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「日本で一番の練習をしたい」指揮官の徹底。“献身”と“実直”に貫かれた東京ヴェルディのいま

2023.06.03

東京ヴェルディが好調を続けている。第18節終了時点での順位は自動昇格圏内の2位。昨シーズン途中で就任した城福浩監督の元、チームはキャッチーでわかりやすいフレーズを掲げながら、グループ全員で成長することを目指している。ただ、もちろんそれだけで結果が出るほど、J2は甘いリーグではない。いまのヴェルディを貫く“献身”と“実直”の理由を、上岡真里江が真正面から描く。

徹底的に植え付けられた守備強度=『リカバリー・パワー』

 開幕から8戦無敗だった2022シーズンに続き、今シーズンも東京ヴェルディは開幕から第7節まで4連勝を含む5勝1分1敗とスタートダッシュに成功した。

 特に圧巻だったのが、昨年6月の就任と同時に城福浩監督が『リカバリー・パワー』というフレーズを掲げて徹底的に植え付けてきた守備の強度である。ボールを奪われた後の攻守の切り替えスピード、強度が試合を重ねるごとに浸透し、昨年はシーズンのラスト6試合をわずか1失点の6連勝でフィニッシュ。そこに、今年はさらにハイプレス、ハイラインにチャレンジし、最終ラインを敵陣近くまで上げ、できるだけ長い時間相手陣内でゲームを進めるというスタイルで、開幕から7試合で1失点、第18節を終えた時点でリーグトップの9失点と、堅守を最大のストロングに戦い、2位につけている。

 相手陣内でサッカーをするためには、前線から効率良くロジカルな強プレッシャーをかけ、高い位置でボールを奪わなければならず、ラインも高く保たなければならない。その分、攻撃の選手にも強度の高い守備が求められ、ラインが高い分、相手に裏をとられた時には守備陣は長い距離を全力疾走で戻らなければいけないというリスクを背負う中、誰一人さぼることなくタスクを遂行しているのである。

 城福監督も、「チーム全体の守備意識の高さが失点の少なさに表れていると思います。失点数が少ないというのは、決してディフェンス陣だけでやれることではない」と、手応えを口にしている。

 とはいえ、ここまでのリーグ戦、順調に戦えているかといえば、決してそうではない。むしろ、アクシデントの連続だ。城福監督が今季副キャプテンに指名し、キャプテンの森田晃樹とともにチームを牽引しながら、守備の要としても大きな期待を掛けていた谷口栄斗が開幕2戦目で故障。さらに、プレー面でも精神面でもチームの主柱だった梶川諒太、新加入ながら中心的存在を担っていた齋藤功佑、林尚輝が次々と負傷し、それぞれ長期離脱中なのである。

 直近でも、開幕戦から守備の大黒柱を担ってきた平智広が第15節のFC町田ゼルビア戦で故障と、台所事情は非常に厳しい。特にセンターバック、インサイドハーフと、離脱者が同じポジションに偏ってしまっていることが、より一層指揮官の頭を悩ませている。

町田戦でピッチに座り込むDFリーダーの平。76分に交代を強いられ、戦線離脱を余儀なくされた(Photo: Takahiro Fujii)

 それでも、ここまで連敗は一度のみ。「おそらく、人間、困った時に一番新しい発想が生まれると思う」(城福監督)とポジティブに捉え、本来のポジションではない選手の起用や、1人の選手が試合中も含め、2つ、3つのポジションに対応していく形をとりながらも、戦い方を変えず、10勝3分5敗、勝点33と勝点が積み上げてこられたのには、しっかりとした裏付けがある。

「日本で一番の練習をしたい」という日常の意義

 一番の要因は“日常”だ。城福監督は事あるごとに「日本で一番の練習をしたい」と口にする。

 「スタジアムのピッチで表現できるものは、日常の練習場のピッチでやっていることしかできない」との考えのもと、毎日の練習内容、技術精度、集中力はもちろん、芝生状態や食事環境の整備、そして何よりもインテンシティの高さを徹底的に求め続けてきた。その中で、試合にも匹敵するほどの高いインテンシティの練習に全力で挑み、チームのために高いパフォーマンスを出せた選手こそが試合メンバーとして週末のピッチに立つ。試合が終われば基準はまたフラットに戻り、次の試合へ向けた新たな鍛錬と競争が始まっていく。

 毎週その繰り返しなのだ。そのスタンスは、ケガ人がいようが、いまいが一切変わることはない。だからこそ、選手たちも「次こそは!」と、常に新たなチャレンジとして挑めており、また、全員が全力でぶつかり合うからこそ、チーム内競争を勝ち抜いてゲームのピッチに立つ選手を心から認めることができている。

 その空気感こそが、主力が続々と離脱する困難な状況に陥ろうが、チームが大崩れしない鍵なのだ。城福監督は次のように紐解く。……

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東京ヴェルディ

Profile

上岡 真里江

大阪生まれ。東京育ち。大東文化大学卒業。スポーツ紙データ収集、雑誌編集アシスタント経験後、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田の公式ライターを経て、2007年より東京ヴェルディに密着。2011年からはプロ野球・西武ライオンズでも取材。『東京ヴェルディオフィシャルマッチデイプログラム』、『Lions magazine』(球団公式雑誌)、『週刊ベースボール』(ベースボール・マガジン社)などで執筆・連載中。

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