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香川・長友が所属のトルコリーグ。「国歌が気になる」とのことで解説

2019.03.11

 長友佑都に続き香川真司の移籍とくれば、がぜん観る気満々になってくるトルコ・シュペル・リグ。最近の香川の活躍で、もう現地に行く予定を立て始めている日本人サポーターも少なくないだろう。

 シュペル・リグでは、試合に先立ち両軍が整列すると、ファンファーレのラッパが鳴り響く。そして場内は全員起立。ん?なに?クラブアンセム?と思われる方はさすがにいないだろうが、実はトルコではリーグ戦でもカップ戦でも、試合前に国歌斉唱のセレモニーがあるのだ。この時だけはホームもアウェイもなく、外国人以外の全トルコ人が熱唱する。最近は『DAZN』さんも「国歌斉唱です」とアナウンスしてくれるようになった。

 胸に手を置く、マフラーを掲げる、敬礼する……国歌斉唱のポーズに決まりはないが、香川のベシクタシュなどでは、クラブのシンボルである「黒鷲」のポーズ(両手でガチョ~ンのような)を取りながら歌うサポーターも散見される。このあたりの自由度は、イスラム圏の中でも飛び抜けて高い。

 「いったい何を歌っているのか?」についてだが、知っていても損はない。いや、リスペクトを込めてむしろ知っている方がいい。トルコは第一次世界大戦での大敗後、英雄アタテュルクを中心に解放軍を組織する。そしてトルコ国歌は、連合国との戦いの最中に生まれた革命歌である。

『独立行進曲』 İstiklâl Marşı

恐れるな!
暁にたなびく赤き旗は
決して色褪せる事なく
祖国の上に燃えたつ最後の炉
それは光輝く我が民族の星
それは我がもの
我が民族のものなのだ

額を歪めるな!
お前のために犠牲となろう
たなびく新月旗よ
勇敢なる我が民族に微笑め
何という激しさ 何という怒り
しかし微笑まなければ
流した血は無駄となる
神を敬う我が民族は
自由と独立に値する

■勇ましくも美しいトルコ詩の最高傑作

 国歌のモチーフになっているのは祖国独立戦争(1919~1922)。一般的には「解放戦争」と呼ばれる。1行14音節で韻を踏むトルコ独特の形式で、非情に格調高い。歌詞は10番まであるが、通常は2番までを斉唱する。

 太古の昔に神から与えられた自由。その自由を突然奪った者たち。それでも信仰のもと恐れずに戦う国民。犠牲となった同胞に思いを馳せ、神に祈りを捧げる。そして自由を勝ち取り独立を目指すのだ……というのが、前述の1~2番に続く3~10番までの内容である。詩は、トルコの高名な思想家メフメト・アーキフ・エルソイによるもの。現在歌われているメロディは、新進作曲家であるゼキ・ウンギョルが作曲している。さすがはジルジャン(※)の母国だけあって、ところどころに入るシンバルの音が勇壮である。
※=シンバルの有名ブランド

 歌詞に出てくる星と新月はトルコ国旗にもあるイスラムの重要なシンボルだが、由来は次のようなもの。

 後のイスラム教の開祖であるムハンマドは、40歳の時にメッカ郊外の洞窟で瞑想をしていた。その時天使ジブリール(大天使ガブリエル)が神のメッセージを持って天から降りてきた。この出来事を「ライラ・アル=カドル(定命の夜)」というのだが、その夜空にあった星と月を表している。

■アタテュルクとともに

 少し歴史の話をしたい。16世紀に最盛期を迎えるオスマン帝国は、イスタンブールを中心にアジア、アフリカ、ヨーロッパにまたがる大帝国であった。しかし、17世紀頃から衰退し、そのまま第一次世界対戦に突入。そして結果は敗戦。1918年10月30日に降伏し、国土の大半はイギリスやフランスなどの連合国によって占領された。

 そこで立ち上がったのが、ムスタファ・ケマル。後に「アタテュルク(トルコの父)」と呼ばれるトルコの英雄だ。 イスタンブールにある国際空港の名前にもなっているし、街には彫像が多く見られる。お札もアタテュルクの肖像だ。代表戦やイスタンブールダービー時に使われるスタジアムは、「アタテュルク・オリンピヤト・スタドゥ」。トルコにはアタテュルクの名を冠した施設が多い。

 アタテュルクはトルコ中部のアンカラで「解放軍」を組織し西欧への抵抗運動を指揮する。かの地で革命政府を誕生させると、その時、このトルコ国歌を制定。革命政府は長く続いていたスルタン制を廃止し、 連合国に迎合していたオスマン家を国外に追放する。そして1923年10月29日に共和制を宣言し、初代大統領に就任。トルコの大々的な近代化、西欧化が始まるのはこの時からである。

 イスタンブールの新市街はすっかりヨーロッパ風だが、人々のDNAには気合いの入ったトルコ魂が今も根づいている。イタリアから来た長友も驚いた燃えさかる発煙筒の祝祭を、ぜひ見に行ってほしい。そして、香川のさらなる活躍と長友のケガが早く良くなることを願う。

Photos: Getty Images

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Profile

いとう やまね

インターブランド他でクリエイティブ・ディレクターとしてCI、VI開発に携わる。後にコピーライターに転向。サッカー欧州中継・TVリサーチャーとしても活動。著書は『フットボールde国歌大合唱!』(東邦出版)、『プロフットボーラーの家族の肖像』(カンゼン)、『氷上秘話 フィギュアスケート楽曲・プログラムの知られざる世界』他。構成ライティングで『サッカー日本代表帯同ドクター』(土肥美智子著)がある。