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ポチェッティーノのチェルシーに「辛抱」の二文字はない――経営陣に投じた“牽制球”【就任会見レポート】

2023.07.18

トゥヘル、ポッター、ランパードの下、無冠のプレミアリーグ12位(11勝11分16敗・38得点47失点)で2022-23シーズンを終え、ポチェッティーノにチーム再建を託したチェルシー。5月29日のクラブ発表から約1カ月、近年最大級のプレッシャーを背負いながら正式始動した新指揮官の就任後初となる記者会見を、山中忍さんが現地スタンフォードブリッジで取材した。

 「サッカーの世界に『辛抱』の二文字はない」――マウリシオ・ポチェッティーノは、7月7日に行われたチェルシーでの就任会見で言い切った。

 51歳のアルゼンチン人指揮官は、言わずと知れた元トッテナム監督だ。黒のスーツに濃紺のシャツという出で立ちも、3年前までのロンドン市内ライバル時代からお馴染み。会見に集まった報道陣の数は、チェルシーを黄金時代へと導いたジョゼ・モウリーニョの第2期就任時(2013年)や、クラブレジェンドが監督として帰還したフランク・ランパードの就任時(2019年)よりも少ない。それでも、ふさわしい人物が指揮を執ることになったと感じられた。トッド・ベーリーを中心とするコンソーシアムによる買収1年目となった昨季が、内容も結果も無様な無冠のプレミアリーグ12位に終わってから約1カ月半。チェルシー復活への希望を抱かせる新監督の発言だった。

「過剰な長期的スタンスは禁物」

 成功を収めた前オーナー時代の短期視野を思わせたという意味ではない。新経営陣が掲げる「長期展望」は、タイトルの他に若手、アイデンティティ、安定といった要素を含有する、前政権下とは異質の成功を目指す上での重要なキーワードに他ならない。しかしながら、アメリカ人新オーナーに振り回されたと言ってもよい昨季は、序盤戦でのトーマス・トゥヘル解任とグレアム・ポッター抜擢から「プロジェクト」という言葉が多用される中で、チェルシーの「今」におけるチームの自信、使命感、そして責任感が弱まる悪影響を生むことになった。

 その点、ポチェッティーノは言っている。

 「チェルシーではスタートと同時に結果を示さなければならない。過剰な長期的スタンスは禁物。仕事やプレーの中身に固執すべきでもない。そういう面でも良い仕事をすることはできる。チームとしてのスタイルや文化うんぬんに関しても。だが当然、それ以前に勝つことが求められる」

 自らが体現者となり、精神面でチームが失ったものを植え付け直すことのできる指揮官だと見受けられた。

 その自信のほどは、初会見での第一声から明らかだった。就任要請に応えた理由に関する最初の質問に答える前に、「まずは歓迎に対するお礼を申し上げる。今日の会見を通してお手柔らかに願いたい。会見に応じる義務はないので、いざとなれば途中で放棄することもできるのでね」と、余裕のジョークで始めている。

 チェルシーでの使命に関しては「勝利」だと繰り返し、「短期的にも期待に応えるだけの戦力があると思っている」と語った。スカッドの人員削減とクラブ財政の収支改善が優先される夏に、予想以上に主戦力と経験値が失われているチーム事情にもかかわらず、である。

 2年前のCL決勝でピッチに立った優勝メンバー計14人で残っている選手は、チアゴ・シウバ、リース・ジェイムズ、ベン・チルウェルのDF3人しかいない。キャプテンとして優勝トロフィーを掲げたセサル・アスピリクエタ(アトレティコ・マドリー入り)も、決勝の1点を決めたカイ・ハベルツ(アーセナル入り)も、貢献度は随一だったエンゴロ・カンテ(アル・イテハド入り)も、新体制の正式スタートを待たずに去っていった。アカデミー卒業生で、攻撃センスとハードワークの両面でポチェッティーノ向きと思われたメイソン・マウント(マンチェスター・ユナイテッド入り)も。

「ロッカールームや練習場を仕切るのは監督なのだから」

……

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イングランドチェルシートッド・ベーリープレミアリーグマウリシオ・ポチェッティーノ

Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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