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フットボール・リークスは何者?波紋を広げる謎の集団に迫る

2016.05.08

サッカーの影を歩く 第67回

ベイル、ハメス・ロドリゲス、ネイマールにルイス・スアレス――大物選手の契約書をWEB上に次々と公開し、2015年11月の開設からわずか数カ月にしてサッカー界に大きな波紋を広げている内部告発サイト『フットボール・リークス』。暴露される名前の大きさやその契約内容の詳細に注目が集まりがちだが、そもそも彼らは何者で、どんな目的で活動しているのか。謎に包まれたその実態をレポートする。

 冬の移籍市場が閉じたばかりの2月上旬、ドイツの各大手メディアがこぞって『フットボール・リークス』にEメールで話を聞いたインタビュー記事を掲載した。「サッカー界のウィキ・リークス」と呼ばれ、彼らからインスピレーションを得たと自称するこのグループは次々とサッカー界の移籍にまつわる裏情報、とりわけ契約書の写真データをネット上で公開。あっという間に関係者を震え上がらせるほどの影響力を持つに至った。

 彼らはいったい何者なのだろうか?

ポルトガルが活動拠点

 まずは簡単に経歴をまとめてみよう。

 彼らはポルトガルに拠点を置き、現在も同国に在住していることを明かしている。何人で運営しているのかは公表していない。WEBサイトを開設し、本格的に情報公開を始めたのは2015年11月のこと。長い間温めていた計画の実行に至ったきっかけは「2015年夏のポルトガルの移籍市場で、とても“奇妙な移籍”が多く目に付いたことだ」と各メディアに答えている。そこから『南ドイツ新聞』は、彼らの言う奇妙な移籍の一つがベンフィカの監督だったジョルジュ・ジェズスがリスボンの因縁のライバルであるスポルティングへ“禁断の移籍”を果たしたことだと推測。『フットボール・リークス』はジェズスの監督就任に費やした費用はスポルティングの年間予算の20%にも上り、契約期間中でありながらスポルティングでの仕事を始め、ベンフィカ時代のデータを記録したソフトウェアをそのまま持ち去ったことを明らかにした。

 そうした経緯から『エルフ・フロインデ』誌の記事で「ベンフィカとの繋がりがあるのでは?」と水を向けられると、「いや、我われは完全独立の組織だ」と断言。また、数多くの契約書を公開しているものの、問題が生じているのは「スポルティングとドイエンスポーツとの間のみだ」と強調している。

標的はドイエンスポーツ

 ドイエンスポーツ――すでにこの名前を聞いたことがある読者もいることだろう。『フットボール・リークス』は移籍市場で暗躍する謎に包まれた組織の具体的なシルエットを、ドイツ大手メディアのインタビューの中で明らかにしている。ドイエンスポーツはマルタに本拠を置く投資ファンドであり、FIFAが禁止する「Third Party Ownership(第三者保有)」(投資ファンドやエージェントなどの第三者が選手の保有権をクラブと分け合うこと。FIFAは2015 年1月から禁止としたが、それ以前に結ばれた契約は有効となっている)の実行犯として疑われてきた組織だ。彼らはシャビやシメオネといった一流どころのマネージメントを請け負う一方で、投資会社として資金運用を行っている。経営難に苦しむクラブに資金を提供し、クラブ運営に間接的に関与できる仕組みを作っていると言われている。ドイエンスポーツとの不正な取り引きに関しては、FIFAが『フットボール・リークス』の情報を証拠としてオランダのトゥエンテに3年間の欧州カップ戦資格停止処分を下している。

 ドイエンスポーツはカザフスタンの富豪であるアリフ一族の資本から成り立っており、代表のネリオ・ルーカスがポルトガル警察局上層部の人間と親友であること、そしてポルトガル警察局が彼らに対して捜査令状を出す一方で、クラブとエージェント会社を通じて行っていると噂される資金洗浄の大部分に目をつぶっていることもつかんでいるという。『フットボール・リークス』のWEBサイトのサーバーがロシアにある理由も地元警察の妨害対策だろう。

 「サッカーファンのために契約の透明性を確保すること」を大義名分とする『フットボール・リークス』は現代の怪傑ゾロなのか、それともただの無法者集団なのか。「500ギガバイト分の情報が残っている」と語る彼らの動向から目が離せない。

<著者紹介>
鈴木達朗

仙台出身。獨協大学ドイツ語学科卒業後、ベルリン自由大学でドイツ文学修士課程を卒業。現在はサッカーコーチ、通訳・アシスタント・コーディネーター、スポーツレポーターとして活動中。

カルロス・ゴメシュ

ベルリン在住のポルトガル人フリーランスジャーナリスト・作家。幼少の頃にドイツ語圏で過ごした後、リスボン大学およびサラゴサ大学で文献学と社会学を専攻。スポーツ界の不正問題にとりわけ関心が強く、その分野において多様な方法を通じてリサーチを行い世界中のメディアに寄稿している。また、スポーツ一般においても造詣が深い。

Photo: Getty Images

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32号サッカーの影を歩くジョルジュ・ジェズススポルティングフットボール・リークスベンフィカ転載

Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。

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