「負けるべくして負けた」仏杯決勝も糧に…“死ぬ気”のランスと3兄弟が残留、そして人生を懸けた最終戦へ

Allez!ランスのライオン軍団 #15
大好評のスタッド・ランス取材レポートが連載化! 伊東純也、中村敬斗、関根大輝の奮闘ぶり、欧州参戦を目指す若き獅子たちの最新動向を、現地フランスから小川由紀子が裏話も満載でお届けする。
第15回は、リーグ1最終節、昇降格プレーオフ第1レグ、フランスカップ決勝に臨んだ満身創痍の8日間。“前半90分”を1-1で終えた本当に今季最後の残留決戦は5月29日(日本時間27時30分キックオフ)、本拠スタッド・オーギュスト・ドゥローヌで開催される。
「地獄に落とされた」2-1と2-3
こんな衝撃的な展開を、いったい誰が予想していたであろう……。
5月17日に行われたリーグ1最終節、リールと敵地で対戦したスタッド・ランスは、自力で勝ち点1を取れれば、他クラブの結果にかかわらず、残留を確定できるはずだった。
とはいえ5位につけるリールにも、CL出場権というビッグな目標達成が懸かっていたから、ドローはそれほど簡単ではないと思われたのだが、案の定、前半37分に元フランス代表MFレミ・カベラの曲芸のようなバックヒールシュートで先制される。
しかし後半60分、負傷した左足の痛みをこらえつつ先発出場した伊東純也の右CKを起点に、左SBセルヒオ・アキエメが強烈ボレーで値千金の同点弾をゲット。重要な仕事を終えた伊東は退き、あとは仲間たちがしっかり守って1-1のまま終了のホイッスルを聞くはずだった……のだが、レギュラータイム残り5分を切ったところで、CBジョゼフ・オクムがペナルティエリア内で相手を倒して痛恨のPK献上。倒されたイングランド人FWチュバ・アクポムが自ら仕留めると、2-1のリール勝利で試合は終了したのだった。
それでも、ランスにはまだ望みがあった。入れ替えプレーオフ圏の16位にいるル・アーブルがストラスブールに引き分け以下なら、ギリギリ15位で生き延びられるはずだった。
スコアは90分を終えて2-2。6分間のアディショナルタイムも4分を過ぎ、このまま終わってくれそうだと確信したのか、ランスのベンチで笑顔を見せる選手たちの様子をカメラは捉えていた。
ところが、なんと残り1分半という土壇場で、ストラスブールがまさかのPK献上。熱くなった両軍の選手たちがゴール前で揉み合う中、ジェローム・ブリザール主審は自ら映像を確認したのち、ル・アーブルへのPKを認定した。
アディショナルタイムも8分以上経過していたこの時、ランスはすでに試合を終え、選手たちはベンチでスマートフォンにかじりついてル・アーブル戦の模様を注視していた。
その彼らの祈るような視線の先で、ギニア代表MFアブドゥライ・トゥーレがこの日2本目のPKを決め、ル・アーブルが逆転勝利。そしてランスの16位転落が確定したのだった。
エンディングこそ劇的だったが、そこに至るまでにはVAR判定で無効になったゴールや、クロスバーをヒットした惜しい一撃もあったル・アーブル。決して棚ボタだったわけではなく、生き残りを懸けた渾身のパフォーマンスで、自力で手繰り寄せた勝利だった。
リール戦にフル出場した関根大輝は、ピッチ上で試合を終えた瞬間はまだ、自分たちの運命を知らなかった。
「ハーフタイムに(ル・アーブルが)1-1というのは聞いてたんですけど、後半は一切わからなかった。自分たちは彼らの結果を気にするよりも、引き分けていれば自力で残留できたので。2-1で終わった時は、やばいかなと思いながら……」
その時点で、ストラスブール対ル・アーブルのスコアは2-2。
「2-2って言われて、最後ベンチで試合を見てたんですけど。(先にベンチに下がっていた)純也くんが見ていて、それで『PK取られた』みたいな……」
ル・アーブルが勝ったことがわかった瞬間は?
「もう絶望ですね。地獄に落とされた感じ。考えられないというか。軽率な失点だったと思うし、自分たちが悪いんですけど……。やっぱりすぐには切り替えられなかった」
中村が「無理して」最低限の1-1
累積警告で出場停止処分を受けていたため、最終節を自宅で見ていた中村敬斗も、順位が確定した瞬間、
「最悪だよな……って。もう絶望でした」
と関根とまったく同じ思いを抱いていた。
「でも『もうここまで来たらやるしかない』っていうのは、みんな言ってましたし、敬斗くんや純也くんとも話してたんで」
と関根はチームがすぐさま前向きな姿勢になっていたことを明かしてくれたが、中村が絶望的な気持ちになったのには別の理由があった。
……

Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。