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ポチェッティーノがベンチで一切感情を表に出さない理由

2019.05.19

エリック・ラメラに指示を送るトッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ監督

あのポチェッティーノが泣いたCL準決勝

 「感情があふれてきて言葉が出ない。ありがとう、フットボール。ありがとう、選手たち……私のヒーローたちよ」

 チャンピオンズリーグ準決勝2ndレグの直後、涙ながらにこう語ったのはトッテナムを指揮するマウリシオ・ポチェッティーノだ。

 ホームにアヤックスを迎えた1stレグを0-1で落としたスパーズは逆転を目指して敵地に乗り込むも、前半だけで2失点を喫して合計スコア0-3と窮地に追い込まれる。逆転は不可能に思われたが、後半にルーカス・モウラがハットトリックを達成。3点差を追いついたトッテナムがアウェイゴールの数でアヤックスを上回り、大逆転で決勝進出を決めた。

 後半アディショナルタイムに起死回生の3点目が決まると、ピッチに駆け込んで選手たちと抱き合いながら喜びを爆発させたポチェッティーノ。試合終了後には、キャプテンを務めるウーゴ・ロリスと熱い抱擁を交わしながら涙を浮かべた知将。普段は一切感情を表に出さないことから、感情表現豊かなユルゲン・クロップ、ジョゼップ・グアルディオラと比較されて批判を浴びることもあった。

CLアヤックス戦では珍しく感情をあらわにしたポチェッティーノ監督

「私も監督を無視していました」

 そんなポチェッティーノがベンチで感情を押し殺している理由を明かしたのは、今月初めに『BBC』が放送したインタビューだ。名物司会者ギャリー・リネカーが尋ねると、アルゼンチン人指揮官はこう返した。

 「ピッチ上で皆の注目を集めるべきは選手たちです。だから、いつもタッチライン際で選手を手助けする方法を考えています。叫びはじめる監督もいますけど、あなたは選手経験がありますからお分かりですよね?」

 この質問に対してリネカーが「確かにいつも何もかも知らんぷりしていたね」と答えると、ポチェッティーノも「私も監督を無視していました」と現役時代を振り返り、いつも落ち着き払っている理由をこう明かした。

 「監督の言っていることに耳を傾けながらプレーできるわけがありません。『違う』『右だ』『左だ』『シュートだ』『コントロールしろ』『パスを出せ』なんて言われてもどうしようもない。『なら、交代しましょう。私がタッチラインに立つので監督がプレーして下さい』と言われてしまいます」

 「試合中はハーフタイムやプレーが止まっている間にポジションや状況を整理しますが、最も重要なのは力を抜いて冷静さを保つこと。さもなければチームを困難に陥れることになる」

 いくら感情的になっても大きな歓声の中、ピッチ上で必死にプレーしている選手たちに対して指示を伝えるのは至難の技。だからこそ選手たちを信じて戦況を見守るポチェッティーノは、彼らがピッチに上がる前の準備に全力を注いでいる。

「選手たちを信じなくてはいけません。1週間や1日のうちに十分な時間がありますから、そこであらゆる情報、目指すプレー方法、やるべき戦い方を吹き込んで試合に向けた準備をするんです」

 リバプールとのCL決勝までおよそ2週間。ポチェッティーノ率いるトッテナムは最高の準備をして、再び冷静沈着な指揮官を歓喜の渦に巻き込むことができるだろうか。


Photos: Getty Images

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トッテナムマウリシオ・ポチェッティーノ戦術

Profile

足立 真俊

1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista

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