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モダンな福山と着実に成長した下関。「中国ダービー」にみる天皇杯の魅力

2020.10.07

9月16日に記念すべき第100回大会の開幕を迎えた天皇杯。各都道府県代表が地域ごとに分かれて対戦する2回戦では、広島県代表の福山シティと山口県代表のバレイン下関が激突した。「中国ダービー」のレポートを、初出場の両クラブに精通するジェイ氏がお届けする。

 去る9月30日、ミッドウィーク開催のJリーグに隠れてひっそりと、天皇杯2回戦が1試合だけ行われていた。広島県代表と山口県代表による一戦だったが、この試合は奇しくも天皇杯初出場チーム同士の対戦となった。

クラブ存続の危機を乗り越えるも…

 広島県代表は福山シティFC。フットボリスタでも何度か紹介しているクラブだが、私が初めて取材をした際は「福山SCC」という名称だった。それが昨年の11月から新体制に移行し、名称を「福山シティ」とあらためて再出発している。

 今季からは県1部にも昇格し、一気に中国社会人リーグ(地域リーグ)への昇格を目指していた。が、しかし、世界中のサッカークラブの例に漏れず、コロナ禍により資金繰りが悪化。ユニフォームスポンサーが白紙となるなど、クラブの存続そのものが危ぶまれる事態に陥っていた。

 そこでクラブは、6月9日よりクラウドファンディングを実施。7月末までの期間で500万円を目標としてスタートしたが、これがなんと、わずか3日間で目標を達成。最終的には525名、876万円の支援にまで達した。ともすれば理念が先行し過ぎているのではないかという懸念もあった福山シティだが、今回の件は着実に支持層が拡大していることの証明にもなった。

 こうして財政問題もひとまず落ち着き、広島県社会人リーグの再開も決定したが、日程消化が難しくなる状況もあってレギュレーションが変更となる。リーグからの通達には「県リーグからの中国社会人リーグ昇格を見送る」と記されており、今季の中国社会人リーグ昇格の可能性は消滅した。

 昇格はなくなった。残り試合にどれだけ勝とうとも、来季もまた同じリーグを戦わなければならない。モチベーションを保つことは難しかったはずだが、一つ救いだったのが天皇杯の存在だろうか。昨季は阻まれたSRC広島の壁を越え、県代表の座を手にした。

下関戦に臨む福山の先発メンバー

悲願の本戦初出場を果たした下関

 一方の山口県代表はFCバレイン下関。下関が近代捕鯨発祥の地であったことから、クジラのフランス語「Baleine」をチーム名に使用している。実は同じ山口県のJ2クラブ・レノファ山口と同時期の2006年に創設されているが、中国リーグ所属の「山口県サッカー教員団」を母体としたレノファ山口に対して、「下関市サッカー協会社会人連盟」を母体として創設されたバレインは県4部リーグからスタートした。

 当初はJリーグを目指すというよりも、山口県の選手権大会やリーグなどJFA主管大会への参画を目指す形で発足したということだが、チームは着実に勝ち上がり、2009年には県1部への昇格を決める。ただここからが長かった。2011年には県1部初優勝を果たし、2017、18年には2年連続で優勝を果たすがその都度、中国地域リーグへの昇格を争う決勝大会に敗れて跳ね返されてきた。

 昇格に加えて、天皇杯への出場もなかなか果たされなかった。天皇杯本選へ出場するための山口県サッカー選手権大会は、特に近年はほとんど、レノファ山口と徳山大学のためにあったと言ってもいい。

 ほとんどの年で決勝戦はレノファと徳山大学で争われ、レノファがJ3に参集した以降の2016~19年はすべて徳山大学が優勝。バレインはそのうち、2017~19年の3年間、決勝で敗れ続けてきた。

 強豪大学を上回れない社会人チームという、多くの都道府県で発生している事象。ただ今季は違った。チームは前年、初の中国地域リーグに参戦し4位と健闘。着実に力をつけていた。そして新型コロナの影響で多くの大学スポーツが活動自粛を強いられる中、徳山大学も大会を棄権する。

 バレインは県1部・常盤クラブとの決勝戦に勝利して県代表となる。悲願の天皇杯本戦出場だ。大学生を倒しての参戦ではなかったが、その分県代表としての責務は重く、無様な戦いをするわけにはいかない。

新人vsミスターの采配対決

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バレイン下関戦術文化福山シティFC

Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。

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