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すべてに感謝…元Jリーガーのワシントン、涙のマラカナン殿堂入り

2023.10.01

 9月26日、ブラジルサッカーの聖地マラカナンで1つのセレモニーが行われた。東京ヴェルディや浦和レッズでもプレーした元Jリーガーのワシントンが、その足型を残すとともに、マラカナンの殿堂入りをしたのだ。

 これまで、ペレジーコロマーリオ、ロナウドなど、ブラジル代表やリオデジャネイロを本拠地とするクラブのスターとしてマラカナンで活躍した往年の名選手たちが足型を残してきた。

 ワシントンは、ブラジルではポンチプレッタ、アトレチコ・パラナエンセ、サンパウロ、フルミネンセでプレー。マラカナンをホームスタジアムとするフルミネンセでは、特に2008年、ブラジル全国選手権得点王の活躍で優勝の原動力となり、コパ・リベルタドーレス準優勝にも数々のゴールで貢献している。マラカナンが2014年ワールドカップと2016年リオ五輪に向けて大改修された後の第1号ゴールを決めたのも彼だった。彼がまだ殿堂入りしていなかったのが不思議なほどだと、現場に集まった人たちが語り合っていた。

病を克服し“勇者の心”として飛躍

 ワシントンと言えば、フェネルバフチェ(トルコ)時代の2002年に患った心臓病を乗り越え、サッカー選手としてさらなる活躍をしたことは有名な話だ。そのため、ブラジルでは“勇者の心”というニックネームで呼ばれている。その克服の後、サッカーができる喜びと生きている証を表現するために、ゴールを決めた時には胸を叩いて祝う姿が、今も多くの人々の心に刻まれる。そんなワシントンの人生を讃えて、リオデジャネイロ州スポーツ局のヘナト・ジ・パウラ局長はセレモニーでこうスピーチした。

 「今日は私の、そしてマラカナンの胸が、より幸せに鼓動しています。なぜなら、人としてのレジェンドに、父としての、息子としてのレジェンドに、友人としてのレジェンドに、そしてフルミネンセの英雄としてのレジェンドに、感謝を示すことができるからです。ワシントン、あなたはこのマラカナンの殿堂に永遠の足型を刻むに値します。あなたの人生の歴史にありがとう。サッカーとは何かを表現してくれてありがとう」

 足型とともに記念撮影をした後、ワシントンもマイクを握った。

 「僕の人生でも唯一無二の瞬間です。プロサッカー選手になれたこと。数々のビッグクラブやブラジル代表でプレーできたこと。様々な大会でタイトルを獲得し、得点王になれたこと。そして今回、マラカナンに自分の足型を残せること。そういう機会を与えてくれた神に感謝するばかりです」

 ワシントンはこの日、11歳の息子アントニオを連れてきていた。彼が現役を引退した翌年に生まれた息子のことを、周囲は“次代のストライカー”と呼んで歓迎し、アントニオもまた、父の様子を神妙な表情で見つめていた。

 笑顔でスピーチをしていたワシントンが、急に声を詰まらせ、手で顔を覆った。

 「家族に『ありがとう』を言いたい。今日は代表して息子がここに来てくれた。家族は心臓の問題を克服するために、そして僕が“勇者の心”を持つために力を与えてくれたんだ」

スピーチの途中で思わず涙ぐんだワシントン(Photo: Kiyomi Fujiwara)

夢を実現させ、歴史に足跡を残した

 セレモニーの後、ワシントンに涙の理由を聞いた。

 「感動で胸がいっぱいになってしまった。子どもの頃は、テレビやラジオで試合を追いながら、いつかマラカナンでプレーしたいと夢見ていたんだ。それが、プレーをし、多くのゴールを決めて、その歴史に足跡を残すことまでできた。マラカナンに足型を残せるなんて、ものすごく大きな幸せだよ」

 マラカナンでの思い出のゴールを聞くと、即答してくれた。

 「フルミンセとして出場した、2008年リベルタドーレス杯準々決勝サンパウロ戦、後半アディショナルタイムのゴールだね。僕の人生にとっても、フルミネンセサポーターにとっても、多分ゴールを奪われたサンパウロのサポーターにも、記憶に強く残っているはずだ。同じリベルタドーレス杯準決勝ボカ・ジュニオーレス戦で決めたFKもそうだ。ここでは多くのゴールを決めることができたけど、あのサンパウロ戦でのゴールは歴史に刻まれるものとなった上に、僕にとってマラカナンでの感動を象徴するゴールなんだ」

2008年のリベルタドーレス杯準々決勝で決めたゴールが「印象に残っている」という(Photo: Fluminense F.C.)

 最後に、フルミネンセのサポーターが、ワシントンを応援するために歌ったチャントを覚えているかを聞いた。普段、インタビューの際には浦和レッズサポーターのチャントについて聞くことが多いのだが、今回は満員のマラカナンに響き渡った歌を彼から聞くためだ。

 「あの歌は多分、サポーターがサッカー選手のために作った中でも最も美しい歌の1つだと思う。♪勇者の心、トリコロールの戦士。ワシントンはゴールゲッター♪。この歌も必ずや、足型と同じように歴史に刻まれていくはずだよ」

「すべての人に感謝している」と語ったワシントン(Photo: Kiyomi Fujiwara)

 イベントが終わった後、ワシントンはセレモニーの関係者、報道陣、マラカナン見学ツアーに来ていた一般客まで多くの人たちに囲まれ、写真やサインに応じていた。今もスポーツ推進を手がける政治家として、テレビのサッカーコメンテーターとして、人気の高いワシントン。この日はブラジルのサッカー選手にとってのマラカナンの偉大さや、彼に対する人々の愛情や尊敬が、あらためて垣間見られることになった。

 彼は、スピーチをこう締めくくっていた。

 「マラカナンが僕の人生にくれたすべてに感謝している。皆さんとマラカナンに神のご加護を。このオマージュを本当にありがとう」


Photos: Kiyomi Fujiwara, Fluminense F.C.

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Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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