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スポーツ界の「今」を調査。サッカーが与えたのは喜びか、それとも失望か

2021.12.12

 政治、経済、社会問題、文化、スポーツ等々、世の中の「今」の声をあぶり出す世論調査でお馴染みのラジオ局『RTL』が、「2021年のフランスのスポーツシーン」についてアンケートを実施したところ、サッカー界にとっては少々残念な結果となった。

 カテゴリーは「2021年に最も活躍したスポーツ選手 男子」、「2021年に最も活躍したスポーツ選手 女子」、「あなたにとっての2021年のチャンピオン」、「2021年に最も活躍したチーム」、そして「2021年のスポーツ界で一番がっかりしたこと」の5つ。

 このうち、1つ目から4つ目までの“名誉な”部門に名前が挙がったサッカー関係者は、パリ・サンジェルマンとフランス代表でプレーする女子選手のカディダトー・ディアニただ1人。

 逆に、唯一ネガティブな「2021年のスポーツ界で一番がっかりしたこと」部門で、「ラウンド16で敗退した今夏のEURO2020」がナンバー1に輝いてしまった。

カディダトー・ディアニ(中央)はポジティブな部門に名前が挙がった唯一のサッカー関係者だった

フランス代表やPSGに失望

 投票した全体数の34%、スポーツ愛好家のみの回答だけを集計したものでは、約4割にあたる39%が、スイスにPK戦の末に敗れて敗退となったこの大会を「今年のスポーツ界で一番のがっかり」に選出。フランス男子代表は10月のUEFAネーションズリーグ決勝ラウンドにおいて、準決勝でベルギー(3-2)、決勝ではスペイン(2-1)と強豪を次々に破って見事、優勝したが、この成果はあまり評価されなかった模様だ。

 ただ、彼らは2018年のW杯に優勝した現世界王者であるがゆえに「期待が高かったからこその失望の大きさ」だとも言える。カリム・ベンゼマが約5年半ぶりにレ・ブルーに復帰し、キリアン・ムバッペ、アントワーヌ・グリーズマンとトリオを組むということで、このEURO2020では前評判も高まっていた。

 同じ『RTL』が11月末に行った「2022年W杯の優勝候補は?」というアンケートでは、フランス人全体では54%、スポーツ愛好家では64%が「フランス」と答えている。2位はどちらも「ドイツ」だったが、票はそれぞれ7%、5%とごく少数で、大多数の人が「フランス優勝」を確信していると出た。2018年のW杯前は、同じ質問に「フランス」と答えた人は29%だったというから、フランスサッカーに寄せる期待は確実に高まっている。

 ちなみに「PSGの成績」も「東京五輪で金メダルを獲得できなかった柔道100kg超級のテディ・リネール」と同点で4位と、5位以内の2つがサッカー絡みという結果だった。

 PSGは、2021年5月に終了した昨季のリーグ1では優勝を逃し、UEFAチャンピオンズリーグでも準決勝でマンチェスター・シティに敗れた。クビを切ったトーマス・トゥヘルが新天地のチェルシーで優勝したのだから、「がっかり」感はたしかに強い。

 2番目のがっかりは「1890年以来初めて、グランドスラム四大大会のいずれもラウンド16に1人もフランス人選手が残らなかったテニス」、3位は「東京オリンピックでのフランスのメダルの数」だった。

五輪やロードレース関連が上位に

 各カテゴリーのトップもお伝えしておくと、「2021年に最も活躍したスポーツ選手 男子」は、自転車ロードレースの選手ジュリアン・アラフィリップ。昨年、23年ぶりにフランス人として世界選手権に優勝し、今年も自転車競技のお膝元であるベルギーのフランドルで2連覇を達成した。

 「2021年に最も活躍したスポーツ選手 女子」はテレビで観戦した方も多いかもしれない、夏の東京オリンピックの柔道63kg級金メダリスト、クラリス・アグベニュー。フリースタイルスキー(モーグル)で平昌オリンピック金メダル、今年も世界選手権で優勝したペリーヌ・ラフォンも僅差で2位だった。

 そして最も票が割れたのが「あなたにとっての2021年のチャンピオン」のカテゴリー。1位は15%でジュリアン・アラフィリップだったが、2位のクラリス・アグベニューも13%と肉薄。ペリーヌ・ラフォンと、MotoGPで今年、フランス人として初めて優勝したファビオ・クアルタラロが9%で3位。しかしスポーツ愛好家だけの票だと、クアルタラロはアグベニューと同率で2番目に多い票を得た。

 個人的にチャンピオンに推したいのもこのクアルタラロ。フランスから初のMotoGPチャンピオン誕生というのはすごい。周りのスポーツファンの間でもかなり盛り上がっていた。

フランス人初のMotoGPチャンピオンになったファビオ・クアルタラロ

 クアルタラロは先日のPSGvsニース戦でパルク・デ・プランスに招かれ、セレモニー的なキックオフを行ったのだが、センターサークルに歩み寄ってきた彼を子供のような笑顔で待ち構えて握手を求めたリオネル・メッシの姿が印象的だった。自分も相当な世界的スターなのに、スターを間近で見た一ファンのような初々しさで、彼の素朴さがにじみ出ていた。

 そして「2021年最も活躍したチーム」は、東京オリンピックで優勝した女子ハンドボール代表が1位、同じく金メダルの男子チームも3位。2位は、今年のシックスネーションズで優勝にあと一歩に迫った男子ラグビー代表。4位には、東京五輪でチームUSAを破ったバスケ男子、5位が東京五輪で優勝したバレーボール男子だった。

 五輪イヤーだけあって、五輪出場競技や選手が多いのは当然としても、ツール・ド・フランスの国だけあって、さすがロードレースは人気が高い。またアルプス地方を中心にウィンタースポーツも盛んなので、ラフォンの他にもアルペン系の選手の名前が挙がっていて、雪山系の競技の注目度の高さもあぶり出されていた。

 サッカーは、その五輪でも1勝2敗でグループリーグ敗退と振るわず。全体的にあまりパッとしない2021年だったが、W杯カタール大会を終えた来年のこの時期のアンケートでは、果たしてサッカー男子代表は「最も活躍したチーム」となっているか、はたまた「今年一番のがっかり」になっているか。


Photos: Getty Images

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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