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「獣の群れ」アトレティコ。進化する「檻」のような[4-4-2]

2018.11.22

着々と戦力を上積みし、スペイン、そしてCLで王座への再チャレンジを目論むアトレティコ・マドリー。シメオネ体制となって間もなく7年となる彼らの戦術アプローチを、Twitter上の動画解説が日本の戦術クラスタの間でも人気を博している『coachdogge』のヤコブセン氏に分析してもらった。


 ディエゴ・シメオネがアトレティコ・マドリーに植え付けたスタイルは、14歳の時に名づけられた彼の愛称、チョロ(Cholo)から“チョリスモ”と呼ばれている。この“チョリスモ”はチームの組織的な指示と、個人的なスキルのバランスが取れたスタイルとして知られており、アトレティコの躍進をその哲学として支えてきた。18-19シーズンに挑む「曲者」は、すでに欧州の舞台でも決勝トーナメントの常連になっている。


プレッシング

 伝家の宝刀になりつつある「獣の群れ」のように組織されたプレッシングは、チームにとって最大の武器であり続ける。彼らは中盤のゾーンでボールを奪い取ることが多く、相手選手を取り囲んで自由を奪ってからのボール奪取を得意としている。中央で数的優位の状況を作り出し、敵の選択肢を奪い取るのだ。ハイプレスは、どちらかといえば慣れ親しんだホームでの採用が多く、サポーターの後押しを得るように積極的に前に出ていく。

 アトレティコのプレッシングは、相手SBへのパスをスイッチとすることが多い。例えば右上(画像❶)の局面では、敵チームのボールが右SBに出されると、それが右SBに届く前に、左サイドのアタッカーが中央のパスコースを消しながらプレス。ストライカーとセントラルMFも、彼に連動してコレクティブな状況を作り出す。

 ルマルが斜め方向への縦パスを切りながら、ボールホルダーに接近。ストライカーのアントワーヌ・グリーズマンとセントラルMFのロドリは、同じ距離を保ちながら寄せていく。この連動によって、相手は中央のMFにボールを渡そうとする。しかし、これがアトレティコの罠。ボールを奪いやすい位置へと、敵を誘導しているのだ(画像❷)。

 そして中央へのパスを狙うように、FWとMFが一気に詰める。縦の挟み込みによって、相手の自由を奪おうとしている(画像❸)。

 これでボール保持者と守備者は1対2。数的優位の状況が生まれており、さらに左サイドMFと左SBがスペースを潰す。ボール保持者が苦し紛れのパスを出したとしても、彼らがそれを回収する(画像❹)。緻密に設計されたアトレティコのプレッシングは、バルセロナやレアル・マドリーに対抗することを可能にする武器であり、欧州の舞台でも同様に生命線となる。実際に柔軟に組織を切り替えながら強度を保つプレッシングは「守備の教科書」として、多くの指導者の参考となっている。


「檻」のような[4-4-2]

 統率された選手たちがリトリート時にスペースを消す[4-4-2]ブロックは、アトレティコの高質な守備組織を象徴している。「3センターに近い位置」にまで逆サイドのアタッカーが絞り、徹底的に自由を奪うのが特徴だ。世界屈指の守備を支えるのは、常に味方の位置を把握する連係が可能とする、適切な距離感の維持だ。「スペースを消すには、チームをコンパクトに保たなければならない」という格言を理解したければ、彼らの試合を見るべきなのかもしれない。CBのゴディンは闘将としてチームを盛り上げ、後方から守備組織をコントロールしていく。中盤セントラルは常にチームの守備組織における中心となるので、正しいポジショニングを徹底的に教え込まれる(画像❺)。


攻撃の構築

 アトレティコはさらなるチームとしての発展を目指して「攻撃面の進化」に取り組んでいる。今季、最も大きな変化は「遅攻のクオリティが向上していること」だ。そこには、カウンターへの依存から脱却したいというシメオネの思惑が透けて見える。今季から加入したトマ・ルマルは仕掛けのカードとなり、中央に切れ込みながらのプレーで存在感を放つ。セントラルMFのサウール、右サイドMFのアンヘル・コレアの2人は成長著しく、柔軟に様々なプレーに適応。彼らの存在は、大きくチームの幅を広げることになるだろう。昨季よりもアトレティコは間違いなく「ポゼッション率を高める」チームになる。

 ボールを保有すると、アトレティコは両SBを高い位置へと押し上げる。同時に左右のサイドアタッカーは、ハーフスペースとなるレーンに移動。ストライカーやCFと連係しながら動き出しを狙う。特にグリーズマンとルマルは比較的「フリーロール」を与えられており、様々なポジションを動き回る。セントラルMFは攻撃のバランスを保ち、CBはリスク管理を優先。中央に8人を配置することで、カウンター時にボールを失っても即時奪回に移行しやすい(画像❻)。


“3人目の動き”による崩し

 「目標となる選手」と「繋ぎ役となる選手」の組み合わせは、一つの重要な動きだ。「目標となる選手」は、ボールを受けたいが直接のパスコースを消された状態の選手が、前を向いてボールを受けるためのシステムとなる。これは、ポジショナルプレーにおいて“3人目の動き”と呼ばれるが、こういった崩しが8月のUEFAスーパーカップでも散見された。それを実行するには最初にパスを出す「1人目の選手」と、縦パスを受ける「2人目の選手」が「目標となるスペース」を共有して認知しなければならない。そして、中盤のラインよりも後ろから「3人目の選手」が飛び出してボールを受ける。特にグリーズマンは非常に「周囲の状況を把握する」能力に長けており、中盤に落とすようなボールを得意とする。彼のポジショニングや動き出しのスキルがあれば、チームはさらに攻撃的な戦術にも対応可能だ(画像❼)。


カウンターアタック

 今までのシーズンと同様に、アトレティコはカウンターを得意とするチームだ。シメオネは緻密な分析で相手の弱点を攻略する。ジエゴ・コスタの圧倒的なフィジカルとグリーズマンのスピードとテクニックを武器に、彼らは最少人数で攻撃を完結させる。

 アトレティコがボールの周囲で数的優位を得ると、D.コスタはスペースに流れる準備をスタート。ボールを奪う直前に、事前準備としてスペースを意識する(画像❽)。

 ボールを奪った局面では、アトレティコの意識は走り込むスペースの先。どうしても守備側のチームは後追いになってしまうことが多く、危険な場面に直結しやすい(画像❾)。


昨季からの進化

 守備面では、緻密で柔軟な守備組織を誇るアトレティコは大きく変化していない。数年間で積み上げられた遺産を受け継いでいるが、ルマルの優れたフィジカル能力によって「ハイプレスの強度が向上する」可能性はある。一方で、クラブとシメオネが強く意識しているのは攻撃面での変革だ。世界五指を目指して、セットプレーとカウンターに依存しない攻撃組織を構築することを目的に動いている。特にCLの舞台では、格下のチーム相手にはボールを保有する時間が長くなる。そうした場面で着実に勝利を狙うことを考えれば、ルマルの獲得は最高の選択だった。

クラブ史上最高額でモナコから加入したルマル

 今季もスペインとヨーロッパのタイトルに挑んでいくアトレティコは、移籍市場でも積極的に動いている。しかし、それでも国内と欧州の両方で結果を残すことを考慮すれば、選手層は薄い。ケガなどのトラブルがあれば窮地に陥りかねないのが現状だ。攻撃のパターンを増やすことは課題で、CLのトップ4を目指すにはグリーズマン、ルマル、D.コスタがコンビネーションを構築しなければならない。


Photos: Getty Images
Translation: Kouhei Yuuki

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アトレティコ・マドリーディエゴ・シメオネ

Profile

ダグラス ヤコブセン

スウェーデン・ストックホルム在住のサッカー指導者。15年に19歳でUEFA-Aライセンスを取得し、同国の最年少保持者記録を更新。スウェーデン体育大学でエリート指導者育成プログラムに参加中。将来的にはJリーグでの指導にも興味を示す。ツイッターアカウント「@coachdogge」で動画分析を配信中。