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冨安健洋、ついに現れた欧州基準のCB。日本の泣きどころを埋める存在へ

2019.01.21

日本代表プレーヤーフォーカス#7

印象的だった「前で受ける動き」

 冨安健洋が目標とする選手はハビエル・マスチェラーノだという。

 リバプールを経てバルセロナ、そしてアルゼンチン代表で長く活躍したマスチェラーノは、守備のユーテリティープレーヤーだった。174cmと上背はなかったものの、ボランチ、CBで世界トップレベルの地位を確立した。

 188cmで大型DFと呼ばれる冨安だが、いわゆる「でかいだけの選手」ではない。ユース年代まではむしろヘディングは苦手分野だったという。18歳でプロ契約をした後も、1年目はボランチで出場することが多かった。

 本人もボールを運ぶ技術や、最終ラインからの組み立てが自分の強みだと明かしているし、アジアカップではトルクメニスタンとの初戦でボランチとしてスタメン出場を果たした。


 11月16日に行なわれたベネズエラ戦で、印象的なシーンがあった。

 前半8分のことだ。最終ラインに落ちた柴崎岳からのパスを、右に開いた位置で受けた冨安は、相手が寄せに来ていたので、素早く右サイドバックの酒井宏樹にパスを出した。

 ビルドアップにおいて、こうした場面で多くのセンターバックは斜め後ろに下がる。そうすれば、サイドバックがパスの出しどころに困っても、セーフティな位置で受けられるからだ。

 しかし、冨安は前に出た。

 自分にプレッシャーをかけてきたベネズエラの選手を追い越し、1列高い位置でパスを受けようとしたのだ。もしも酒井宏樹が冨安の動きにすぐ気づき、パスを出していたら、どうなっていたか。冨安にプレッシャーをかけに来た選手は冨安の後方にいるので、パスを受けた時点で冨安はフリーになれる。センターバックが持ち上がってくれば、ベネズエラの守備は誰が寄せに行くのか迷うため、パスコースが生まれる。

 おそらく、冨安はそうした狙いを持って前に出るという決断をしたのだろう。最終的には、酒井が前にパスを出そうとしてやめたのを見て、斜め後ろにポジションをとり直し、バックパスを受けたが、「こんなタイプが日本に出てきたんだな」と感じた。

欧州レベルでプレーする貴重なセンターバック

 個人的な話になるが、2014年に『最速上達サッカー オフ・ザ・ボール』(成美堂出版)という本を作った。監修者は、バルセロナの現地スクールで唯一の外国人コーチとして働いていた村松尚登さんだ。スペイン式の、オフ・ザ・ボールの動きを写真と映像で解説するという内容だった。

 そこで村松さんが強調していたのが、「組み立ての起点となるのはセンターバック」ということだった。相手がプレスをかけてきたときに、センターバックがドリブルで持ち上がって相手を引きつけ、DFラインの背後にパスを出す、あるいは逆サイドのスペースをつく。

 冨安の憧れでもあるマスチェラーノや、ジェラール・ピケが多用するプレーと言えばイメージしやすいだろう。最終ラインにとどまるのではなく、高い位置でボールを受けて優位な状況を作ろうとする冨安のプレーは、まるでバルセロナの選手のようだった。

 実際に冨安は“バルサメソッド”を学んでいる。2009年にできた日本初となるバルサスクール福岡校に、当時11歳だった冨安は通っていたという。

 188cmのサイズ、攻撃の組み立ての技術。

 冨安は日本サッカーの宝といっていい。日本にとってセンターバックはずっと泣きどころで、世界大会で勝ち上がれない要因になっていた。サッカーは最終的にはゴール前で決まるスポーツだ。どれだけゲームを支配していたとしても、ゴール前の1対1で負けてしまったらやられてしまう。

 センターバックの底上げは、日本がW杯で勝ち上がっていくための最重要課題だ。

 日本はテクニックのあるアタッカーはたくさん生まれている。香川真司や乾貴士といったW杯組がいなくても、森保ジャパンでは中島翔哉、堂安律、南野拓実といった選手が輝きを放っている。

 ただ、センターバックはそうではない。この10年ほどで、国際レベルでプレーしているのは吉田麻也しかいないという事実からもそれは明らかだ。冨安は欧州レベルでプレーするセンターバックになれる貴重な人材だろう。

 日本のセンターバックにはいくつかの時代に分けられる。

 1990年代は井原正巳、2000年代前半は宮本恒靖、2000年代後半は中澤佑二と田中マルクス闘莉王、2010年代からは吉田……10年スパンでディフェンスリーダーとして日本の守備を支えてきた。

 冨安がA代表にデビューしたのは2018年10月12日のパナマ戦。19歳で日本代表のピッチに立った冨安は堂々としたプレーを見せた。絶対的存在である吉田のパートナー候補には、W杯メンバーの槙野智章、ガンバ大阪の三浦弦太などもいる。

 この男だったら日本のセンターバックを任せられる――。アジアカップが終わった時、そう言われるぐらいのパフォーマンスを見せてもらいたい。


Photos: Getty Images
Edition: Daisuke Sawayama

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シントトロイデン冨安健洋日本代表

Profile

北 健一郎

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。『ストライカーDX』編集部を経て2009年からフリーランスに。サッカー・フットサルを中心としてマルチに活動する。主な著書に『なぜボランチはムダなパスを出すのか』『サッカーはミスが9割』。これまでに執筆・構成を担当した本は40冊以上、累計部数は70万部を超える。サッカーW杯は2010年の南アフリカ大会から3大会連続取材中。2020年に新たなスポーツメディア『WHITE BOARD』を立ち上げる。