
ガビ、ラミン・ヤマルと毎年のように有望株を輩出するバルセロナのカンテラ。今季は17歳のパウ・クバルシがトップチームで存在感を放っており、3月のリーガ第29節アトレティコ・マドリー戦でもロナルド・アラウホとのコンビでクリーンシート達成に貢献した。早くもシャビ監督からの信頼を勝ち取り、スペインのA代表にも選ばれた若きCBを、バルサファンのぶんた氏に紹介してもらおう。
クラブにお金はないが、チームには黄金の資産がある。それを地で行くバルセロナの今シーズン。序盤にはプレーが洗練され1人で決着できる16歳のウインガー、ヤマルのパフォーマンスにぶったまげたが、終盤にかけて疾風のごとく現れたのが17歳のクバルシである。失点になりそうな要因をしっかり消せる守備対応と、ボールプレーのダイナミックさを共存させるクレバーなCBに、クレ(バルセロナファン)は首ったけになっている。
そんなスーパーカンテラーノの台頭の効果は、数字やピッチの現象として表れている。クバルシが先発した10試合とそれ以前の10試合を比較すると、失点が18から9にまで減少。今シーズンの問題点になっていた失点の大幅増を食い止めることに成功している。第29節アトレティコ・マドリー戦では、クロス対応時に第3のCBとしてゴール前を固めるアンカーのアンドレアス・クリステンセンが急きょ欠場するアクシデントに見舞われるも、クバルシをはじめとする守備陣が結束。組織の欠点を減らし、戦術的な適応性を高めたチームは、強敵の攻撃を跳ね返しつつ、相手の勢いを利用する落ち着いた試合運びもできるようになった。結果として無失点かつ試合内容も改善されるという、小さくないクバルシ効果が証明されたのだった。
Cubarsíííííí 😍 pic.twitter.com/SqoTiGGcEP
— FC Barcelona (@FCBarcelona) March 31, 2024
直近のCLラウンド16ナポリ戦(3-1)、そしてアトレティコ戦(0-3)と、ビッグマッチで内容が伴う勝利を挙げたことでシーズン終盤に向けて良い流れになってきたが、それまでは紆余曲折があり過ぎた。
ハイプレスがハマらず、漏れたところからカウンターを受け、浮き足立って無駄な失点を繰り返す。ビルドアップはフリーなフレンキー・デ・ヨングがいないとグレーゾーンが拡大する負の共鳴が際立つ。崩しの局面では精度を欠き、適切な“ボールの失い方”もできずネガティブトランジションでボールを奪い返せない。こうして、プライドは高いが美意識を感じないシャビのフットボールの限界が露呈。いつまで経ってもバルサらしいプロセスで結果を正当化できないことで、ネガティブな外圧が腫れ上がり、その渦に飲み込まれる「エントルノ」と呼ばれるバルサ特有の病気にチームがかかった。この厄介なウイルスは守備の大黒柱であるアラウホの調子も狂わせたが、それも後輩カンテラーノがメキメキと頭角を現す相乗効果で元のフォームを取り戻した。けれんのない心で真っ直ぐに、やるべきことを力強くこなすクバルシのプレーは、チームが感染していたウイルスを少しずつ治療する一因にもなっていた。
バルサらしいビルドアップの申し子
クバルシの最大の魅力は、チームの状況を良化させるパス能力である。「ビルドアップのパスはチームで一番うまい」とシャビは認め、いつも2列目を探しながら「“出すべきパス”の上を行くパスを出せる」と証言している。
とはいえCBのプレーエリアは自軍ゴールに近く、ミスをしてはいけないエリアなのでリスクを最小限にまで引き下げることを優先しないといけない。実際ビルドアップの初手は“出すべきパス”が多い。無理なく、無駄なく、ミスなくという基本をしっかり押さえつつ、相手の出方をうかがう。そしてバックパスなどオープンな状態でボールを受けると、一発で戦況を変えるパスは隠し持ちながら、相手の状態とスペースの変化を見定め、瞬間的に生み出される動的なスペースを活用して“出すべきパス”の上のパスを的確に差し込む。そのためのボールを受ける準備、戦況の見極め、選択の判断がクバルシは秀逸である。……



Profile
ぶんた
戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」