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伊東純也は“不調”だったのか?本人の言葉から読み解く真実、「普通のことが難しくなった」ランス3年目の真価

2025.07.04

Allez!ランスのライオン軍団
2024-25シーズン総括
 #5

待ち受けていた「地獄」の結末。伊東純也と中村敬斗の両エースが牽引し、冬には関根大輝が加わった今季、スタッド・ランスはフランス・リーグ1で16位、入れ替え戦の末に7季ぶりの2部降格を余儀なくされた。その奮闘模様を定点観測してきた連載コラムの特別編として、若き獅子軍団の、そして3兄弟それぞれの2024-25シーズンを振り返る。

5回は、リーグ後半戦(第1834節)はゴールもアシストもなしに終わったエースのパフォーマンスを、どう評価すべきか。現地メディアから厳しい視線も向けられたランス3年目のシーズンを、伊東本人や監督の言葉とともに総括したい。

4G4A以上の貢献、でも「俺が決めてればどうなってたか…」

 2024-25シーズンの伊東純也は、本当に不調だったのか?

 “不調説”はシーズン途中から、現地メディアを中心に指摘されていた。

 スタッド・ランスで3季目を終えた伊東は、誰もが認めるチームのオフェンスリーダーであり、彼の圧倒的な影響力が認知されているからこその、そうした厳しい評価ではある。リーグ戦4ゴール4アシストという数字は、チームの攻撃を担う者のそれとしては物足りないと感じるものであり、開幕前にルカ・エルスナー前監督が所望していた「10ゴール10アシスト」にも遠く及ばなかった。

 それでも、個人的には、また別の印象を持っている。

 数字的には目を見張るものではなかったとしても、彼のピッチ上での影響力は、今季も絶大だった。シーズン序盤にモハメド・ダラミー、レミ・カドラの主力2人が長期離脱を強いられ、冬のメルカートではキャプテンのエマニュエル・アグバドゥとマーシャル・ムネツィという、これまた貴重な戦力が移籍。リザーブチームの若手を急遽トップチームに昇格させてなんとか賄っていた。そんな今季のチーム状況を見れば、48年ぶりにフランスカップ決勝まで到達し、最終的には降格となってしまったが最後の最後まで残留への望みをつなげられたのは、むしろ奇跡だった。

 そしてそこには、数字には表れない部分での、伊東のベテラン選手としての尽力があり、“彼が土台のところで必死に踏ん張って大きく崩壊するのを防いでいた”というのが、2024-25シーズンの伊東のパフォーマンスを振り返っての印象だ。

 もちろん、伊東にもいつもと比べて出力が低めな試合もあった。

 もっとも、どんな選手であっても、毎試合100%パーフェクト、ということはない。疲れやフィーリングなどで、「今日のパフォーマンスはいまひとつ」というのは誰にもある。伊東が「今年最悪」と自己評価した第12節リヨン戦(△1-1)をはじめ、「疲れていて体が重かった」「今日は自分のパフォーマンスも良くなかった」と、いくつかの試合については自身のパフォーマンス不良を率直に明かしていた。

 彼のスキルをもってしたら、このゴールは決めてほしかった、という場面も何度かあった。

 「今日は寝られたとしても、(外した)シュートの部分は悔やまれる」

 と本人も残念がった第9節ブレスト戦(●1-2)での一撃。中村敬斗が左サイドでの見事な切り返しから上げたクロスに飛びついた第25節オセール戦(●0-2)のヘディングや、第30節トゥールーズ戦(○1-0)でクロスバーに当てた惜しいシュート等々。

 伊東のCKから点は入ったが相手のオウンゴール扱いになったものや、物議を醸した第28節ストラスブール戦(●0-1)のハンドボールで無効となったゴールなど、

 「ちょっともってないですね、最近……」

 と本人も思わず苦笑した“幻の”ゴールやアシストも多いシーズンだったが、

 「俺が決めてればどうなってたか……」

 と彼自身が悔やんでいたように、試合の結果を変えていたかもしれない決定機を逃した部分については、今季の反省点に挙げられる。

ブレスト戦47分の「悔やまれる」シーン(上)と、ストラスブール戦20分の「もってない」シーン(下)

「今季のイトウはダメだ」に対する監督の見解、代弁

 シュートやアシストに関しては、シーズン序盤は好調だった。

 第3節レンヌ戦(○2-1)でヘディングからゴールを決めたのを皮切りに、第4節ナント戦(○1-2)、第5節パリ・サンジェルマン戦(△1-1)では2戦連続で中村の得点をアシスト。そして次のアンジェ戦(○1-3)では自らネットを揺らし、9月は全4試合でゴールまたはアシストを記録して第6節までに2ゴール2アシストと、快調なスタートを切った。

 インターナショナルブレイクを挟んだ後も流れは途切れず、第8節オセール戦(●2-1)では終盤アディショナルタイムに中村のヘディングシュートをお膳立て。第9節ブレスト戦でも右CKからジョゼフ・オクムのヘッド弾を導き出した。

 11月の代表戦に旅立つ前のル・アーブル戦(○0-3)でも中村とともにアベック弾を決めて、第11節までに3ゴール4アシストは、エルスナー監督が提示した目標の10+10を十分実現できそうなペースだった。

“魔法”のような2024-25シーズンのプレー集

……

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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