SPECIAL

キミッヒは、SBの未来像である。ドイツ発の分析サイトが絶賛

2018.04.24

すべてを可能にする、将来の選手のロールモデル

Joshua KIMMICH
ヨシュア・キミッヒ

1995.2.8(23歳) 176cm/70kg GERMANY


複数のポジションでワールドクラスのプレーができる突出したMF。だが、現在バイエルンとドイツ代表で任されているのは右SB。ドイツ発の分析サイト『Spielverlagerung(シュピールフェアラーゲルング)』は主張する――彼はSBの未来像であり、来たるべき未来の選手像を体現している、と。

 「……そこには止むことなくチームメイトに指示を出し続ける、小さな“6番”(ドイツ語で守備的MF)の選手がいたんだ。彼が試合中ずっと仲間にコーチングする姿は、信じられないほどのものだった」

 ドイツサッカー連盟で働き、U-17ドイツ代表コーチも務めたマルセル・ルカッセンはヨシュア・キミッヒについて回想しながら、彼の特徴をそう描写した。ルカッセンはノルトライン・ベストファーレン州選抜とバーデン・ビュルテンベルク州選抜の試合を観察していて、彼に惹きつけられたのだった。ルカッセンはこうしてキミッヒを代表のアンダーカテゴリーに招集し、成長の手助けを続けた。仮にルカッセンがあの場にいなければ、派手なプレーをせず、線も細いこの選手は見過ごされていたかもしれない。キミッヒは当時から絶対的なまでに素晴らしいオールラウンドな能力を備えていながらも、それほど目立った選手ではなかったのだ。


お手本通りの“6番”
Lehrbuch-Sechser

 キミッヒは生まれながらのボランチだ。ワールドクラスのSBについて書いているにもかかわらず、良い書き出しだろう? だが、キミッヒはボランチに必要なすべての能力を兼ね備えている。アグレッシブでダイナミックなボール奪取能力、完璧な空間管理能力、いつでもプレッシングに行ける体力と集中力、緻密にゲームを読んで理解する能力、それを伝えるコミュニケーション能力、クレバーなパス配給、トップレベルのポジショニング……これら全部を装備しているのだ。

 サッカーの試合中にキミッヒの頭の中で何が起きているのかは、彼の頭部の動きを見れば読み取れるだろう。(少なくとも彼が中盤の真ん中でプレーしている時)それはまるでプロペラのように回り続けている。彼は非常に高い頻度で肩越しに背後を見回しているのだ。さらに驚かされるのはそのスピード。彼が視線を送る速さは、まさに瞬きをするような一瞬だ。このことは、キミッヒがいかに高速のスピードで視覚情報を収集し、それを処理しているかを示している。

 本来なら、こういった選手はピッチの中央でプレーするものだ。そうすることでチームをオーガナイズし、ゲームをコントロールし、試合を形作ることができる。キミッヒは言うなれば、スワンジーのレオン・ブリットンとミランで活躍したジェンナーロ・ガットゥーゾ(現ミラン監督)を合わせたような選手だ。しかしながら、現在のバイエルンとドイツ代表にはMFに良い選手が集まっている一方、SBに関してはそうではない。加えて、キミッヒはSBとして最低限のスピードを兼ね備えている……こうして、この生まれながらボランチの才能を持った逸材はSBにコンバートされることになった。


釘か、ロケットか?
Nadel oder Rakete?

 かつてのSBは、まずアスリートとしての身体能力を最も厳しい水準で求められ、技術や戦術の面ではそれほど高い要求をされることがないポジションだった。そのため、規律を守れると同時にロケットのように爆発的なアップダウンを繰り返せる選手が起用されてきた。それでいて現代サッカーにおけるSBは、最終ラインから攻撃をビルドアップする時に相手のプレッシングを受けるターゲットになりやすいポジションでもある。守備側のチームは中央をしっかりと閉じ、サイドに誘い込み、そこで一気にプレスを仕掛ける。

 これに対して攻撃(ボール保持)側のチームは、SBにボールを送らないようにするか、あるいはどうにかしてプレスをかいくぐるか、その策を講じなければならないのだが、プレス精度も上がり続ける現代サッカーではどちらも容易ではない。よってSBにも、敵のプレスに慌てることなく、ボールを失わずに質の高いパスで状況を打開できる選手の必要性が高まっているのだ。こういった現状で、キミッヒやレアル・マドリーのブラジル代表マルセロの能力はとりわけ目立つ。

 しかし、だからと言ってボランチの特性がある選手をここに配置すれば良いかといえば、そうでもない。逆にこれまで重要視されてきたアスリート的な能力が低下し、本来あるべきスピードを生かした突破力が欠けてしまうからだ。敵陣ゴール前のアタッキングサードのエリアにおいて、SBには幅を確保した上でゴールラインぎりぎりまでボールを運んでクロスを上げる役割が求められる。Rマドリーとドイツ代表で主軸を務めるトニ・クロースが世界トップクラスの選手だとしても、このポジションに向いているとは言いがたい。現代のSBは、2つの要素を併せ持つ必要があるのだ。強烈なプレッシングの中でも慌てずボールをキープして正確なパスが出せること、そしてスピードとそれを生かした突破力。キミッヒは現在の定位置で試合を重ねるたびに、この両要素を融合させ、未来のSB像を作り続けている。たゆまぬ成長を遂げた今では、このポジションでも彼より優れた選手はほとんどいないだろう。


一方向から、多方向へ
Wenn aus einer Richtung viele werden

 ゴールラインに向かって縦方向へボールを運ぶプレーに関しても、キミッヒは昨季を通して完璧なまでに実行してみせた。SBで起用され始めたばかりの頃は、SBに特有の破壊的な突破力は彼の特徴にそぐわないように見えた。ドイツ代表でも当初は頻繁に批判の対象にされていた。だが、キミッヒはSBとしての自身の強みを自覚していた。彼は縦への突破が不可能だと察知すると、斜め前方にダイアゴナルなボールを送るか、時には横パスを使うことで攻撃方向を拡張してみせたのだ。

忘れられがちだが、大外のサイドレーンから低いボールを中央へと送るのは有効な攻撃パターンだ。特別にスペクタクルというわけではないものの、非常に効果的なプレーで、キミッヒが好んで使う得意なプレーの一つである

 キミッヒは頻繁に中央方向へ体を向け、サポートに来る味方を探し、適切なコンビネーションプレーを行う。場合によっては、縦方向の突破ではなく、そのまま斜めにコースを取ってペナルティエリア内へ一気に侵入することも試みる。状況を見ながら、さらに外へ開いたり、後方にポジションを取り直すこともある。こうして、バックパスやサイドチェンジの効果を固めるために深さや幅を取り直すのだ。これらキミッヒ特有のプレーにより、うまく撤退してスペースを埋めてきた相手を崩す新しい可能性が作り出されてきた。これまでの典型的なSBによる縦への突破の代わりに生み出すのは、ハーフスペースを有効に使ったコンビネーション、狭いスペースの中でバランス良く配置されたゲーゲンプレッシングの準備に向けたポジショニングといった、戦略的なプランBとしても有意義なものばかりだ。

 SBにも適応したキミッヒはプレーのバリエーションが多彩で、相手DFラインの裏のスペースを一気に攻略するために、いつプレーに絡まなければいけないのか、どのようにボールを動かすべきなのかを熟知している。サイドからのクロスも、際立った質のボールを上げられるまでに進化。そのためのパスの技術は元から備えていた。チャンスメイクに関する彼の位置取りと予測能力も認めないわけにはいかない。キミッヒのような選手がバイエルンやドイツ代表のSBとして機能することは明らかだった。

 これらの能力により、キミッヒはペナルティエリア内を守る選手にとって危険な選手になった。これまで苦手としていたアタッキングサードでのプレーでも強烈な存在感を発揮。ドリブルやクロス、コンビネーションプレーなどオン・ザ・ボールの局面だけではない。彼はオフ・ザ・ボールの状態でも自身の能力を証明してみせた。ボールを持たないまま斜め方向へのフリーランニングでエリア内に入り込み、こぼれ球やクロスボールをゴールに繋げられることを見せつけたのだ。今季バイエルンでは公式戦4得点12アシスト(18年2月末時点)、ドイツ代表のロシアW杯予選では10試合で12得点に絡む数字を残している。

昨年8月のスーパーカップ、ドルトムント戦でキミッヒがアシストを記録したバイエルン1点目のシーン。キミッヒ(左端)はフルスピードでゴールライン方向にスプリントし、後方からのボールを受ける。味方がパスを出せる状況にあると察知し、同時に自身をマークする選手を釣り出そうとするミュラーの動きを認知できていたことが突破を可能にした。彼はすべてを見た上でスタートしていたのだ


攻撃的なプレッシングを解体し、無効化させる
Angriffspressing-Auflöser

 キミッヒの持つ多彩さは、ビルドアップ時により際立ち、大きな意味を持つ。ボランチの選手として、彼はパスコースを作るために素早く動き直すことに慣れていた。それによって相手のプレッシングを外しながら、ボールを前に進めて行くのだ。加えて、彼は中央にポジションをずらして行くことも怖がらない。プレッシャーをかけるために相手選手が寄って来ても、味方とのコンビネーションで鮮やかにかわしてみせる。

 このようにキミッヒは、対戦相手のプレッシングを無効化させる多くのプレーのバリエーションを備えている。とりわけ敵が果敢に攻撃的なプレスを仕掛け、CBへのパスコースが切られている状態では、キミッヒのプレーが決定的な役割を果たすことが多い。例えば、ボールを受ける際にファーストタッチで中央に入って行くことで、彼自身がサイドで孤立するのを回避するプレーはその一つだ。

 また、オフ・ザ・ボール時に中央に絞りながらポジションを取ることで、CBへのパスコースを切っている相手FWの注意を背後から引きつけ、マークを外させて、CBにパスを送れる状態を作る。そうでなければ、GKは相手FW背後の空いたスペースにいるキミッヒに直接ボールを送る。その場合、彼はボランチのように中央のゾーンからボールを展開することができる。この動きは近いうちに標準化されるのではないか。今のところ、こういった動きを公式戦で実行するのに必要な(グラウンダーのパスを繋ぎながら異なるゾーンでプレーするような)経験を積んでいる選手は少ない。そのためには状況を早い段階で十分に察知し、周辺にいる選手たちも適切に反応しなければならない。そうでなければ、対戦相手があっという間にショートカウンターからゴールに迫るような大きな問題に直面するだろう。

プレッシング回避のお手本になるような一連のプレー。このシャルケ戦のシーンでは、相手の中盤がプレスを仕掛ける中、キミッヒ(左上)がバックパスを受けるために中央へ絞り、サイドのレーンに向けて角度をつけたボールを送ることでプレスを突破した


中~外のポジションチェンジ
Innen-Außen-Wechsel

 前述のような中央に絞るポジション取りの効果は、相手のプレッシングの構造システムをずらしながら新たなパスコースを創出するだけではない。相手が自身の動きに対して動いてくるようならば、大外のレーンにパスコースを作り、そのスペースに入って来るウイングの選手にボールを送ることができる。このやり方は、グアルディオラも頻繁に使うものだ。こうしてCB、あるいは3バック両脇のDFから、ウイングの選手へと直接ボールを配球できるようになる。

 キミッヒは戦況を広く見渡せる戦術眼と個人能力を備えており、外に張ることも中に絞ってプレーすることもできる。これにより、状況に合わせてチームのシステムをうまく調整しているのだ。さらに彼は、ボールがうまく前線まで運ばれてチーム全体が押し上がる流れの中で、インサイドMFあるいはトップ下のポジションのカバーすらもしてしまう。また、この中央に絞ったポジションからDFラインの高さまで下がることも、再び同じ高さのサイドのレーンまで開き直すこともできる。こうして中央のスペースを空け、サイドからビルドアップを開始することで、その中央のスペースにボールを入れられるようになる。


キミッヒは何でもできるのか?
Was kann er alles?

 これから先の10年、キミッヒが所属するチームの監督たちには、すべての可能性が開かれている。彼をCB、あるいは3バックの一角として使えば、後方からのビルドアップを加速させてくれるだろう。SBで起用すれば、ここまで述べてきたようにチーム全体のバランスを取りながら高精度のクロスで得点をアシストし、ビルドアップ時には相手のプレッシングを解体してくれる。中盤センターの選手としては、試合をコントロールしながらゲームメイクまでしてくれる。ハーフスペースを主戦場とするインサイドMFとしては、これらすべての特徴を組み合わせたハイブリッドな役割を果たしてくれる。要するに、キミッヒがいれば、すべてが可能になるのだ。彼は監督の狙いを理解し、それを実行し、当然ながら正確な判断も伴っている。すべてが可能な選手を分析する際に、他に議論する余地などあるだろうか?

 だが、未来の選手像のロールモデルになると主張するのは、キミッヒが他の誰も真似できないほどに完璧な選手だから、という理由だけではない。彼がゲームに構造を与えようとする意識の集中度や、絶え間なくポジションを調整し続けながらチームメイト全員に送る質の高いコーチング、ボールを持つことを恐れない勇気、積極的でありつつバランスにも配慮しているボールへのプレッシング……これらすべてが来たるべき未来のサッカーに必要となる能力なのだ。キミッヒのプレースタイルや選手としてのタイプは、あらゆる観点から見ても現代の、および未来のサッカーで必要とされる選手像のプロトタイプとして、その将来の在り方を指し示している。


Photos: Getty Images
Analysis: MR
Translation: Tatsuro Suzuki

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ジョシュア・キミッヒバイエルン

Profile

シュピールフェアラーゲルンク

2011年のWEBサイト立ち上げ以来、戦術的、統計的、そしてトレーニング理論の観点からサッカーを解析。欧州中から新世代の論者たちが集い、プロ指導者も舌を巻く先鋭的な考察を発表している。こうしたプロジェクトはドイツ語圏では初の試みで、13年には英語版『Spielverlagerung.com』も開始。監督やスカウトなど現場の専門家からメディア関係者まで、その分析は品質が保証されたソースとして認知されている。