SPECIAL

無名だった名古屋高・原康介をデータで見ると「この選手めっちゃいい」。横浜F・マリノスとスカウトサービス契約を締結した「nowtis」が見る未来(後編)

2025.12.11

25年10月、株式会社F&Vが横浜F・マリノスとスカウトサービス契約を締結したと発表した。アスリートのフィジカル能力を可視化し、データを比較・蓄積するシステム「nowtis(ノーティス)」を通して、フィジカルデータをスカウト活動に用いるという新しい取り組みだ。同社の先﨑勝也社長にnowtisというサービスの詳細、横浜F・マリノスとの契約について、そしてフィジカルデータスカウトの可能性について聞いた。

後編では、蓄積してきたフィジカルデータからも強い相関を示すようになった「強度」と競技レベルの関係、名古屋高時代に当時の監督が「プレミアでもプリンスでもないから、なかなか見られる環境がないんだよ」と語っていた“見つけられていなかった原石”原康介がデータでレコードを記録していたという無名タレント発掘の可能性、そしてnowtisの今後の発展の方向性について語り尽くす。

←前編へ

上がり続ける「強度」、特にアジリティ系が顕著

——これまでの話を聞いていると、中学・高校・大学という幅広いデータを取ることの重要性がわかりました。プロのスカウトではすでに豊富なスカウト網があり、有望選手がピックアップされている上で、データで裏づけという形になるのでしょうが……。

 「今おっしゃったように特にJ1のチームは発掘よりも裏づけとしての活用がメインだとは思うのですが、マリノスをはじめとしたチームといろいろと話していく中で発掘のニーズもやはりあるんだなと感じています。彼らも全ての選手を見切れているわけではありませんし、前田大然じゃないけど『スプリントで誰が一番速いんだ?』ということを頭の片隅に置いておけば、他の選手のついでに見に行ったりもできるわけですよね。僕もJ1トップのクラブはある程度ピックアップした選手がリスト化されていると考えていましたし、実際に大半はそれがメインになってはいるんですが、話していくと『めちゃくちゃスピードある選手いない?』みたいな質問をよく受けるので、(無名選手の)発掘ニーズもあると考えています」

——現代サッカーにおけるフィジカル能力の重要さがより具体的に伝わってきます。すでに広く共有されている価値観ではあると思いますが、そのあたりの傾向を深く感じることはありますか。

 「それはもうめちゃくちゃありますよ。僕らが取っているデータは基礎能力ですが、それでもデータに出るんだなというのは強く感じています。例えば、多くの大学は春のリーグ戦前と夏の中断期間に測定をするんですが、先日、夏の測定を一通り実施した後に、関東1部、2部、3部、と分析していくと綺麗に全種目グラデーションで結果が出たんです。何千人の平均値を取るとキュッと収束していってあまり差が出ないものなんですが、全種目で関東1部から順に高いデータが出ています。あと毎年、僕らが測定している高校生からJユースも含めて40〜50人がプロに行っているのですが、その子たちのデータを見るとほぼ例外なく高いです。テクニックを強みとしている選手でもデータを見るとしっかり高いので、ベースの身体能力があるから技術など自分の特長を発揮できるんだなというのを強く感じています。

 チームで見ても昨年は大津高がプレミアリーグのチャンピオンになりましたよね。僕らの会社の中では春の段階でもう『今年は大津が優勝するよね』と予想していたんです。なぜかというと大津は春と秋に測定しているんですが、春のプレミア前の時点でめちゃくちゃ高い数値を出してきました。誰がというよりチーム全体が圧倒的で。それもプレミアでずっと1位を走っていて優勝を決めて、最後のファイナルの前にも測定したんですが、春ですらめちゃくちゃ高かったのにさらにワンランク上げてきたんですよ。それくらい昨年の大津は頭一つ二つ抜けていましたし、いろんな指導者に聞いても『大学生みたいだった』と言っていたんですが、それは数値にも出ていましたね」

——とても面白いです。例えば、フィジカルの重要性は最近よく言われるようになってきましたが、全体の傾向も年々上がってきていたりするんでしょうか。

 「これはすごくいい質問で、やっぱり上がっていますね。それも具体的な話をすると、この1年で飛躍的に伸びた項目があるんですよ。その1つがアジリティを測るための『10m×5アジリティ』という180度ターンを交えて二往復半する種目です。もう1つがYo-Yoテスト。これらは各チームのアベレージが上がってきていて、特に大学は関東1部と2部、高校生はプレミア中心に顕著です。当たり前ですが、みんなこのテストのために日々練習しているわけじゃないですよね。じゃあなぜ上がってきているかと言うと、俗に言う『強度』とうところに近い要素だからと考えています。10m×5のアジリティで言えばトランジションや切り返しのために必要な要素ですし、Yo-Yoテストは強度を90分間維持してハードワークするところにつながります。彼らは毎週しっかりと強度の高い試合をしていて、そこに勝つために日々の練習もそれだけのクオリティでやっているので、そうしたチーム中心にアベレージがめちゃくちゃ上がってきているんじゃないかと考えています」

——試合の強度、質が高まっていることが測定にも反映されるんですね。

 「そうですね。またもう1つ言うとチームカラーも結構出ています。例えば、僕の母校の静学は世の中的には技巧派集団と言われるじゃないですか。それも間違いではないですし、フィジカルトレーニングも他のチームよりは少ないかもしれない。でも蓋を開けてみたら、しっかり高いデータが出ています。特に高いのはアジリティですね。身体をコントロールする動きを突き詰めているので、この数値は全国の中でもトップレベルに高いです。流経大柏とか大津とかは満遍なく高いですね。さすがハードワークできるチームだなという印象です。千葉で言えば中央学院高校などはアジリティが高いですね」

——この話を聞いていると、自分の能力を測って他の選手と比べるということだけでなく、自分やチームの現状を知ることであったり、過去の自分と比べることによって成長意欲につながったりするのがすごく良いなと感じます。

 「僕は選手に対してはいつもそこを一番に言っています。他の選手と比較して目標値を定めていくことは大切ですが、一番大事なのは『過去の自分には絶対に負けるな』ということです。フィジカル測定というのはやってきたことが数値として必ず出てくるんです。伸びたところは自信を持って継続していけばいいし、あまり伸びなかった項目はより意識的にやっていかなきゃいけないというところで過去の自分からしっかり成長させていくことができる。それができているのが強豪チームであり、上に行く選手だと思います。

……

残り:3,690文字/全文:6,482文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

竹内 達也

元地方紙のゲキサカ記者。大分県豊後高田市出身。主に日本代表、Jリーグ、育成年代の大会を取材しています。関心分野はVARを中心とした競技規則と日向坂46。欧州サッカーではFulham FC推し。かつて書いていた仏教アイドルについての記事を超えられるようなインパクトのある成果を出すべく精進いたします。『2050年W杯 日本代表優勝プラン』編集。Twitter:@thetheteatea

関連記事

RANKING

関連記事