かつて“13歳の戦術家”としてSNSで話題を呼んだこともある宮下白斗さんは、19歳になった現在、ウェールズへと単身留学中である。「将来の夢は日本代表監督」と語る彼が、ウェンブリースタジアムのイングランド戦を見届けた。最も好きな指導者としてトーマス・トゥヘル監督を挙げてきた男は、この試合に何を観たのか。
予想は「7-0でイングランド」!?
イングランドと日本の試合が行われる数週間前、サウスウェールズ大学フットボールコーチング学部の1年生は授業の間の合間にこの試合のスコア予想で盛り上がっていた。
オーストラリアから来たアジアの国々をよく知る友人は日本の強さを評価した一方で、イギリス人の大半は当然のようにイングランド勝利を予想していた。中には「6-0、いや7-0でイングランドが勝つと言っていい」と煽ってくる友達までいた。なのでこちらは「日本が勝ったら坊主にしろよ」と言い返してやった。僕の地元・大阪と同じく、ウェールズでも「言われたら言い返す」のは鉄則だ。
このように同級生のイギリス人からの日本の評価はお世辞にも高いとは言えなかったが、前回のW杯でのドイツ戦とスペイン戦、そして昨年のブラジル戦など、ここ数年強豪国を度々撃破してきた代表チームへの自信と期待を自分の胸に秘めつつ、ウェンブリースタジアムに足を運んだ。
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— Hakuto Miyashita (@hakutom39) March 31, 2026
“ダブル偽9番”を機能させず
キックオフ1時間前に発表されたラインナップは、日本が今回のメンバーの中ではベストと言える布陣であるのに対し、イングランドは絶対的なエースストライカーであるケインが不在。パーマー、フォデン、ロジャースという3人の“10番タイプ”が名を連ねる陣容で、「誰が前線で起用されるのか」がまず焦点となった。
試合が始まると、トーマス・トゥヘル監督のプランがこちらの予想と異なっていたことが明らかになる。後方は4バックと2ボランチで構成し、内側に絞る右ウイングのゴードン、左ウイングのロジャースが日本の最終ラインに張り付いて深さを確保。そしてパーマーとフォデンの2人が“偽9番”として振る舞う“ダブル偽9番”システムだったのだ。
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対する森保監督率いる日本は、いつも通り攻撃時は[3-4-3]、守備時[5-2-3]の形である。
[5-2-3]でブロックを敷く日本の選手たちが届かない場所に選手を配置し、ウイングバックと3人のCBを積極的に押し出し、日本のブロック守備とプレッシングを空転させる。それがトゥヘル監督の狙いだった。
日本はCFの上田綺世が相手ボランチを管理するため、上田に2人(ボランチのメイヌーとアンダーソン)を当てて片方をフリーにし、中央を経由してボールを循環させやすくする。加えて“ダブル偽9番”のパーマーとフォデンは日本のCBとボランチの間で掴みどころのない立ち位置を取って日本側のマークの受け渡しを困難にさせる。CBが偽9番の選手に食いついた場合は、ウイングバックと左右のCBの間に位置するゴードンかロジャースがその背後を取る。このような算段だったのだ。
しかし、このイングランドによる“ダブル偽9番システム”は全くと言っていいほど機能しないまま、前半45分を使い果たすことになる。
日本の守備ブロックが常に非常にコンパクトな状態に保たれていたことが大きな要因だった。最終ラインから最前線の上田までの距離を15mから20m、あるいはさらに短く維持していたため、MFと最終ラインの間のスペースは極めて狭く限定されていた。谷口を中心とした最終ラインが相手をコントロール。その様子はウェンブリーのスタンドからもよく見て取れた。
最終ラインを高い位置に設定しつつ、相手が背後へ走ったら揃ってラインを下げて裏のスペースをケア。裏へのパスが出なければ同様に揃ってラインを止め、バックパスが出たらまとまって素早くラインを上げる。この作業を繰り返して、ハイラインの裏のスペースを管理しつつライン間のスペースも制限。パーマーやフォデンにパスが入れば即座に2、3人で囲い込んでボールを奪うことを可能にしていたのだ。
もう1つの要因としてはイングランドが幅を使って攻撃できなかったことがある。
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Profile
宮下 白斗
2006年4月26日、大阪府生まれ。13歳から試合分析ブログを書き始め、高校入学と同時にスクールコーチとして福山シティFCに加入。その後2年間トップチームコーチを担当した。高校卒業後ウェールズのサウスウェールズ大学のフットボールコーチング学部に入学し、現在は現地のアカデミーで分析官兼コーチをしている。
