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ジェレミー・ドクはなぜ止められないのか?ユース時代の恩師が語る“左右両刀”WGの覚醒秘話【前編】

2023.12.12

9月2日の新天地デビューから即レギュラー争いに参戦し、11月にはクラブ月間MVPも受賞。3冠王者マンチェスター・シティの一員として早くも欠かせない存在となったのが、今夏レンヌから移籍金5550万ポンド(推定)で加入したドクである。今やプレミアリーグ屈指のドリブラーとして脚光を浴びる21歳(2002年5月27日生まれ)は、いかにして育成されたのか。ロンドン在住のオランダ人記者アルトゥル・レナール氏が、ユース時代にドクを指導した母国の恩師2人、U-16・U-17ベルギー代表の監督と10歳から所属した古巣アンデルレヒトのアカデミー責任者を取材。その証言を基に成長の軌跡を追ったルポを前後編でお届けしよう。

「両ウイングをこなせることが、将来のためになると言い聞かせてきた」

 ジェレミー・ドクの即戦力ぶりには目を見張るものがある。決して言い過ぎではないだろう。今夏にフランス1部のスタッド・レンヌからマンチェスター・シティに加入したウインガーは、ビッグクラブ移籍が初めてなら、もちろんプレミアリーグも初挑戦。年齢も、まだ21歳。それでいて、選手層の厚さでも最強レベルの移籍先で先発が当たり前になってきた。フル出場で1ゴール4アシストを記録したのは、第11節ボーンマス戦(6-1)。第13節リバプール戦(1-1)、続くトッテナム戦(3-3)といった今季上位対決でも、得意のドリブルをはじめとするクオリティをプレミアのピッチ上で示していた。

 相手DFが手を焼かされる一因は、ドクが単に利き足でゴールを狙うだけの逆足ウインガーではない点にある。シティでは前述の3試合を含め、その左ウイングでの出場が大半を占めてはいる。右利きの本人が好むポジションでもある。だが、10代の頃から招集されているベルギー代表では、右サイドでの先発も珍しくない。例えば、9月半ばにホームでエストニアから大勝(5-0)を収めたEURO2024予選。3トップの右サイドで先発したドクは、逆サイドで試合を終え、1アシスト以上のインパクトを見せていた。

 その一部始終をスタンドで見守りながら、微笑まずにはいられなかったであろう人物がボブ・ブロウイェスだ。U-16代表とU-17代表時代の監督は、「ジェレミーには左右両ウイングをこなせるようになることが、彼自身の成長と将来のためになると言い聞かせてきた」のだと言う。

 「同世代の中で一番の才能の持ち主だということは一目でわかった。だからこそ、その才能を伸ばす一方で、自然とできてしまうこと以外に少しずつ取り組ませることも必要だった。しばらくは右足の威力が発揮できる本来の左サイドでプレーさせてから、右サイドでもプレーさせるようにした。最初は北アイルランドとの一戦。まずは本人を説得することから始まった(苦笑)。若いうちは、試合で誰よりも活躍したいから『自分のベストポジションでプレーしたい』ということになる。最終的には、自分のためだということを理解してくれて、右ウイングで出場したあの試合ではゴールも決めた」

「ドリブラーだからといって守備を軽視させるわけにはいかない」

 そのブロウイェスも、ドクに最適なポジションが左ウイングであることは認めている。

 「7番のポジションでもよくやっていたけど、逆の左ウイングに戻した途端、才能が爆発した。凄かったよ。エデン・アザールの若い頃を思わせる部分もあった。ピッチ上での動きや、プレースタイルの面でも共通点が多い。エデンも右サイドでプレーした試合では、左サイドの時と同じように圧倒的な影響力を示すことが難しかった」……

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アンデルレヒトイングランドジェレミー・ドクプレミアリーグベルギーベルギー代表マンチェスター・シティレンヌ

Profile

アルトゥル レナール

欧州を股にかけ、サッカー界の人間ドラマを描く新進のオランダ人フリーライター。きっかけは18歳での渡英。2015年に改めて拠点をロンドンに移し、祖国の『フットバル・インターナショナル』誌や、『ガーディアン』紙、『フォーフォートゥー』誌といった英国メディアの他、『フランス・フットボール』誌などにも寄稿。

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