「骨がパカパカ言っても」走り続けるル・アーブルのCB兼6番、瀬古歩夢が「最後の代表サバイバル」へ
初参戦のリーグ1でセンターバック、そしてボランチとして八面六臂の大活躍。フランス国内外から注目を浴びているル・アーブルの「今季ベストプレーヤー」が瀬古歩夢だ。1月末に負った肋骨骨折から復帰し、日本代表メンバー入りを果たした25歳に、3月15日と22日の試合後、現地で話を聞いた。
人間離れした“スモウ”並みの戦術リーダー
日本代表のDF瀬古歩夢は、3年半所属したスイス1部リーグのグラスホッパーから今シーズン、リーグ1のル・アーブルに加入した。以来、中盤の底や4バックのCB、3バックの真ん中など、時には試合の最中にも持ち場を変えながら、いずれのポジションにおいても抜群の存在感を発揮している。そんな彼については「今季のベスト補強」「今季のチームで最も安定してハイパフォーマンスを発揮している選手」と、現地でもものすごく評価が高い。
それは噂レベルではなく、2025年10月、2026年1月と、すでに2回もクラブの月間MVPに選出された。1月の受賞時点で、それまでのシーズンの3分の1を彼が占めたのだからすごい。
リーグ1でのデビュー戦は、南野拓実のASモナコと対戦したシーズン開幕戦。さっそく先発フル出場すると、9月の代表遠征から戻った直後の第4節ストラスブール戦でベンチスタート、第8節マルセイユ戦で84分に交代した以外は、出場した全試合で90分間ピッチに立っている。
1月30日に行われた第20節RCランス戦では、後半80分、自軍のGKと接触して倒れたが、痛みをこらえてアディショナルタイム12分を含むその後の約20分間をプレーした。検査の結果は、なんと肋骨の骨折。相当な痛みがあったはずだが、それでも瀬古は最後までピッチを激走。ディディエ・ディガール監督はそんな彼に「人間離れしている」と驚きを込めた賛辞を贈った。
翌週から3試合を欠場したが、本拠地スタッド・オセアンでの第24節パリ・サンジェルマン(PSG)戦で復帰。試合2日前に行われた会見では、「今日初めて全体練習に復帰したばかり。まだコンタクトプレーはしていないしリスクもあるから、メンバー入りできればいいかという状態」とディガール監督は慎重だったのだが、フタを開ければ先発フル出場。相手とのデュエル、瞬時にボールを前方に展開してはビルドアップの起点になるなど、復帰初戦とは思えない安定のパフォーマンスで、現欧州王者を相手に0-1の惜敗という好勝負に寄与した。



第27節を終えて14位につけるル・アーブルの失点数35は、少ない方から数えて7番目(全18チーム)。マルセイユに6点を献上し、パルク・デ・プランスでPSGに3点を奪われた以外は、大量失点や大差での敗戦はなく、リーグワースト3位の失点数だった昨シーズンよりも格段に向上している。
現地の報道陣のとりまとめ役でもある重鎮ジャーナリストのジャン・ルイ・ガロ記者は、「実は最初は懐疑的だったんだ」と瀬古の印象を話す。
「よく知らない選手だったしね。しかし驚いたよ。守備でのデュエルは力強い。まるで“スモウ”並みだ(笑)。そんなフィジカルな攻防戦の中でも、彼は常に周囲を360°見ている。そして試合の状況を把握している。彼がこのチームの戦術リーダーだ。文句なしに、今季のル・アーブルのベストプレーヤー。しかも人柄もいい。彼はフランス語も話すんだ」
そこで会話に入ってきたスタジアムスタッフが続ける。
「まったく同感だ。彼は今季のベストプレーヤーだよ。来季も残ってほしい、とみんな思っているけど、難しいだろうね」
瀬古の契約は2年間。2027年の夏までだが、
「クラブにとって魅力的な金額なら契約があろうと関係ない。ドイツ、スペイン……いろんなリーグの噂が聞こえてきている。まあ引き留めは、無理なんじゃないかな」
2人はそう言いながら、諦めたように笑っていた。
スタジアム周辺で言葉を交わしたサポーターたちが心配していたのも、瀬古の去就。「今季のル・アーブルの目標はひとまず1部残留(maintien)?」と聞くと、「セコの引き留め(maintien)」であると。今季の活躍ぶりで、おそらく引き抜かれてしまうんだろうと、サポーターは心配しているようだった。
ネットやSNSに書き込まれたサポーターのコメントなどで、瀬古の加入がものすごく歓迎されていることは見聞きしていたけれど、現地に行って実際に感じた彼の重要度・人気度はそれ以上だった。
この移籍は、クラブにとっても、そして瀬古自身にとっても大成功だったようだ。
そんな、現地で非常に高い評価を受けている瀬古選手。退場者を出して10人になりながらも価値ある勝ち点1を手にした第26節のリヨン戦(△0-0)と、相手のボレーシュートが体に当たって残念なオウンゴールを献上してしまった第27節のパリFC戦(●3-2)の試合後に、取材エリアで聞いたフレッシュな談話をお届けします。
「骨動いてました」「激痛です」「根性です!」
――肋骨の負傷で約1カ月欠場した後、2月28日のPSG戦で復帰されました。監督はメンバー入りできれば御の字だと言っていたのに、さっそくフル出場で存在感を発揮していましたが、ケガのほうはもう大丈夫ですか?
「今は状態もいいですし、たまに痛むことはありますけど、まあそこは気にせずやってます。今日の試合(リヨン戦)に関しては、10人になった中で勝ち点1を取れたのは自分たちにとって非常に大きいですし、次の試合に向けて準備していきたいなと思っています」
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。
