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守備でアジアを制した浦和。スコルジャ監督の組織構築とGK西川の技術体現に迫る

2023.05.26

5月6日に開催された運命のACL決勝第2戦。本拠・埼玉スタジアム2002でアル・ヒラルを迎え撃った浦和レッズは48分にセットプレーから手にした虎の子の1点を守り切り、2戦合計1-2で6年ぶり3度目となるアジア制覇を成し遂げた。ボール支配率が70%を超える前回王者の猛攻を耐え抜いたチームの守備組織と、決定的な3本のシュートを止めたGK西川周作の技術に、浦和番記者のジェイこと沖永雄一郎氏が迫る。

 「チームのストラクチャー、構造の部分を維持すること。いついかなる状況でも、選手それぞれが何をすべきか把握しながらプレーできること」

 4カ月前に行われた就任会見の際の、マチェイ・スコルジャ監督の言葉である。最後の質問者となった私の問いは、「監督にとってゲームを支配する、コントロールするとはどういうことか?」というもの 。当時はサッカーのスタイルというよりも、もう少し幹となる話だと思っていた。ただ、アジア王者を手繰り寄せることができた大きな要因は、この言葉を実行できたことにあったのではないか。

ACL決勝第2戦、アルヒラル戦でコーチングエリアから指示を送るスコルジャ監督(Photo: Getty Images)

 合計スコア1-2でアル・ヒラルを下した浦和だったが、相手を明確に上回っていたわけではない 。高い技術と身体能力を備えたタレントを擁するアル・ヒラルにボールを取り上げられ、アウェイでもホームでも長い時間を自陣で過ごすことになった。ただ、チームの構造を維持し続け、組織で守ることをほとんどの時間で達成できていたことから、ゲームを支配していたのは浦和だったという見方もできるのではないか。

 浦和は今季J1でここまで、12試合で11失点と堅守を誇っている。新体制の初陣2試合で加減が定まらなかった第1節と第2節、ACL優勝直後の第10節というエクスキューズのつく試合を除くと、複数失点を喫していない。以前のキャンプレポートに記したように、まず守備から取り組み、多くの時間を割いてきた成果が発揮されている。

人海戦術も過去の話。ミス以外は危なげなかったゾーン守備

 今季の浦和の守備をありていに呼ぶと、ゾーンディフェンスということになるのだろうか。発せられる言葉や当初の印象よりもハイプレスと呼べるアクションは少ないが、ミドルプレス、ローディフェンスのいずれも、連動した[4-4-2]守備が構築されている。

 「常に隣と斜めの位置で、並ばないこと」

 「大事なのは味方の位置とボールの位置」

 これは沖縄キャンプの初回プレス練習で送られていた指示だが、守備ブロックの高さに関わらず重要な項目だ。ACL決勝2試合を通して、浦和はこれをやり切った。味方と繋がり、常にチャレンジとカバーが連動する。同じようにボールを握られながらも、個々の頑張りと人海戦術により何とか守り倒そうとしていた2019年とは明らかに違っていた。

 2トップは攻撃方向を限定して横断を極力許さず、サイドハーフは勤勉に上下動と逆サイドへの絞りを繰り返す。ダブルボランチは前線・サイドと繋がり 、一方が前に出れば斜め後ろに位置取る。そして安易に持ち場を離れず、埋めるべき場所と判断を間違えない両CB。アル・ヒラルに油断や過密日程の問題があったとはいえ、強力アタッカー陣に『事故』を起こさせなかった。

 逆に言えば、失点とピンチのシーンは崩されたというよりも、浦和のミスによるものだった。1stレグの失点は、明本考浩がミシャエウにあまりにも軽く突っかけた(あの大舞台でそうしたプレーができるのはすこぶる頼もしく、だからこそ彼は浦和のレギュラーをつかんでいるとも言える)ことに、西川周作とアレクサンダー・ショルツのお見合いが重なったことによるものだった。

ACL決勝第1戦、アル・ヒラル戦のハイライト動画。当該のシーンは0:54から

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マチェイ・スコルジャ戦術浦和レッズ西川周作

Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。

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