SPECIAL

日本も経験した”W杯後”。ロシアの祭りは国内リーグで続く

2018.09.14

ワールドカップとオリンピックの両巨頭をはじめ、メガスポーツイベントの開催に際し無視できないのが“大会後問題”だ。盛り上がりをうまく国や競技の振興に活用できる例もある一方で、国を威信を懸け整備したスタジアムやインフラが無用の長物と化し、財政を圧迫するような事例も少なくない。ただ、場合によっては大会中や直後から問題が噴出するケースも見受けられるが、今年のワールドカップ開催国ロシアに関しては、今のところ祭典の余韻に浸っているようだ。


 世界各国から運営を高く評価され、代表チームもベスト8と躍進し大成功に終わったロシアW杯。その興奮がまだ冷めやらぬ7月最終週には、ロシアプレミアリーグが早くも開幕を迎えた。多くの人々が祭典の熱狂を忘れられないようで、現地メディアは「お祭りはまだ続く」と各地の盛り上がりを盛んに伝えている。

 開幕節8試合の平均観客数は2万955人。1万3500人ほどだった昨シーズンと比べるとその差は歴然だ。特にサマラでのクリリア・ソベトフ対CSKAモスクワ戦では試合前からチケットが完売となり、3万9173人の入場人員レコードを樹立。また、3000人の観客を集めるのにも苦労していた2部でも日本代表が試合を行ったサランスクやボルゴグラードでは3万人近くのファンが押し寄せる「異常事態」に。モルドビア・サランスクのマラト・ムスタフィン監督は「これほどのスタジアムと大観衆は、選手たちに力と勇気を与えてくれる。これを体験してしまうと、もう元のスタジアムには戻りたくないね」と喜びを語るとともに、新スタジアム使用料の値下げを願っていた。

 プーチン大統領は大会の成果に気を良くしたのか、観光促進を狙ってW杯のファンIDを持つ者への入国ビザ免除を今年末まで延長すると宣言。さらに、フーリガン対策として国内リーグにおいても同様の認証システム導入が検討されているが、取得の煩わしさや個人情報管理の徹底が課題となっている。

第2節CSKAモスクワ対ロストフで、立ち上がり声援を送るCSKAファン


サッカーのトレンドも変える

 W杯はロシアサッカー界のトレンドも変えようとしている。昨季リーグ制覇を達成したロコモティフ・モスクワのユーリ・ショミン監督や代表のスタニスラフ・チェルチェソフ監督の成功を受けて、「ロシア人でもやれる」というムードが高まっている。03年から外国人指揮官を起用し続けてきたゼニトは今季OBのセルゲイ・セマク監督を迎え、その他のクラブもドミトリ・アレニチェフ(エニセイ)、ドミトリ・ホフロフ(ディナモ・モスクワ)、アンドレイ・チホノフ(クリリア・ソベトフ)、ワレリー・カルピン(ロストフ)といった代表レジェンドたちの名が並ぶ。旧ソ連諸国を除けば、外国人監督はスパルタク・モスクワを率いるイタリア人のマッシモ・カッレーラのみ。選手の世代交代も進んでいるが、財政難もあって国産選手で賄うクラブが多い。

ゼニトのセルゲイ・セマク監督

 真新しいスタジアムは多くのファンで賑わい、W杯の代表選手たちを筆頭に「ロシア人によるサッカー」への注目がかつてないほどに高まっている。これを一時のブームで終わらせないために、肝心なのは試合内容だ。開幕節は3試合が0–0のドローに終わり、「守備重視のチームが多過ぎる。イニシアチブを自ら取るのはゼニトとスパルタクだけ」と多くの専門家が苦言を呈していた。W杯でロシア代表が見せた全力でゴールを目指すアグレッシブなスタイルが、これからも残していくべき「遺産」として求められている。

3万を超える観客が見守る中、結果はスコアレスドロー。開幕節クリリア・ソベトフ対CSKAモスクワは、まさにロシアサッカー界の今を象徴するような試合となった


Photos: Getty Images

footballista MEMBERSHIP

TAG

FIFAワールドカップロシアプレミアリーグ

Profile

篠崎 直也

1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。

RANKING