日本との因縁、現代表との共通項…賛否両論のチュニジア新監督ラムシとは?
新年早々、日本代表が来るW杯のグループステージで対戦するチュニジア代表が監督を交代した、というニュースが飛び込んできた。昨年末から1月中旬にかけてモロッコで開催されていたアフリカ・ネーションズカップ2025において、ラウンド16でマリ代表にPK戦の末に敗れた後、サミ・トラベルシ監督が解任に。後任には元フランス代表MFのサブリ・ラムシ(54歳)が任命された。
フランスで生まれ育ち、パルマで中田英寿と共闘
思えば、4年前のカタール大会の時もまったく同じような出来事があった。
2022年の年頭に行われたアフリカ・ネーションズカップの準々決勝で敗退したのを受けて、チュニジア代表はW杯の10カ月前に指揮官を交代するという大胆な決断をしたのだ。
ただこの時は、後任はアシスタントコーチだったジャレル・カドリで、彼は前任者のモンデール・ケバイエ監督が新型コロナウイルスに罹患したため、同大会の最中から実質的に指揮を執っていた。
けれど今回は、本戦までに試せる試合はあと4回というこの時期に、ルーツこそ同国にあれど、チュニジア国外で生まれ育ち、チュニジアのサッカーとはこれまで縁のなかった人物を連れてくるという、かなり思い切った人選に至った。
ちなみに、前回の監督交代の結果はというと、カタールW杯では1勝1分1敗のグループ3位に終わり、決勝トーナメントには進めず敗退となった。
しかし大会準優勝のフランスから1勝を挙げた。すでにグループ突破を決めていたフランスはメンバーをローテーションしてこの3戦目に臨んでいたとはいえ、歴史的にも因縁がある強国から勝利を手にしたことは、チュニジアにとっては大金星だった。
このカドリ監督が就任した2022年1月から現在までの4年間で、短期間の暫定監督も含めるとラムシは6人目のチュニジア代表監督だ。この間、チュニジアサッカー連盟の会長が収賄容疑で逮捕されるなど、同国のサッカーシーンが混沌としていたこともこうした不安定な代表チーム作りに影響を及ぼしている。そしてこれまでチュニジア代表はおろか、国内リーグでも一切プレー経験のないフランス生まれのラムシを指揮官に迎えたことについては、現地では賛否両論あるようだ。
彼の抜擢は、同じ北アフリカのモロッコの近年の成功も刺激となっているのだろう。
モロッコ代表は、国外で生まれ育った選手を積極的に代表チームに採用する作戦を取る上で、彼らと同じ境遇にある人物を監督に据えることが有効だと判断。ワリド・レグラギ監督の下、直近のアフリカ・ネーションズカップは惜しくも準優勝に終わったが、前回のW杯ではベスト4進出という大躍進を果たした。
チュニジアの現代表もモロッコ同様、国外で生まれ育ち、チュニジアにルーツは持ちながらも、同国ではプレー経験のない選手がチームの約半数を占めている。つまりは、ラムシ監督と同じようなサッカーキャリアを歩んでいる選手たちだ。
ただしレグラギ監督は、モロッコリーグでのプレー経験があり、代表もモロッコを選択していた。ラムシ監督はフランス代表を選択し、チュニジアの国内リーグでプレーした経験もない。現役時代はオセール、モナコ、マルセイユといったフランスの名門クラブ、中田英寿氏がいた時代のパルマやインテル、そしてキャリア晩年はカタールリーグに身を置いていた。
「私がどんな人間なのか…早く発信したくてウズウズしている」
そのことについてなんらかの声が聞こえてくるのを察した新指揮官は、就任会見の席で、
「きっと国民のみなさんも、私がどんな人間なのか、この代表チームについてどんな考えを持っているか、知りたがっていることだろう。私自身も、早くそれを発信したくてウズウズしている」
と先手を打った。次の3月の代表ウィークまでは、彼のチームがどのような顔ぶれになるのかは未知だが、「自分の構想に従う」ことを信条とするラムシ監督のメンバー選びに注目だ。
コーチングスタッフに関しては、前監督の下で昨年2月からアシスタントコーチを務めていたチュニジア生まれのハマディ・ダオウはそのまま継続する形となったが、ラムシ監督は自らのブレーンも伴っている。
その一人がアシスタントコーチとして招聘した35歳のドイツ人ミヒャエル・ヘフェレ。彼はラムシがノッティンガム・フォレストで監督をしていた時代(2019-20)に選手として在籍していた。ケガのためラムシの下ではほとんどプレーしていないのだが、ここでのキャリアを最後に現役を引退して指導者になったヘフェレとは、フォレスト時代に関係性を築いたのだろう。
対照的にGKコーチのオリビエ・ペデマスは、コートジボワール代表(2012-14)やフォレスト、カタールのアル・ドゥハイル(2020-21)など、これまでラムシ監督が率いた数々のチームで活動をともにしてきた腹心的存在だ。
そして、国民にとって最も影響力がありそうな人選は、前回大会でもキャプテンを務めた同国代表のビッグブラザー、ワフビ・ハズリを“アナリスト”としてコーチングスタッフに入閣させたこと。日本代表の長谷部誠コーチのような存在だが、ハズリには選手、とりわけチーム内の古参プレーヤーたちと新監督をつなぐ潤滑油としての役割も期待されている。
ハズリはラムシ監督がリーグ1のレンヌで監督を務めた2017-18シーズンに同クラブに所属していて、ここで公式戦11得点と、イングランドへの挑戦でしぼみかけていたキャリアを再生させるチャンスを得た。そんな2人の間には、固い信頼関係が築かれている。
ブラジルW杯で日本撃破!現実的なサッカーとストレートな語り口
……
TAG
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。
