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“スター待遇”で迎えられた香川真司 白星スタートも残った懸念は…

2019.08.20

サラゴサの香川真司

本誌連動企画:さぁ開幕!19-20ラ・リーガの要注意人物+α

先週末、待ちに待った2019-20シーズンのラ・リーガが開幕。それぞれ大型補強を敢行した3強の優勝争いを筆頭に、次代を担うヤングスターの台頭やエイバルに復帰した乾貴士の活躍など見どころが尽きない1部はもちろんのこと、柴崎岳、岡崎慎司、香川真司の3選手が参戦する2部にも例年以上に注目したいシーズンとなった。

今回は、発売中の『月刊フットボリスタ第72号』の特集「19-20欧州各国リーグ展望53人の要注意人物」 で取り上げられなかった香川について、スペイン在住の木村浩嗣さんに開幕節を見て感じた印象、展望を描いてもらった。

Shinji KAGAWA
香川真司

1989.3.17(30歳)
175cm / 68kg
JAPAN
サラゴサMF|新加入
昨季リーグ成績:14試合|4得点(ベシクタシュ)

 “香川の”サラゴサが開幕節に勝利、順調にスタートを切った。スターティングメンバー発表で名前を呼ばれたら拍手されていたし、80分に退く際にも拍手が湧いた。先制点に繋がりそうなスルーを出してワー、絶妙なFKが味方の頭をかすめてワー、GKの頭を越しそうなループを見せてワー、であった。

 香川はスター待遇で受け入れられている。

 ドルトムントやマンチェスター・ユナイテッドで活躍したスターが、2部の我が街のクラブに来てくれた、ありがたい、という反応である。だから、特に傑出したものではなかったこの試合でのプレーにも、「2部のカテゴリーを超えるディテールを見せた」という好評がつき、ファンも拍手なのである。

 香川のシャツも飛ぶように売れているそうだ。香川が日本のスポンサーを引き連れて来てクラブが儲かる、という話ではなくて、香川というスターに憧れているスペイン人がシャツを欲しがる、という話である。

  クラブもうまかった。

 まずビクトル・フェルナンデス監督が「インパクトのある、夢を見させることが起こる」と前振りをして期待感を煽っておいてから、数日後に「インパクトのある選手は……香川だった!」とやった。Kagawaって誰?ってファンもいたはずだが、「CLクオリティがラ・ロマレダ(ホームスタジアム)に降り立つ」などの報道、地元のアイドル、アンデル・エレーラ(現パリ・サンジェルマン)による「素晴らしい選手! 君のシャツを買うのが待ち切れない」というツイートが続いて、期待感は盛り上がっていった。そうしてスタジアムでのお披露目に6000人が集まったのである。

https://twitter.com/AnderHerrera/status/1159808904659968001
2014年夏、わずかな時間ではあるがマンチェスター・ユナイテッドでともにプレーし、同じ1989年生まれでもある香川にエールを送ったエレーラのツイート

 “よくわからない日本人がマーケティング戦略の一環でやって来た”という十数年前のスペイン側の反応を知っている身には、今回の香川への“来てくれてありがとう!”はまさに隔世の感がある。このポジティブな空気が追い風であることは言うまでもない。

今後もトップ下はあるのか?

 グラウンド上のことに話を移す。

 対テネリフェの開幕戦、香川はトップ下、[4-2-3-1]の2列目の真ん中で起用された。ビクトル・フェルナンデスへの皮肉を込めて言えば、芝生の上でも香川は“スター待遇”だった。守備を免除され“攻撃だけをやっていれば良い”と命じられているようだったからだ。相手ボールでは[4-4-2]の2トップの1人になってプレスをかけるのが仕事。が、このプレスがおざなりだった。相手のボール出しを困難にするでもなければ前進を阻むでもなく、むろんインターセプトなんてとんでもない。ただし、香川がさぼっていたわけでなくみんながそう。最終ラインが下がっていて前線と距離があり、プレスが連動していない。自分が詰めてもチームメイトは遠くにいてプレスが届かない。そんな状態でプレスしても無駄である。

 前線4人が前に残り、2ボランチ以下が守る。スカスカの中盤を通ってテネリフェは楽々ゴール前までボールを運んでいた。テネリフェの先制点は時間の問題だったが、サラゴサがワンチャンスで先制。

 すると後半、試合はガラッと変わる。

 ビクトル・フェルナンデスはシステムを[4-3-3]に変更。中盤に人を増やし、香川は1列目の左に入った。そうして最終ラインを下げ前線も下げてライン間を詰めた。自陣でコンパクトに守ってカウンターで止めを刺す作戦に出たのであった。一転、チームは機能し始める。テネリフェの侵入は止まり、サラゴサの危険なカウンターが相手ゴールを脅かす。香川がボールを追いプレスに走る姿が見られるようになった。攻守が一体化した、これがサッカーである。前半のように間延びして、攻撃はタレント任せなんてことをやっていて目標の昇格が叶うわけがない。フィジカルでハードで長丁場で、大半のチームが防戦を優先し勝ち点1を稼ぐことを目標にしてくる2部ではなおさらである。

 1-0でカウンターに専念する、という理想的なシナリオができ、サラゴサは追加点を挙げて勝利した。だが、前半が0-0で終わっていたら、あるいはテネリフェの優勢を反映して0-1で終わっていたら、あの[4-2-3-1]のスカスカサッカーはどうなっていたのだろう? [4-3-3]でトップ下がなくなれば香川はどう使われるのだろう?

 結果は万々歳で香川の順調なスタートはうれしいが、疑問は残った。

https://twitter.com/RealZaragoza/status/1163008585233833986


Photo: NurPhoto via Getty Images

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サラゴサ移籍香川真司

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。