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名古屋へ今夏加入のレレが出場不可…「公式試合」の解釈に学ぶ、シーズン途中選手獲得の留意点

2025.08.12

クラブW杯開催前に特別ウインドウも開いたこともあり移籍が活発化している今夏、名古屋グランパスに激震が走った。2025シーズン前半戦はフルミネンセFCで、ブラジルサッカー連盟が「FIFAの定める公式戦には該当しない」と定めている州選手権に出場後、セアラーSCへ貸し出されて公式戦でプレーしていたレレ。そのレンタル加入を6月12日に発表した名古屋だが、手続きを進めるにあたってFIFAに確認したところ「州選手権はFIFAの定める公式戦に該当する」との回答を受け、同選手を今季起用すれば「選手は1シーズン中に(中略)2つのクラブの公式試合にのみ出場できる」という、FIFAルールに抵触してしまうことを7月9日に公表していた。この「公式試合」をめぐる解釈の相違について、サッカー関連紛争の手続代理人を務める杉山翔一弁護士に解説してもらった。

 2025年7月9日、名古屋グランパスが、期限付き移籍による獲得を公表していたレレ選手について[1]、「選手は1シーズンに2クラブの公式試合にしか出場できない」ルールがあるため、2025シーズンの公式戦に出場できないとFIFAより回答があったことを発表しました[2]。

 この「選手は1シーズンに2クラブの公式試合にしか出場できない」というルール[3](以下「FIFAルール」)は、有名な規則である一方、FIFAと国内協会の「公式試合」の解釈に対する見解の相違を原因として、過去にもクラブがシーズン途中に獲得した選手が「公式試合」に出場できない事態が生じたことがありました。

 以下では、レレ選手の事例と他の事例を比べながら、FIFAルールの解釈を明らかにし、クラブがシーズン途中で選手を獲得する際の留意点をまとめていきます。

なぜレレが出場できない事態が生じたのか?

 レレ選手は、今シーズン当初はブラジルサッカー連盟(CBF)に所属するフルミネンセFCの登録選手であり、ブラジルの州選手権に出場した後、同じくCBFに加盟するセアラーSCに期限付き移籍し、ブラジル1部リーグ(カンピオナート・ブラジレイロ・セリエA)の公式戦に出場しました。名古屋グランパスでの登録は、レレ選手にとっては同一シーズン3クラブ目の登録にあたります。

 名古屋グランパスは、CBFの「州選手権はFIFAの定める公式戦には該当しない」という条項などを理由に、登録としては3クラブ目であっても、「公式試合」の出場としては2クラブ目であると考えて選手を獲得したものと推測されます。しかし、7月4日に、FIFAより、「州選手権はFIFAの定める公式試合に該当する」と回答があったため、同選手を今シーズン名古屋グランパスのJ1リーグ等の「公式試合」に出場させることを断念したものと考えられます。

 仮に、名古屋グランパスがレレ選手をJ1リーグの試合に出場させた場合、同選手は、「出場資格のない選手」とみなされ、出場試合が没収試合(0-3の敗戦扱い)となる可能性がありました。FIFAの回答後、名古屋グランパスがレレ選手を出場させることを断念したことについては、致し方ない判断であったと思われます。

「公式試合」の解釈を導くベン・アルファの判例

 FIFAルールにいう「公式試合」の解釈を明らかにした、リーディングケースともいうべき事案があります。それは、2015年1月にフランスサッカー協会(FFF)に所属するニースに移籍したハテム・ベン・アルファ選手のケースです。

 元フランス代表のベン・アルファ選手は、2014-15シーズン当初は、イングランドサッカー協会(FA)に所属するニューカッスルの登録選手でした。

 このシーズン、ベン・アルファ選手は、ニューカッスルで「U21プロフェッショナル・デベロップメント・リーグ」(U21 PDL)の試合に1試合出場をした後、同じくFAに所属するハル・シティAFCに期限付き移籍し、プレミアリーグの公式試合に出場しています。同選手がニースに移籍したのはその後で、同一シーズン3クラブ目の登録にあたりました。

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Profile

杉山 翔一

Field-R法律事務所・弁護士。FIFA Football Tribunal、Court of Arbitration for Sport等でサッカー関連紛争の手続代理人を務める。主な役職に、日本スポーツ仲裁機構・仲裁調停専門員、スポーツ法学会国際スポーツ学術推進委員会委員長、東大LB会(東京大学運動会ア式蹴球部OB・OG会)理事など。

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