一昔前は日本から欧州移籍するGKやCBはほとんどいなかったが、近年は特にCBの世界進出が急増している。190cm近いサイズが珍しくなくなったこと、日本人選手全体の評価が高まっていることも大きな理由だが、そこには戦術トレンドの変化も関係しているという。現代CBに求められるタスクの優先順位が変わりつつあるのだ。
理想は冨安。日本代表のキーマンは複数ポジションをこなせるCB
日本代表の米国遠征メンバーが発表されている。いつになくアンバランスだ。
当初発表では3人しかいなかったボランチのポジションには佐野航大、鎌田大地が追加招集されたが、1トップとおぼしき候補が5人もいる反面、3つあるCBに5人しか選ばれていない。渡辺剛、板倉滉、瀬古歩夢、荒木隼人、安藤智哉。この中で3バックの左を主戦場としているのは安藤だけ。
伊藤洋輝、町田浩樹は負傷などで招集されず。左ではないが高井幸大、谷口彰悟もいない。長期に戦列を離れ、現在は所属先のない冨安健洋も呼べない状況だ。
E-1選手権では右に回っていた安藤にとっては大きなチャンスが訪れたが後日、負傷で辞退となった。結局、右SBが本職の菅原由勢が追加招集されている。
現状で4バックは無理。左SBが長友佑都しかいない。3バックでもかなり苦しいが遠藤航を下げれば、とりあえず3CBをこなせるのが5人となるので、2試合乗り切る人数は何とか揃う。
負傷者続出で思わぬ緊急事態となってしまったが、本来なら日本代表のCBはかなり充実している。ポリバレントなDFが多いのが強みだ。
W杯アジア予選では両ウイングバックに「ウイング」を起用する超攻撃布陣だった。しかし、W本大会となると事情は違ってくる。特にノックアウトステージでは攻撃したくてもできないくらいの劣勢も想定しなければならない。
初の出場48カ国となる北中米W杯は、これまで以上に様々なレベルとの対戦になると予想される。ノックアウトステージはラウンド32から。比較的楽な相手になる確率は高くなるが、こればかりはその時にならないとわからない。いきなりスペインやフランスと対戦しないとも限らない。
前回のカタールW杯では、コスタリカ戦を除いて「ボールを持たないこと」に強みを見出す戦い方だった。しかし、レギュレーションの変化に伴って日本は攻撃的にも守備的にもなれる幅の広さが問われてくる。優勝するつもりなら、強豪国と対戦する最後の方はどうしても守備的にならざるを得ないだろう。
[3-4-2-1]システムは実質5バックの守備型から、予選でやったような攻撃型まで、幅広い運用がしやすい。4バックへの可変も含めると、少なくとも4つの戦い方ができるのが望ましい。予選の超攻撃型、ウイングバックの片側だけ攻撃型、4バック、そして押し込まれるケースでの5バック。
そのためにはCBとウイングバック、CBとSB、SBとウイングバックといった移動のできるDFが必要になるが、意外と日本は人材豊富なのだ。負傷から回復すれば冨安がその筆頭で、伊藤洋輝、関根大暉、橋岡大樹など変化に対応できる選手がいる。戦い方の幅を広げるにあたってのカギになる存在だろう。
「格と経験」ではなく「柔軟性とゲームビジョン」
かつて日本から欧州移籍するGKとDFはほとんどいなかった。基本的にサイズが必要なポジションだからだが、190cmクラスの選手が一気に増加したことでその問題はなくなり、近年は日本人GK、CBの欧州移籍も増加している。
さらに日本人CBが欧州の事情に合ってきたという背景もあると思われる。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
