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リーガ序盤戦が昨季以上の大混戦となったピッチ内外の要因とは?

2020.01.31

 今季のリーガ序盤戦はもつれにもつれた。第13節時点で、1位から5位までの勝ち点差はわずか2ポイント。これは欧州5大リーグで最少。昨季の同時期も5ポイント差で「混戦」と騒がれたが、今季はそれを上回る「大混戦」だった。象徴的なのは、第13節までに6チーム(セビージャ、レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリー、グラナダ、アスレティック・ビルバオ)が首位に立ったこと。これほど頻繁に首位が入れ替わるのは今季を除けば、ここ50年で2004-05の1度しかなかった珍事だという。

 クラシコ延期が与えた影響は少なくない。いくら2強でも、序盤戦で1試合消化が少なければ勝ち点差は縮まりやすい。だが、彼らのもたつきが大混戦の直接的な要因かと言えばそうでもなかったのだ。開幕13試合の勝ち点を昨季と比較すると、バルセロナは「+3」、レアル・マドリーは「+8」、アトレティコも「±0」となっている。大型補強もあって完成度はイマイチだが、未曽有のスランプというわけでもなかった。つまり目を向けるべきは、中小クラブの奮闘ぶりということになる。今季はマジョルカがレアル・マドリー相手に、グラナダやレバンテはバルセロナ相手に金星を奪取。またバジャドリーはマドリッド勢相手にドローゲームを演じてみせた。一昔前であれば大差がついた試合も、今では接戦が珍しくない。

順位は17位と厳しい位置にいるマジョルカだが、レアル・マドリー(第9節/1-0)、バレンシア(第20節/4-1)と2つの大物食いを果たしている

分析ツールを一括提供

 その要因として、スペイン紙『エル・パイス』が挙げたのが「お金」と「テクノロジー」だ。1つ目の「お金」はつまりテレビ放映権料のこと。2016-17からラ・リーガが一括管理・分配をする方式となったことで、クラブ間の格差が縮まった。公式資料によると、放映権料トップと最下位のクラブの差は9倍(2014-15)から3.5倍(2017-18)に縮小。金額の推移を見ても、14-15からの4季でバルセロナの増加率が10%強にとどまったのに対し、最下位クラブのそれは180%を記録した。総額の20%が2強に集中しているとはいえ、中小クラブに流れるお金は格段に増えている。

 さらにラ・リーガは、テクノロジーの面でも格差是正に一役買った。2018年から1部と2部の全クラブに「Mediacoach」(メディアコーチ)というパフォーマンス分析ツールを提供したのだ。いわゆるリアルタイム分析を可能にするもので、チームについては328、選手については1936の分析項目が存在する。全チーム・全選手の情報を閲覧可能で、試合後には2000ページを超える分析レポートまで配信されるという。これらのデータをどう活用するかが重要なのは言うまでもないが、予算の都合でこうしたツールに手を出せなかった中小クラブにしてみれば、“情報格差”が一気に解消された形になる。

 収入増によって補強の質が上がり、対戦相手を丸裸にする武器も手に入れた結果、全体の競争力は向上。2強、3強が楽に勝てる時代は終わりを迎えつつあり、格下が主役になる試合も増えてきている。まさにラ・リーガ会長のハビエル・テバスが理想としていた姿であり、諸問題を抱えているとはいえ、改革の成果は表れつつあると言える。


Photos: Getty Images

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Profile

北川 紳也

1984年、徳島県生まれ。学生時代にバルセロナへ1年間留学し帰国。マニュアル制作会社を経て、2011年夏から株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)に所属する。プレミアリーグやラ・リーガに関するリサーチ業務のほか、執筆活動も行う。『フットボリスタ』や『サッカーキング』にコラムを寄稿している。

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