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「己超(おのれごえ)」を体現する若武者たちの胎動。愛媛FC・深澤佑太、谷本駿介、石浦大雅の蹉跌と成長

2023.10.27

掲げた「己超(おのれごえ)」というスローガンの元、2年ぶりとなるJ2復帰への道を着々と突き進む愛媛FC。勝負の終盤戦を前に、チームはラストスパートを掛けるべく、その爪を研ぎ続けている。そんな今シーズンを戦っていく過程で、大きく台頭してきた3人の若武者の存在を語り落とすことはできない。深澤佑太、23歳。谷本駿介、22歳。そして石浦大雅、21歳。中盤でトライアングルを組む彼らの成長は、そのままこのグループの成長と過不足なく重なっている。その流れを教えてくれるのは、愛媛FCとともに生きる松本隆志だ。

脚光を浴びるのはチームの中心で形成するトライアングル

 現在、J3リーグで首位をひた走る愛媛FC。第32節終了時点で2位に勝ち点7差をつけ、2年ぶりのJ2復帰への視界は良好と言って良い。

 チームは決してタレント軍団というわけではないが、今季ここまで12得点を挙げるエース・松田力や元日本代表・森脇良太らJ1で実績を残してきた選手も複数在籍。それら豊富な経験値を持つベテラン、中堅選手らがチームのベースを引き上げた功労者であることにも変わりはない。

 しかし、いまの愛媛を語る上で外せないのは成長著しく台頭する若手の力。今季チームがスローガンとして掲げる「己超(おのれごえ)」のごとく、自らの殻を破って躍動する若武者たちこそ、今季の愛媛を象徴する存在だと言えるだろう。

 脚光を浴びるのはチームの中心で形成するトライアングル。ダブルボランチの深澤佑太と谷本駿介、トップ下の石浦大雅の3人だ。

 深澤と谷本は今季Jデビューを果たしたばかりの大卒ルーキーで、石浦もプロ4年目ながら21歳とまだ若い。それら才能は経験の浅さゆえに開幕時点では未知数なモノだったが、今季中盤で突如として花が開いた。

“サブ組”の3人が生み出した大きな化学変化

 大きな転機となったのは第20節・松本山雅FC戦。チームは試合終了間際の得点で辛くもドローに持ち込んだものの、試合を通じて防戦を強いられる苦戦を演じていた。すでに首位に立っていた愛媛はその時点で7試合負けなし。順調に勝ち点を積み重ねていたが、その一方で後手に回る展開が続いていた試合内容に停滞感を抱いていた石丸清隆監督は翌節、アウェイのFC岐阜戦で大きな勝負に出た。先発8選手を交代。平均年齢22.73歳の若手中心の布陣で臨んだ試合でピッチ中央に立ったのが深澤、谷本、石浦の3人であった。

 「紅白戦をやってもチームとしての戦術行動はサブ組の方が取れていた」(石丸監督)

 ほぼBチームの選手中心で臨んだその一戦で見せた選手のプレーぶりは指揮官の言葉の通り、今季チームが掲げる間髪入れずにアクションを起こし続ける“ノンストップ・フットボール”そのもの。最前線から石浦が激しくチェイスし続けて相手を追い詰めれば、深澤、谷本のダブルボランチは巧みに相手選手の間でボールを受け、果敢に前を向いてはチャンスメイク。中盤のユニットが活性化したチームはメンツが変わっただけでなく、水を得た魚のように戦いぶりも大きく様変わりしていた。

 その翌節には当時7試合負けなしだった好調・ガイナーレ鳥取相手に続々とゴール前に縦パスを差し込んで相手守備陣を蹂躙。敵将・増本浩平監督も「相手のボランチがうちのスペースを見つけ、嫌なところでボールを引き出して中にボールを通された」と無名ボランチの躍動を敗因に挙げるほどの輝きを放った。

J3・第21節FC岐阜戦からダブルボランチでコンビを組む深澤佑太(上)と谷本駿介(Photo: EHIME FC)

 それまでの愛媛は試合内容は苦しくとも際の部分での勝負強さを発揮することで堅実に勝ち点を積み重ねてきたが、結果に内容が伴ってきたチームは悲願のJ2復帰に向けて新たなフェーズに突入したことを予感させた。……

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愛媛FC深澤佑太石浦大雅谷本駿介

Profile

松本 隆志

出版社勤務を経て2007年にフリーへ転身。2009年より愛媛FCを中心としたプロサッカークラブの取材活動を始める。サッカー専門紙エルゴラッソ、サッカーダイジェスト等へ寄稿。ライター業とともにフォトグラファーとしても活動する。

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