フラメンゴなどでMFとしてプレーし、2009年に監督に転身した。中小規模のクラブを歴任した後、2018年のアトレチコ・パラナエンセを皮切りに、フルミネンセ、サンパウロ、サントス、バスコ・ダ・ガマといったブラジルのビッグクラブを手がけるようになった。監督として獲得した最大のタイトルは、今年4月に制したフルミネンセでのリオデジャネイロ州選手権。そして現時点、フルミネンセは第15節を終えた(全38節)ブラジル全国選手権2023で20チーム中5位につけている。

 経歴だけで見ると、ジニスを2026年W杯に向けた正式な監督に据えることは、CBFにとって大きな賭けだとも言われていた。だからこそ、1年契約の暫定監督という形で訪れた今回のチャンスを、彼は「夢の実現」と表現し、この挑戦に意欲を燃やしている。

 就任会見では、第一声で率直に気持ちを表現した。

 「この場にいられること、ブラジル代表を指揮するという使命のために招へいされたことに、喜びと名誉が入り混じった気持ちだ」

7月5日の就任会見で握手するフェルナンド・ジニス監督とエジナウド・ロドリゲスCBF会長(Photo: Rodrigo Ferreira/CBF)

ネイマールたちの支持と「兼任」への危惧

 ブラジル国内では、ジニスの就任は歓迎されている。辛口のコメンテーターやジャーナリストたちも、良い選択だと言う人がほとんどだ。

 それどころか「今シーズン、もしアンチェロッティがあらゆるタイトルを勝ち取り、もう1年レアル・マドリーで、という話になったとしても、ジニスがうまくいっていたら続行でいいじゃないか」という声もある。「逆にレアル・マドリーが苦しいシーズンを過ごした場合も、CBFはアンチェロッティに来てほしいと願い続け、ジニスから交代させるのか?」という人までいる。期待が大き過ぎるのではと心配になるほどだ。……

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Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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