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「反骨心」で重ねた2桁得点、「勝ち方がマジでわからなかった」15戦未勝利…中村敬斗が語るランスのリアル【インタビュー前編】

2025.06.11

Allez!ランスのライオン軍団
2024-25シーズン総括
 #2

待ち受けていた「地獄」の結末。伊東純也と中村敬斗の両エースが牽引し、冬には関根大輝が加わった今季、スタッド・ランスはフランス・リーグ1で16位、入れ替え戦の末に7季ぶりの2部降格を余儀なくされた。その奮闘模様を定点観測してきた連載コラムの特別編として、若き獅子軍団の、そして3兄弟それぞれの2024-25シーズンを振り返る。

第2回は、中村本人が自身のランス2年目を総括。リーグ1最終節を前にした5月15日にクラブの練習施設、レイモン・コパ(Centre de vie Raymond Kopa)で収録したインタビューの前編をお届けする。

 リーグ1残留が懸かる5月17日の最終節リール戦を控えた週、スタッド・ランスはファンに向けて毎週水曜に開催している公開練習を急きょ取りやめた。「大事な週だから、チームだけで集中したい」というのが理由だった。

 そんな中、サンバ・ディアワラ監督、広報スタッフ、そしてなにより中村敬斗選手ご本人のご厚意で、このシーズン佳境にインタビューが実現。今季クラブに起きたいくつかの重要トピックスを挙げながら、苦しかったランスの1年を彼の視点で振り返ってくれた。

 ご存知のように今回の取材後、フランスカップ決勝での完敗入れ替えプレーオフでのリーグ2降格とさらに衝撃的な出来事があったのだけれど、最後まで文字通り全力で走り抜けた中村選手が、最終週の時点で、限られた時間の中で語ってくれた生の声をお届けしたい(ご本人の承諾を得て、シーズン中に取材エリアで聞いた、これまでの連載記事には未掲載のコメントも若干交えて構成しています)。

スタッド・ランスのクラブハウス外観と、エントランスに飾られた過去の功績(Photos: Yukiko Ogawa)

11点のうれしさが桁違い」の11ゴール

――シーズンも山場の大変な時期に、今日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。今回のテーマは、中村選手から見た今シーズンの注目トピックスとともに、スタッド・ランスの1年を振り返っていただくというものです。まず何からいきましょうか?

 「まずは、そうですね、自分のことからになりますけど、『2桁得点でチーム内得点王』というのは個人的にビッグニュースなので。そこはうれしいです」

――入団初年度の昨シーズンはリーグ戦4ゴール1アシスト。そこから11ゴール2アシスト、公式戦12ゴール3アシストと大きく数字を伸ばしました。この中で特に印象に残っているゴールは?

 「マルセイユ戦(第27節/○3-1)での先制点は、個人としてもそうですけど、チームとして活気づけられた、流れを引き寄せられたゴールなのかなと思っていて。あの時は15試合勝ちなしで、あのゴールをきっかけに勝つことができたので。先制点を奪うまではマルセイユに相当攻められていて、いつ失点してもおかしくない状態を耐えに耐えて、あの場面もチャンスっていうチャンスではなかったですけど、個人技というか、うまくゴール前に入れて。あの試合は1トップをやっていて、自分の得意な形だったんで、こじ開けられた。あのゴールは、今シーズンの自分の中でベストゴールかなと思います」

――2得点を挙げたRCランス戦(第29節/○0-2)はどうですか? 終盤の88分、限界まで疲れ切っていた中、足がつった状態で爆走して決めた2点目のシーンも印象的でした。

 「RCランス戦のゴールも、5大リーグに来てから1試合2得点は初だったので、あれはあれでうれしかったですね。1点目を取った時、『あ、10ゴールいったか!』と思って、2点目で11ゴールまで伸ばして」

――加えて今季は、大事な場面で決める勝負強さも際立っていました。

 「あ〜そうですね。先制点だったり、負けたらまずいって試合だったり。マルセイユ戦、RCランス戦、パリ・サンジェルマン戦(第5節、第19節ともに1-1)もそうかな。けっこう今年はビッグゲームで取れた気がしますね。追加点や4点目、5点目といったゴールはなかったので」

――フランスカップ準々決勝アンジェ戦(1-1/PK戦5-3)でのゴールも、チームにとっては大きかったですよね。

 「あれもリーグ戦でチームの得点が全然生まれていない時期で。関根の良いクロスが入ってきたんですよね」

――関根選手のプロ初アシストでもありました。

 「試合前から『クロスでアシストします』って言ってたから、アイツが持った時は絶対に(中に)入ろうと思ってたし、僕にとってはオセール戦(第8節)以来のヘディングでのゴールでした。アウェイのトゥールーズ戦(第10節)で絶好機を外してたんで、それからはずっと『ヘディングは決めてやろう!』って。あの時は1トップでしたし。

 今シーズンは途中から2トップだけじゃなく1トップも任されるようになって。フォワードでやることも数試合あったんで、そういうところでもプレーの幅が広がったかなと思います」

――それに、例えばパリ・サンジェルマンで11点取るのと、このチームで11点取るのとでは、難しさが全然違いますよね。

 「そうですね、チャンスの数が違いますから。僕らは1試合に1回チャンスがあるかないかの試合で、それを1点決めるかどうかの戦い。なのでそれを得点に結びつければ、勝ちにつながる。だから1点のうれしさがちょっと違いますね。正直、おととしまでいたLASKリンツでは、オーストリア内で毎年トップ3、4に入る強いクラブなのでチャンスもけっこう多かったし、リーグ戦でゴール数が14までいきましたけど(2022-23シーズン)、1点1点のうれしさっていうのは……。もちろんうれしいんですけどね、ビッグゲームで取れば。だけど、LASKでは『今日も取ったか』って感じで。チャンスがある中で決めているし、みんなが決めている中で自分もゴール、みたいなところはあったので。

 でも今シーズンは、『苦しい中での、ギリギリの中での起死回生の一発!』じゃないですけど、そういうのも多かったから、それぞれのゴールがほんと桁違い、段違いにうれしかったです!」

――見ている方としても、「よくぞ取ってくれた!」みたいなのが多かったです。

 「それはもう、ほんとうれしいです!」

――今シーズンの自分のベストマッチを挙げるとするなら?

 「やっぱりベストゴールを決めたマルセイユ戦ですね」

(Photo: Yukiko Ogawa)

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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