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徹底分析!セルヒオ・アグエロはなぜ簡単にゴールできるのか(下)

2019.07.25

セルヒオ・アグエロ――マンチェスター・シティの選手として200得点以上を決めクラブ歴代最多記録を更新し続けている男は、プレミアリーグにおけるゴール率1位(0.69)の選手でもあり、疑いの余地なく現代フットボール界最高のゴールハンターの1人だ。

今回は、彼のプレーのどこが優れているのか、スペインでの指導経験が豊富な坂本圭氏に分析を依頼。マンチェスター・シティ増刊号の発売を記念して、“4冠”の立役者となった男の卓越性を、様々な角度から紐解いてもらった後編。

<前編はこちら>

マンチェスターCのゲームモデルから分析する、アグエロの役割

 前編でも紹介した4試合(2018-19プレミアリーグのハダーズフィールド戦、サウサンンプトン戦、チェルシー戦とCLグループステージのホッフェンハイム戦)を分析した結果、CFとして起用された際のアグエロ個人の役割は44個あった。44個と言っても、その中には個人戦術も含まれている。

 スペインサッカーコーチングコースには「CFの個人のポジショニングの基礎」というものがある。個人分析をする時は、各ポジションごとの「個人のポジショニングの基礎」を選手に当てはめて、チームのゲームモデル内における個人の役割を理解。その上で、その選手が個人の役割をどのように巧く実行しているのか、またはできていないのかを評価する。ここからは、この手法を使ってアグエロのパフォーマンスを詳細に分析していく。

 アグエロの試合中の個人の役割を分析することで、彼個人のチームへの貢献度と、役割をしっかりと遂行する完璧さが理解できるのではないだろうか。

 フットボールには4つの局面(組織的攻撃、守備から攻撃への切り替え、組織的守備、攻撃から守備への切り替え)があるが、スペイン、特にバルセロナ(カタルーニャ州)では、それを「13の行動」に分けて考え分析する。その項目は以下の通りである。

<分析項目>
組織的攻撃:4項目
(1)ボール出し(ゾーン1)
(2)前進(ゾーン2)
(3)ダイレクトプレー(GKやDFから中盤を経由せずに浮き球のロングボールで相手DFラインの背後やFWラインの選手にボールを送るプレー)/(代替案)
(4)セットオフェンス(主に相手コート、ゾーン3で行われる、各選手があらかじめチームで決められた動きや位置の約束事に従って展開するオフェンス)

守備から攻撃への切り替え:2項目
(5)カウンターアタック
(6)攻撃の再構築

組織的守備:4項目
(7)ボール出しへの守備(ゾーン3)
(8)前進に対する守備(ゾーン2)
(9)ダイレクトプレーへの守備
(10)セットオフェンスへの守備

守備への切り替え:3項目
(11)プレッシング
(12)後退
(13)プレッシングと後退(ボール近くの3、4人でプレッシングをかける一方、DFラインは後退してラインを整えるプレー)

 併せて、アグエロの44個の役割それぞれについて、セイルーロが提唱する「時間的知覚」における「事柄の予測」の3局面、「プレー前」(ボールを受ける前)/「プレー中」(ボール保持者)/「プレー後」(ボールをパスかシュートした後)のどのタイミングで行っているのか分類もしている。

※以下、「プレー前」 を黒色、「プレー中」 を赤色、「プレー後」 を青色で表記。また、「1.、2.~」のナンバリングは44個の「役割」を表す

組織的攻撃

(1)ボール出し (ゾーン1)

1. ボール出しには基本的に参加しない。ゾーン2(ピッチを横方向に3分割した時の真ん中のゾーン。センターゾーン)の相手CBの背後にポジションを取りチームに深さを与える(「プレー前」)。

2. ただし、相手がゾーン1(ピッチを横方向に3分割した時、最も自陣寄りのゾーン)でマンマークをしてきた場合やプレッシングが激しく数的優位ができない場合、フリーな選手が見つからない場合には代替案として、ゾーン2でマークを外してチームメイトにパスコースを提供、足下でボールを受けることでマーク外しのサポートをする(「プレー前」) 。

◯ ◯ ◯

 基本的にCFアグエロの個人の役割には、ボール出しはない。しかし、相手がマンツーマンや、攻撃的プレッシングが激しく、ゾーン1で数的優位が作れない場合において、ボール出しをサポートすることが代替案である。


(2)前進(ゾーン2)

3. CFは、相手CBとCBの間に立ちDFラインをピン留め。チームに深さを与え、攻撃的MFが空けたスペースを利用する(「プレー前」) 。

4. チームメイトにとって優位となるスペースを生み出す(「プレー前」)。

5. 相手のライン間(MFラインとDFラインの間、もしくはMFラインの間)のハーフスペースで、ボール保持者にマーク外しのサポートを提供する(「プレー前」) 。

6. パスをした後、連続してサポートをする(「プレー後」)。

7. 最大限の情報を集めるための体の向き(半身)を取る。 (「プレー前」) 。    

8. 最大限深さを取り、相手のピボーテ(守備的MF)の背後のライン間にパスコースを見つける(「プレー前」) 。 

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 前進(ゾーン2)におけるCFアグエロの個人の役割は、チームメイトに深さを与えて前進するスペースを作ること、次にMFとDFのライン間に入り、MFをサポートし、チームのプレーの前進に貢献することである。

 アグエロの特徴の1つにプレーの連続性がある。パスした後、次のスペースへ素早く移動する。いつもボールを受ける時は体の向きが半身であり、最大限の情報を集めているので、ボールを失いにくい。

 もう1つの特徴はポストプレー、ポストに入るタイミングが絶妙である。相手の目がボール保持者に向いた瞬間、相手CBの背後からすっと現れ、相手をブロックすることなく小さなスペースでボールを半身で受ける。相手が背後からプレッシャーをかけてきた場合は、サポートに入ったチームメイトにワンタッチでパスをする。 

 フリーであれば、ワンタッチでターンをして前を向き前進、次のプレーに移行する。体の大きくない日本人のお手本のようなプレーであろう。


(3)ダイレクトプレー(代替案)

9. ゴールキックの時は相手の背後にポジションを取る(「プレー前」) 。 

10. 相手の背後でボールを受けたら、ターンする。ターンして前を向くことができなければ、深いマーク外し(※)をする選手を探す。もし、近くにサポートの選手がいなければボールをキープする(プレー中)。

※深いマーク外し:相手の背後でボールを受けること

11. GKがボール出しできない場合、相手DFラインの背後でボールを受ける(「プレー前」) 。

12. ボールを受ける選手が実行できるアクションに応じて、深いマーク外しか、セカンドボールを拾うためのサポートを目指す (「プレー前」) 。 

13. ゾーン1でDFやGKが相手から激しいプレッシャーを受け、相手のMFラインとDFラインとのライン間にスペースがある場合、マーク外しのサポートをしてそのスペースでロングパスを受け、チームメイトのサポートを待つ (「プレー前」) 。 

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 ダイレクトプレーは、マンチェスターCのゲームモデルには基本的に存在しない。どの試合でもダイレクトプレーはほんの数回である。

 しかし、近年の守備戦術の進化により、ダイレクトプレーを選択せざる得ない場合に用いる。オフサイドがないゴールキック時に相手CBの背後にポジションを取るのは、もしGKにキックの精度とパワーがあれば面白い戦術である。


(4)セットオフェンス(ゾーン3)

14~22:対ゾーナルディフェンス向けのプレー

14. パスをした後、ボールも選手も決して止まらずアクションを連続する(「プレー後」)。

15. 例えば深いマーク外しやカットインなどを用いて、チームメイトにとって有利なスペースを生み出す。(「プレー前」)。

16. 相手のDFとMFのライン間にポジションを取り、MFラインをサポートする(「プレー前」)。

17. チームに深さを与える(「プレー前」)。

18. ポストプレーをする(「プレー前」)。

19. ボールがサイドにある時は、2人目のCBの背後(4バックの場合)にポジションを取る(「プレー前」)。

20. 相手CBの背後(視野外)にポジションを取り、深いマーク外しをする(「プレー前」)。

21. フリーマンを生み出すために相手にスクリーンをかける(特にポジションフットボールの場合)。(「プレー前」)。

※ポジションフットボール:基本的なオフェンスポジションから時どきカッティングなど(1人が動く)をする以外は、ポジションを変えないものである。この方法は1対1の機会が生じるか、DFラインが下がることで、ミドルシュートのチャンスが得られるまでボールを素早く展開し続ける。 相手DF1人ひとりとマッチアップするようにオフェンス選手を配置する。1人の選手だけが動いて、例えば、相手のウィークポイントであるポジションでオーバーロードの状況(2対1)を作り、そのゾーン攻略する

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22. センタリングが上がる瞬間にもう1人のFWと位置をクロスする(「プレー前」) 。


23、24:ボールを失った時に備えた準備

23. ボール保持者に短い距離のサポートを提供する(「プレー前」)。  

24. シュートのリバウンドを予測する(プレー後)。

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 セットオフェンス時、アグエロの特徴が最大限発揮される。

 前述したが、プレーの連続性がアグエロがクラックである証である。1つのプレー後、次から次へと空いているスペースを認知し、移動する。このプレーの連続性が攻守の切り換え時にカウンターアタックやカウンタープレッシングの時にも役立っている。

 次にマーク外しである。アグエロが常にゴールを決め続ける理由は相手のプレーが読めること、次のプレーの予測に優れていることの2つが挙げられる。

 相手のプレーが読めるから、相手の予測と逆の動きができる。次のプレーの予測に優れているから、プレーを連続させたり、シュートのリバウンドを予測できるのだろう。

 プレーの連続性、相手のプレーが読める、プレーの予測、この3つがアグエロがクラックでありゴールを決め続ける理由であろう。技術的に優れていることは言うまでもない。

守備から攻撃への切り替え

(5)カウンターアタック

25. オフェンシブポジションを取る(「プレー前」)。

※オフェンシブポジション:守備の役割には参加しないで、ボールをフリーで受けられる位置、方向にポジションを取ること。ボールを取り戻した時、素早い攻撃、カウンターアタックを仕掛けることが可能となり、相手にディフェンシブなポジションを維持させる


26. 相手の背後でボールを受け、シュートに持っていく(「プレー前」)。

27. ボール保持者が近くにいる場合は、深さを作りマーク外しのサポートをする(「プレー前」)。

28. 前方にパスコースがない場合は、サイドに開いてボール保持者が前進できるスペースとパスコースを作る(「プレー前」)。

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 クラックであるFWの選手は守備をしないと言われることも多いが、守備時に前に残ってオフェンシブポジションを取り、カウンターアタックの準備をしている場合が多い。

 マンチェスターCの場合も、基本的にアグエロが前に残り、カウンターアタックの準備をしている。

 ボールを回復した場所によって、アグエロの役割は変わってくる。どちらにしても、カウンターアタックはアグエロを起点として攻撃を展開する。


(6)攻撃の再構築

29. 前方に多くの相手選手がいて数的不利である場合、危険回避のパス(バックパス)を使い、攻撃を再構築する (プレー中)。

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 マンチェスターCの守備から攻撃への切り替えの最初のオプションはカウンターアタックである。もし相手の帰陣が速く前方で数的優位ができない場合は、一度危険回避のバックパスをして攻撃を再構築しなければならない。これはマンチェスターCにとって非常に重要なプレーである。

組織的守備

(7)ボール出しへの守備

30. CBの中央からのボール出しを妨げ、サイドレーンに体が向くように方向づける。相手のピボーテへのパスコースを切る(「プレー前」)。

31. 自身が担当しているCBがボールを保持している場合は、ゾーンを維持しないで追い続ける(「プレー前」)。

32. 自身が担当している相手CBからGKにバックパスが入った場合、その相手CBへのパスコースを切りながら、L字の動きで相手GKに激しくプレッシャーをかける (「プレー前」)。

33. ボールがサイドにある場合は、サイドチェンジと自身が担当するCBと相手ピボーテを監視できる中間ポジションを取る。チェルシーのジョルジーニョのような選手がピボーテにいる場合には特に重要になる(「プレー前」)。

34. 相手GKからのボール出し時は、担当する相手CBへボールが入らないように監視する(「プレー前」) 。

35. 相手GKからのゴールキックではペナルティエリア外のセンターレーンにいる選手にボールが入らないように監視する(「プレー前」) 。

36. 相手が3バックの時は、真ん中のCBにボールが入らないように監視する(「プレー前」) 。

37. ボールがサイドにある場合は、サイドチェンジと自身が担当するCBを監視できる中間ポジションを取る(「プレー前」) 。

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 現代のフットボールは守備戦術が進化し、FWにも守備における個人の役割が数多くある。アグエロには最低でも8つ、ボール出しへに対する守備の役割があった。CFアグエロが守備時、最初に相手にプレッシャーをかける選手である。

 CFの守備は、闇雲に相手にプレッシャーをかけるのではなく、ポジショニングが最も大事であり、内側へのパスコースを消すカバーシャドウをしながら、中間ポジションを取った上で相手にプレッシャーをかけていく。

 もし、仮にアグエロがこの役割をサボってしまったら、相手に簡単に、ボール出しと前進を許し、決定的な場面を作られる可能性が高い。それぐらいモダンフットボールはハイレベルであり、一瞬たりとも気が抜けない。

 その中で現代のFWは攻守にわたり活躍を求められている。特にチェルシー戦では、ピボーテのジョルジーニョへのパスコースを切る役割もあったので、アグエロもかなりの消耗があったと思われる。


(8)前進に対する守備

38. CBの中央からのボール出しを妨げ、サイドレーンに体が向くように方向づける。相手のピボーテへのパスコースを切る(「プレー前」) 。

39. サイドレーンにボールがある場合、サイドチェンジとCBへのパスコースを切ることができる中間ポジションを取る(「プレー前」) 。

40. サイドレーンにボールがある場合、サイドチェンジとピボーテへのパスコースを切ることができる中間ポジションを取る。チェルシーのジョルジーニョのように、相手のが強力な時は特に強く意識する(「プレー前」) 。

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 アグエロは非常に効率の良い守備をする。必ず中間ポジションを取り、相手のパスの選択肢を2つ消す。プレッシャーをかける時も、カバーシャドウやワンサイドカットを使い、ボール保持者である相手CBのプレーを限定している。

 チェルシー戦以外は、ほとんど完璧な守備を見せた。チェルシー戦では、ピボーテであるジョルジーニョへのパスコースを切る中間ポジションを取ることになっていたので、他の試合と少し役割が変わっていた。


(9)ダイレクトプレーへの守備

 ダイレクトプレーへの守備は、ボール出しへの守備に含まれている。


(10)セットオフェンスへの守備

41. 守備から攻撃への切り換えの可能性に備えてカウンターアタックの準備をする(オフェンシブ・ポジションを取る)(「プレー前」) 。

42. チームが5バック、6バックにした場合は、ゾーン1まで下がりMFラインのディフェンスをサポートして、相手チームのグラウンド中央からのコンドゥクシオンによる 前進を妨げる。(例:チェルシー戦、ジョルジーニョ対策) (「プレー前」) 。

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 基本的にCFアグエロのセットオフェンスの守備の役割は1つしかない。オフェンシブ・ポジションを取り、カウンターアタックに備えること。

 しかし、チェルシーのジョルジーニョのように素晴らしいピボーテが相手チームにいる場合、CFであるアグエロの役割は増える。例えば、チェルシー戦では、少しでもジョルジーニョにプレッシャーをかけるのが遅れたりすると決定的な場面を作られていた。

 アグエロの守備は、完璧とは言えないが、かなり効果的にジョルジーニョを抑えていた。ここではっきりと言えるのは、アグエロは監督グアルディオラから与えられた役割を100%の力で実行しようとするチームプレーヤーであると言うことである。

攻撃から守備への切り替え

(11)プレッシング(カウンタープレッシング

43. ボールに最も近い選手がファーストディフェンダーとして、相手にプレッシャーをかけてボールを回復する(「プレー前」) 。

44. オフェンシブポジションの選手はスペースを確保しカウンターアタックの準備をする(「プレー前」) 。

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 攻撃から守備への切り替えにおけるCFアグエロの役割は2つ。ボールを回復する位置に応じて素早くカウンタープレッシングを仕掛けるか、もしくはオフェンシブポジションからスペースを素早く見つけてカウンターアタックの起点となるプレーを、どの試合でも継続して実行することができている。

 グアルディオラのトレーニングが素晴らしいのは言うまでもない。だが、世界トップレベルの選手はサッカーの4つの局面である攻撃、守備、攻守の切り替えの瞬間に、個人個人がしっかりと自分の役割を遂行することで11人の組織的チームプレーを構築していることが、このアグエロの分析を通して理解できたのではないだろうか。


(12)後退

 なし。

(13)プレッシングと後退

 (11)プレッシング時と同様の役割。

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 CFアグエロには、(12)後退の役割はない。

 マンチェスターCのゲームモデルには、原則的に後退はない。当然、試合の中では「後退」の場面がないわけではない。しかし、あったとしても1試合でほんの数回である。これについてはここでは深く言及しない。

 アグエロのような成熟した完璧なゴールハンターを育成するには、個人の才能と努力は言うまでもないが、どれだけ育成年代で「個人戦術」と「個人のポジショニングの基礎」をしっかりと学んだか、もしくは、新しい戦術や戦略を受け入れることができる柔軟性と適応力が身についているかが非常に重要である。

 アグエロは、footballistaのマンチェスター・シティ増刊号に掲載されたインタビューでこのように述べている。

 「ペップの求めに応じて練習を重ね、プレスの方法を変えないといけなかった。今は僕がチームのプレスをスタートする。それは初めての経験だった。ここ3年でフィジカル面でも向上した。以前はこんなインテンシティでプレーをするのに慣れていなかった。ペナルティエリア外でもプレーできる選手になったんだ。ボールを持てばやるべきことをやるだけだけど、ポジショニング面やボール回復のためのプレス面でも成長できた。それらは、以前はやっていなかったこと。つまり別のプレースタイルを覚えたということだよ」

 アグエロのように、攻撃だけではなく、守備、攻守の切り替え、サッカーのすべての基本的な戦術アクションをマスターすることで、完璧なクラックを生み出すことができる。

 戦術を覚えるのは大人になってからでは遅い。1秒、いや0コンマ何秒の単位で動き出さないとならない。サッカーは複雑性が高いがゆえに、低いレベルでは大人になってからでも戦術は理解できるし、実行もできるかもしれない。ただプロのそれも、世界最高レベルのプロリーグや大会では通用しない。

 セイルーロの事柄の予測でも、当然のように、アグエロのほとんどのプレーが「プレー前」である。つまり、個人戦術と集団プレーがフットボールのほとんどの動きの基礎になっている。

ボックス内でアグエロの右に出るものはほとんどいない

 クラックとは小さなスペースでプレーができる選手のことだ。時間もスペースも少ない状況の中で最適なプレーをする。 アグエロはペナルティエリア内の征服者だ。彼よりもペナルティエリア内で有効なプレーをできる選手は、ほとんどいないか、本当にいないのかもしれない。

 アグエロの個人能力の素晴らしさについてはもう言及したが、そんな彼であってもチーム、チームメイトとの相互作用が必要不可欠である。現代のスカウティング力と守備戦術の進化は目覚ましく、個人能力だけで試合を決定づけることはできず、組織的なチームプレーが最も重要視されている。その意味で攻撃、特にゾーン3ではチームメイトとの2、3人のグループによる相互作用と、その相互作用から生み出される即興プレーによる崩し。守備においては完璧な組織的守備が要求される。その組織の中でアグエロの特徴が最大限発揮されるのだと考える。

 逆に、チーム戦術やゲームモデルが曖昧なチームや個人能力に任せるチームでアグエロは機能しないだろう。そう考えるとアグエロはメッシと同じように、現在のアルゼンチン代表の中では彼本来の能力が生かされないのかも知れない。

フットボールの2分と88分

 フットボールの試合では、1人の選手がボールに触れることができる時間は最大で2分と言われている。残りの88分はボールなしの戦術的アクションである。

 当然、アグエロの個人の役割もボールなしの「プレー前」の動きが39個と、ほとんどを占めており、「プレー中」 が2個、「プレー後」が3つとなっている。

 この上記44個の役割「個人のポジショニングの基礎」を90分間、アグエロは集中を切らすことなくやり続けている。11人全員がチームのゲームモデルの中で自身のパフォーマンスを最適化している。

 4試合をサンプルとしてアグエロを分析してわかったことは、攻撃、守備、攻守の切り替えのフットボールの試合の全ての状況に置いて自身の役割をしっかりと遂行する完成された素晴らしいCFの姿である。

 もちろん、少しのポジショニングのミスや遅れがないことはないが、 アグエロからマンチェスターCの守備が始まり、アグエロにシュートを打たせるようにマンチェスターCのゲームモデルはデザインされていると言えるだろう。

 両足でシュートができ、スピードとリズムの変化、ヘディングにも強く、例えば、チェルシー戦では相手DFのダビド・ルイス(189cm)と同じ高さまでジャンプをしてセンタリングにヘディングで合わせている。弾丸ミドルシュートもあり、ペナルティエリアのボックス内で最も力を発揮するCFは、現在のフットボール界を見渡してもほんの一握りであろう。

 最後に、マンチェスターCの監督ペップ・グアルディオラのアグエロについてのコメントを紹介して本稿を締めくくりたい。

 「アグエロはいつでも我われの要求に応えてくれる選手だ。彼はチームの一員として我われを助けたいと考えてプレーしている。少し疲れているように見えた時もあったが、彼は本当に特別な選手だ」


Photos: Getty Images

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セルヒオ・アグエロマンチェスター・シティ戦術

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Kei Sakamoto