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パリよりクールな沸騰グッズ サポーターが考えるJリーグイメージ改革

2019.07.10

「海外クラブのグッズはクールで、Jリーグのグッズはクールじゃない」
「もっとかっこよくてオシャレな普段使いアパレルが出たらいいのに……」

こう切望するサポーターは多い。もちろん、デザイン観点でグッズをブラッシュアップすることは可能だ。しかし、現状の問題点を洗い出した上でグッズの話をするべきだとも感じている。Jリーグが抱える問題点、海外ストアの例から学べるスタイル、その上で興味深い取り組みをしているクラブを紹介しよう

パリ・サンジェルマンのアパレルから考えるイメージ改革

 サッカー日本代表はワールドカップに6大会連続出場、世界で活躍する日本人選手も多く、スポーツニュースでサッカーが取り上げられる時間も増えてきた。

 しかし、世間のサッカーファンに対するイメージは少しネガティブだ。よく報道されるのは渋谷の交差点で日本代表戦に乗じて暴れている人たちの光景。いくら「普段からサッカーを応援している人たちとは性質が違う」と主張しても、ハロウィンのお祭り騒ぎやフーリガンと同類と捉えられてしまう。あの報道で株を上げているのはDJポリスだけである。

 また、Jリーグは発足時に一度ブームになってしまった。その頃の印象が強く、バブルのイメージから脱却できていない人も多い。「なんか古いよね」「主食はJリーグカレーかな?」と偏見の目で見られている。このイメージは説明しても覆すのが難しい。私たちはとっくにラモスになっているつもりが、まさお君のままだったのだ。

 イメージ改革のヒントはパリ・サンジェルマン(以下、PSG)にあった。PSGと言えばアパレルブランドとのコラボレーションなど話題性が高く、オシャレなフットボールカルチャーを牽引するクラブのイメージが定着している。

 PSGは昔からオシャレなイメージを持っていた訳ではなかった。資金力と本拠地であるパリの観光人気が元々高かったことは前提だが、シャンゼリゼ通りへのストア移転をはじめとした観光客向けのイメージアップや、クラブロゴのアパレルブランド化の影響が大きい。

オシャレなフットボールカルチャーを牽引するPSG(Photo: Getty Images)

 これに倣いイメージ改革のヒントをグッズだとしよう。グッズの改革と聞いて一番に思い浮かぶのは普段使いアパレルだ。PSGのように「シンプルでオシャレな服を作ろう」「有名ブランドとコラボしよう」と考える人もいるだろう。エンブレムが大きいグッズは主張が強いから街になじむグッズが欲しい。我々は自我を育む学生時代に厳しい校則の中で育ってきている。そこで染みついた自己表現が「常識人です」「私はおかしな行動をしません」という主張であれば“周りから浮かない恰好”“他者目線”を優先して服選びをすることになる。

 チェックシャツばかり着るとバカにされる理系大学生だって、彼らは彼らなりのセオリーを持っていて「Tシャツほどカジュアル過ぎない服」「でも、ワイシャツほど頑張りすぎないもの」としてチェックシャツを選ぶ。そして見事に被る。しかし、周りから浮かない。これはチェックシャツ集団に限らず、日本人全体に言えることだ。

 個性はさりげなくに留めるのが良しとされる。加えて我々はハイブランドすぎても叩かれ、安物でも貧相だと言われてしまうハードルの高い世界に生きているから、”こなれ感”が出るアパレルへの信仰が強い。だからシンプルを求めてしまう。なるほど、だから派手な色のユニフォームを着ているだけで異質に思われ、渋谷の交差点の騒ぎとサッカーサポーターは同じくくりにされてしまうのか。洗練されたフットボールアパレルが出たら、スタジアムの外からもイメージを変えられるかもしれない。

Jリーググッズの現状

 ただ、一筋縄でいかないのがJリーグである。シンプルなグッズを作っても「ロゴがないと何のモチーフかわからない」と手に取らない人も多く、中高年層サポーターの多いクラブではオシャレグッズ自体が敬遠されてしまう傾向にある。やみくもにTシャツを作っても試合日はユニフォームを着るから売れない。他人目線を気にしたシンプルではなく、自分軸を持って服選びが出来るようになると変わってくるのだろうが、そうなるとまた別の問題が出てくる。

 そう、「そもそもオシャレとはなんだ」という定義にぶつかってしまうのだ。パリコレのようなモード、それとも気張りすぎないモノトーンだろうか。結局は着る人・選ぶ人の趣味に左右される。筆者も学生時代ロキノン系に憧れて黒縁メガネで過ごしていたが、今見ると”ごはんですよ”にしか見えない。でも当時の私はオシャレだと信じきっていた。

  Jリーグは他の競技やエンターテイメント業界と比較してもセグメンテーションが難しい。年齢層も所得もバラバラ。今や性別だって男女の2つではない時代なのだ。全ての層が喜ぶグッズを作り出すのは至難の業なのである。クラブ毎に来場者データを集め、売れ筋のグッズを制作することも可能だがそれでは一辺倒のグッズしか生まれなくなってしまう。

地域性、歴史……クラブのアイデンティティを表現せよ

 しかし、セグメント分けに振り回される必要はない。なぜなら多種多様なサポーターにも「このサッカークラブが好き」という大きな共通点があるからだ。その”クラブらしさ”が溢れ出たものならば喜んで手に取ってしまう。Jリーググッズがクールじゃないほとんどの理由は「これ、他のクラブも色違いで同じ商品出してたよな……」という量産型グッズの個性のなさに対してなのである。ホームタウンの土地柄、サポーター気質、立派な個性があるのに他クラブと似たグッズ…サッカーなら何でもいいんでしょ感…そうじゃない…ロンハーマンが着たいのにPIKOを買ってくるお母さんのセンスくらいズレている。今一度、クラブのアイデンティティが何たるかを思い出してほしい。

 そうした現状を踏まえて参考に出来そうなグッズ展開をしているのがドイツのザンクトパウリだ。クラブイメージを強く出してほとんどダークカラー以外のグッズを置いていない。「老若男女センスや年齢に関わらずみんなパンク!ベビーグッズにもドクロモチーフだ!」とイメージ統一されている。ウェブストアの写真も心なしかヒゲ、筋肉質、タトゥーのモデルが多い。モチーフのインパクトがあってこそだが、この際立った個性は他クラブでは類を見ない。

ドクロのイメージで統一されているザンクトパウリ(Photo: Bongarts/Getty Images)

 ザンクトパウリの歴史を紐解けば決して明るくない背景が見えてくる。地域再開発の為に強制退去を命じられた住人が立てこもり、占拠した建物の屋根に掲げてあったドクロの旗こそがトーテン=コプフ、ザンクトパウリのクラブフラッグの由来だ。私たちから見れば「かっこいい」で済ませてしまいがちなモチーフはその土地に住まう人々を見守り続けた存在で、主義・主張のアイコンや心のよりどころとしての役割を果たしていた。

 もっとも、反商業主義としても有名なザンクトパウリのグッズをこの記事で取り上げるのは悩んだが、モチーフはただの歴史の証人としてだけでなく、グッズを通じてクラブの指針としても機能していることに注目したい。このクラブは本拠地の地域性から同性愛者や少数民族などのサポーターが集まることでも有名で、ユニフォームを通したLGBT+キャンペーンや人種差別撤廃運動にも力を入れている。webストアにはrainbowの項目があり、LGBT+を支援するグッズも展開。それはイチ社会問題提起や優等生アピールでは決してない、地域に寄り添うおらが町のクラブを体現している。

 地域に寄り添う例としては他にもあり、イングランドのリバプールFCは貧困問題解消、高齢化社会に悩むスイスのFCバーゼルはスタジアムに老人ホームを隣接するなどの取り組みをしていた。

 クラブのスタンスが分かることはサポーター目線から見てもとても大事だ。V6だって知らない人から見れば陽気にWAになって踊る人達だが、ある時期からろう者向けにライブDVDに音声字幕をつけ、メンバーが手話を習ったことでファンにも広がった。そんな風に「ただかっこいい」だけではなく、信念の部分にも個性を感じるのがファン心理だ。

 私たちサポーターからすれば、試合運営や公式SNS、マスコットは思いを代弁するような存在で、もはやクラブを応援することが自己表現のような感覚である。「個性はさりげなく」の風潮が前時代的だということはもうお分かりいただけただろう。クラブの個性がアピール出来ていないから「サッカーの人たちは怖い」「Jリーグはダサい」と世間から”ひとくくり”にされてしまうのである。クラブも個人もどんどん自己表現すべきなのだ。そうしてクラブの姿勢が自分や家族、地域の人に寄り添うようなスタンスだったらどうだろう。当事者も、そうでない人もサポーターであることが誇りになり、グッズを身に着けることがファッションを超越するのだ。

リバプールFCは貧困問題解消の取組みを行っている(Photo: Getty Images)

横浜発、沸点に達したクール論

 Jリーグにもサポーターに寄り添ってくれる指針のクラブがあれば……サポーターであることが誇りになるようなクラブがあればいいのだが……そんなクラブがあるはずは……あった!横浜F・マリノスにあった!!!

 「横浜沸騰プロジェクト」はマリノスのアイデンティティの1つをサポーターの発想・発信だと定義し、昨年から動き始めた。この取り組みはクラブとマーケティング会社主導で「グッズ制作チーム」と「スタジアムイベント考案チーム」と「クラブの魅力発信チーム」の3つのプロジェクトが同時進行しており、メンバーに登録するとSNSでの投稿企画や横浜マリノス本社で不定期に開催されるミーティングに参加できる。

 ミーティングに参加すればグッズ担当の社員さんに直接「欲しいグッズ」をプレゼンすることができるのだ。TEDとかApple新製品発表会みたいなものだと思ってもらえれば分かりやすい。気分は横浜のスティーブジョブズだ。クラブとしては参加者が購入者そのものなのでグッズが実現した時に買ってもらえる保証もあるし、サポーター側から見れば憧れのマリノス本社に入れる。マスコット好きの私からすれば、本社はマリノスケの実家のようなものなので少し緊張の面持ちで向かった。

 これまではグッズへの意見があってもそれをSNSに載せるのははばかられていた。しかし、対面であれば周りに拡散されることもなく、文字と違ってやわらかく伝えることも出来る。どんな意見でも社員さんは聞き上手だから参加者も意見を出しやすいポジティブな循環がミーティングルームに生まれていた。

 さらにマリノス本社内は撮影可。歴代の優勝カップや賞状だけでなく、カーペットや社内備品まで撮影するマニアックな者が続出している。デスクはコクヨ製、スケッチブックはマルマン製だった。参加者にはなんとおみやげまで付いてくるのだ。当然ながらミーティングは毎回応募殺到。抽選倍率が高いのも納得である。

 そして、サポーターの意見を汲み取って出来たのがこの商品だ。

 つい最近まで力強い筆字で「横浜」と書かれたどう見ても地雷の家系ラーメンの看板みたいなTシャツを出していたのに、マリノスの勝利のモチーフであるトリコロールパラソルのさりげないワンポイント使いがかわいいポロシャツや、持ち歩きに便利な手乗りサイズのぬいぐるみキーホルダーが発売された。現在はスポンサー企業とのコラボで化粧品ポーチやモバイル充電器などのグッズも制作中だ。

 大好きなクラブがサポーターに寄り添って考えてくれたグッズだから思い入れが深い。私の中のYAZAWAもリトル本田もみんな狂喜乱舞している。「人から何を言われても持っていると幸せになれるもの」これこそがオシャレの本質ではないだろうか。それを持っている時の幸せなオーラや前向きな気持ちも含めて「クール」なフットボールグッズだと感じる。

 ファッションは自己表現から自己満足へ。横浜沸騰プロジェクトは海外クラブにとってはありえないガラパゴスな取り組みだ。Jリーグならではのクラブとサポーターの距離感でしか実現し得ないだろう。

Jリーグらしいグッズとは

 同プロジェクト、何もグッズがオシャレになっただけではなく大きな変化があった。マリノスサポーターが普段から「スタジアムをどう変化させたらお客さんが増えるか」「グッズを魅力的にするにはどうすればいいか」を考えるきっかけになったのだ。おかげで試合のない日はTwitterで前向きなマリノスの未来の話をする人が増えた。「クラブがサポーターの意見を聞いてくれる信頼」「クラブがお金をかけて観戦環境を変えようとしていること」がダイレクトに伝わってきたサポーターは自主的に行動を顧みるようになり、応援の熱量もあがった。スタジアムでの居心地も格段に良くなっている。

 マリノスの取り組みはほんの一例である。それぞれのクラブに最適解があるはずだが、どのようにJリーググッズを作っていくにしても予算やスタッフのリソースがなければイメージ改革は難しい。まずはクラブの環境改善とサッカーに関わる人それぞれの姿勢を見直してはじめてグッズ作りの方向性に着手出来る。PSGのようなクールさは魅力的だが、ファッションの街であるパリらしい個性を体現しているに過ぎない。魅せ方やデザインの良いところは学びつつ、Jリーグの各クラブだって海外が羨んでしまうような魅力を持っていることを再確認すべきなのだ。やみくもなかっこよさを目指してもサポーター心はつかめない。なぜなら私たちは「かっこいいからそのクラブが好き」なのではなく、歴史やホームタウンの魅力、サッカーと向き合う姿勢をまるごと含めたクラブの個性が好きなのだから。


Photo: Takahiro Fujii

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ビジネス文化横浜F・マリノス

Profile

ささゆか

1988年東京生まれ、フェリス女学院大学卒。 外資インフラ広報経験を活かしたマーケティング考察やサッカーマスコット情報を中心に執筆・イベント登壇など活動中。2019年7月より「サポーターに寄り添うサッカー雑誌」をコンセプトにした共同運営マガジンesteem chant編集長を務める。夢は沢山の海外クラブストアを巡り、世界中のマスコットと会うこと。