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可変システム全盛の時代に不変の[4-3-3]を貫く“サッリ・ボール”の狙いと、今季不調の要因に迫る

2023.09.26

チーム分析から紐解くポジショナルプレー#7

現代サッカーの主流な戦術的アプローチの1つとなっているポジショナルプレー。ただ、採用しているチームであっても実際にピッチ上で実践しているサッカーには差異があり、その実像を理解するのはそう簡単ではない。そんなポジショナルプレーの実像を、具体的なチームの分析を通してらいかーると氏が紐解いていく。第7回はラツィオ。ポジショナルプレーの大家グアルディオラが唯一指揮を取っていないイタリアの地で、ポジショナルプレーを駆使して旋風を起こしたスタイルと、昨季リーグ戦2位と躍進しながら今季はスタートダッシュに失敗した要因を探る。

 ボール保持による試合支配をメインコンセプトとするチームで結果が出せることを、世界中に証明したグアルディオラ。「ボール保持」を捨てることが「結果への近道」でもなんでもないことが示された世界は、少しだけの「生きにくさ」と「ボール保持による試合支配」にチャレンジする大義をサッカー指導者に与えることとなった。その結果、ボール保持による試合支配に挑み敗れた者たちの「墓標」が世界中に出来上がったのだが。

 グアルディオラの次にボール保持で結果を残した監督、それがマウリツィオ・サッリだった。ナポリを率いて華麗なボール保持によるサッカーを披露。完全なゾーンディフェンスでのプレッシングは世界を驚愕させた。

 大事なのは「グアルディオラ以外で」というところだろう。現代のサッカーはクラブの大小にかかわらず、多くのチームがボールを保持することを試合の一部として認識している状況となっている。これはボールを保持するサッカーで結果を残し、バルセロナ、バイエルン、マンチェスター・シティのようなビッククラブでなくでもボール保持が可能であることをサッリが証明してみせたことが大きいように思う。

 そんなサッリはナポリからチェルシー、ユベントスとビッククラブを経てラツィオにたどり着いた。就任2季目となった昨シーズンはセリエAで2位フィニッシュ。2023-24は鎌田大地をチームに招き入れたことで、日本からの注目度も高まっている。今回はポジショナルプレー連載の1つとして、今季のラツィオを取り上げていく。

ボールを動かして相手を動かす派閥

 ボールを保持するサッカーの中にも様々な流儀が存在している。例えば、“ビルドアップの出発点となる選手をオープンな状態にすること”を、ビルドアップの最初の目標としているチームは多い。オープンな状態のCBを作れば、その位置からボールを運ぶことも飛ばすことも、あるいは相手を引きつけることもできる。そのために様々な可変式を仕込むことで、相手とのかみ合わせを狂わすことは世界中で行われており、今や最もポピュラーな策と言ってもいいかも知れない。

 そんな中にあって、ナポリ時代から時が経ってもサッリのサッカーに大きな変化はない。ボール保持の配置は[4-3-3]を基本とし、CBの間や横に中盤の選手が移動してくるサリーダ・ラボルピアーナはほとんど行わない。可変式が全盛の時代には珍しいと言えるだろう。サッリの中では、配置によるかみ合わせで時間とスペースを得ることよりも、ボール循環によって相手を動かして時間とスペースを得ることを重視しているのだろう。代名詞になりつつある、繰り返されるバックパスはサッリ・ボールの象徴だと言える。

相手を誘引するためのバックパス

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マウリツィオ・サッリラツィオ鎌田大地

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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